第十二話
「何すか?」
口調が自然と雑になってしまう。
「自転車の防犯登録確認と、所持品検査にご協力いただけませんか?」
職務質問か。仁木が言っていた県警刑事部の監視が頭に浮かんだが、やましいことは何もない。
「構いませんよ」
一斗は自転車のスタンドを掛けると運転免許証をを見せた。
免許証の写真と一斗の顔を見比べ、無線で照会を掛けている。
「ありがとうございます。最近グミやタブレット菓子に似せた薬物も増えているので、できたらポケットの中の物を見せていただいてもよろしいですか?」
話していない方の警察官はさりげなく一斗の背後に移動し、挟み込むようにしている。
ゴネたところで時間の無駄だろう。面倒なので全てを見せた。もっとも、診察券や学生証の入った財布と目薬、スマートフォン、モバイルバッテリー、アパートと実家の鍵くらいしか持っていない。処方されている目薬以外は誰でも持っているものばかりだ。
「G大学に通っているんだ、優秀なんだね。ところで、組犯の仁木巡査部長とはお知り合いですか?」
財布に入れた仁木の名刺を見つけたらしい。
「ええ、別に親しいわけじゃないけれど」
「一応確認してもよいですか?」
「どうぞ」
散々偉そうに言っておいてこれで連絡が付かないなら文句のひとつも言いたくなるが、すぐに確認が取れたようだ。
「お時間を取らせて申し訳ございませんでした」
一斗は十五分もかからず解放された。
自転車を漕ぐ気になれず押してアパートに向かう一斗は何とも言えない違和感を感じていたが、その正体が分からないまま部屋に着いた。
「本当に何も無かったんだな?」
仁木は電話で、柊木に職務質問をした自動車警ら隊の二人に訊いていた。
「はい。財布の縫い目まで確認しましたが、報告したもの以外は何も所持していませんでした」
帰り際に、有希子が柊木に何か渡したような気がしたが、後ろを向いていたため確信が持てなかった。そのため同僚のツテを使って急遽職務質問をかけさせたが何も出なかったようだ。
まあいい。柊木には二十四時間体制の監視が付いているはずだ。動きがあれば分かるだろう。
「分かった。手間を掛けさせてすまなかったな。借りはいずれ返す」
仁木は通話を終えると覆面パトカーのシートにもたれた。警察にとって、今のところ柊木は脅威ではないだろう。だが、そう遠くないうちに真実の欠片を手にする可能性はある。県警が全ての証拠を最高機密にしたのは事件の一ヶ月ほど前から。それ以前に持ち出された証拠が無いとは言い切れないし、県警が気づいていない証拠があるかもしれないからだ。
今日の出来事から、柊木は何かおかしいと思い始めているはずだし、全てを話しているとも限らない。記憶の一部が戻っている可能性もある。
死んだ三人の住所や固定電話の番号を調べあげ、すぐに訪問もしているところなど、行動力があり頭も切れそうだ。ただのガキだと舐めてかかると、面倒なことになるかもしれない。




