悪役勇者が今日もパーティから有能な人材を追放する訳〜魔王を倒した勇者、平和になった世界を旅しながら、パーティで不要となった人材を拾い育てる。今更俺の価値に気づいても遅い、そこに俺は居ません
【勇者】が魔王を倒したことで、世界に平和が訪れた。
これは、世界を救った勇者の、その後のお話。
◇◇◇
「【サポカ】、てめえをこの勇者パーティから追放する!」
場所は、冒険者ギルドの酒場。
俺……勇者ルイ・ワイルダーは、サポカに向かって、そう言い放ったのだ。
「つ、追放!? どうしてですか、勇者さま!?」
サポカは訳を聞いてくる。まあ、そうだな。
突然の追放宣言なのだ、驚くのは当然。
「理由はただ一つ! てめえがこの俺、大勇者ルイ様のパーティに、ふさわしくねえ役立たずだからだよぉ! ひゃはは!」
……ちょっと強く言い過ぎたろうか。
いや、いいんだ。
これくらいで。
俺は、優秀なサポートの能力を持つサポカを追放する、悪役の勇者なのだから。
「役立たずって……どういうことですかっ」
「言葉通りの意味だぜ。てめえの持つ補助魔法が珍しかったからよぉ。仲間に入れてやった。けど! てめえは最近、何もせずただ荷物持ちしてるだけじゃあねえか! サボりやがって! ええ!?」
ごめん、わかってるよ。
「せっかくこの俺様! 魔王を倒した大勇者さまがよぉ! 拾って鍛えてやったつーのに! てめえはサボりやがってよぉ!」
「ち、違います! ぼくは……補助魔法で、あなたたちを支えてました!」
うん、知ってる。
おまえが、実は補助魔法を使って、パーティを支えてくれていたことは。
でも、悪いな。ここは、知らないふりをしないといけないのだ。
「うるせえ! 第一てめえがのろまなせいでよぉ、パーティの回復役である、【エクス】が怪我するところだったじゃあねえか! なぁ、エクス!」
俺の隣は、アメジスト色の長い髪を持つ、メイド服の美女が佇んでいる。
彼女は、エクス。
このパーティの回復役の女であり、【勇者の所有物】だ。
俺は、知ってる。
「ルイ様。サポカ様を責めないであげてください。わたくしがノロマなのがいけないのです」
「エクスさん……」
サポカが頬を少し赤らめてる。
俺は知ってるぞ、サポカ。おまえが、エクスに惚れてるってことはな。
だが、悪いな。エクスは、【勇者】のことが好きなんだ。
叶わぬ恋だぜ。諦めておくほうがいい。
「とにかく! てめえみたいなグズのせいで、こっちは迷惑してんだよ! 俺たちルイ勇者パーティは、魔王ギンヌンガガプを討伐したすげえパーティなんだぜ? てめえがいるとパーティの格が落ちちまうんだ。だから、てめえはクビ!」
10年前。
世界に魔王ギンヌンガガプが現れた。
それを討伐したのが、勇者とその仲間。
魔王を倒して10年が経った今、世界は平和を取り戻しつつある。
けれど魔物や、魔王軍の残党である魔族はいるし、ダンジョンも存在する。
だから、勇者はまだまだ、休めないのだ。
世界が完全に平和になったわけじゃあないからな。
「さっさとでていけ、サポカ! てめえなんてうちには必要ないんだよ!」
「で、でも、ぼ、ぼくを追い出したら、こ、このパーティ大変なことになりますよ!?」
うん、知ってるよ。
だっておまえが補助魔法で、俺やエクスの能力を、底上げしてくれていたんだよな。
だから、魔物を簡単に倒せていたし、エクスの回復量が増えていた。
補助魔法の効果がきれれば、俺の攻撃力は下がるし、エクスの回復量もまた減少する。
うん、知ってる。だからこそ。
「はぁあああああん!? 出鱈目いってるんじゃあねえぞ! てめえ、嘘ついてるな!」
「うそじゃあないです! 本当にぼくがいなくなったら、このパーティは崩壊します!」
まあな。
「あー、みっともねえみっともねえ! 自分が追い出されたくないからってよぉ、嘘までついてこの勇者パーティに居たいだなて。あーやだやだ。みっともねえ!」
ぎり、とサポカが歯噛みする。
……ちょっと言い過ぎだろうか。ごめんな、サポカ。おまえが優秀なのはわかってるんだ。
それに、こんなふうに努力を認めてもらえず、嘘つき呼ばわりされてさ。辛いよな?
わかるよ。でもな、これは……おまえのため。
そして、世界のためでもあるんだ。
「さっさと出ていきなサポカ! まあ? おまえがどーしてもこのパーティに残りたいんだったら、全裸で、今ここで! 土下座するんだったら、ま、考えてやってもいいぜえ?」
ぷるぷる、とサポカが怒りで肩を振るわせる。
うん、いい感じだな。
「わかりました! ぼく……出ていきます!」
よっし!
ミッションコンプリート!
これで、また一人有能な人材が、勇者パーティから巣立っていったぜ。
「おーおー、出ていけ。あ、そうだ。餞別として、てめえにあずけてたアイテムはよぉ、くれてやるよ!」
サポカの持ってる杖を、俺は指差す。
「もっとも? そーんな小汚い杖なんて、どーせゴミアイテムなんだし、なくても俺はぜーんぜん困らないけどなぁ! ぎゃーっはっは!」
ま、そのアイテム、ダンジョンの奥深い場所でドロップする、とっても貴重なアイテムなんだけどねー。
魔法力をなんと3倍にあげるアイテムだ。
しかも、それは仕込み刀になってる。武器にもなる優れものだ。
きっと、この先のお前の旅にも役立ててくれるだろう。
「さようなら、最低最悪の、勇者さん!」
「おーおー、出ていけ。じゃあな、無能のサポカ。ま、てめえは雑魚いからよぉ、決して一人でダンジョンに潜るようなバカなまねはやめとけよぉ、最低でも回復術師をつけてからもぐるんだぁな……って、いないや」
サポカはもう目の間にいなかった。
エクスが、はぁ……とため息をつく。
「ルイ様。最後ちょっと、説明口調すぎです。聞かれなかったからいいものの、さすがにあそこまで言ったら、なんでこの人こんな丁寧にアドバイスするんだろうって疑われてしまいましたよ?」
「あ、やっぱり? 難しいな……悪役って」
残されたのは、俺とエクスの二人きり。
補助魔法使いを失った俺の攻撃力は、大幅ダウンする。
そして、エクスの回復力もまた、低下する。
でもま、それでもなんの支障もないのだ。
だって、もとより俺の攻撃力なんてゼロだし、エクスは回復役ではなく、【勇者】の相棒なのだから。
「ルイ様。もう辞めましょうよ、こんな、周りくどいやり方」
言っても聞かないとわかっていても、エクスは俺にいう。
でも、俺の答えは決まってるのだ。
「いいんだよ。これが、一番効率いいんだ。それに、流行りだしな、追放もの。だから不自然って思われない」
……今この場で繰り広げられた光景は、どこでも見受けられる、ありふれたもの。
高ランクパーティのリーダーから、突然、追放を言い渡される。
追い出した後、実はそいつには隠れた才能があり、能力を発揮し大活躍!
一方、有能な人材を失った元パーティリーダーは、落ちぶれていく……
という、追放劇というものだ。
「これであいつも、立派な魔法剣士として、この世界の平和に貢献してくれるだろう。……【勇者】が望んだ、平和な世界に近づくわけだ」
「……あなたは、どうなるんですか?」
「俺? 俺はいいんだよ。俺の望みは、勇者の望みを叶えてやることだからさ」
……そう、俺、ルイ・ワイルダーは、本当の勇者じゃあない。
本当に魔王を倒した人物は、別にいる。
俺はただ、彼女の代わりに、勇者を演じてるだけだ。
勇者の願いを、叶えてやるために。
◇◇◇
俺の名前はルイ・ワイルダー。
種族はハーフエルフ。そして職業は……【魔法使い】。勇者じゃあないんだ。
俺はエルフの母と、人間の父の間に生まれた、ハーフだ。
でも、母は早くに死んでしまった。
父の顔は、見たことがなかった。
俺が生まれた時には、父は母と俺を捨ててどこかへいったらしい。
母が死んで、俺を庇ってくれるひとがいなくなった。エルフ族はあっさり俺を里から追放した。
途方に暮れる俺を拾ってくれたのが、異世界から召喚された女勇者、【ミサカ・サイコ】さんだ。
ミサカさんとは、話があった。
彼女と俺には【共通点】があったのだ。
大勇者ミサカさんに拾われた俺は、魔王を倒す旅に同行することになった。
色々あって、魔王は打ち倒された。
……でも、同時にミサカさんもまた、死んでしまった。
魔王は、勇者の命を犠牲にしなければ、倒せない相手だったのだ。
ミサカさんは死に際に、弱音を吐いた。
「わたし……ほんとうは、戦いたくなかったんだ……」
ミサカさんは異世界から召喚された勇者。
彼女は、普通の学生をやっていたらしい。
彼女は花が好きで、アニメや漫画が大好きな、普通の女の子だった。
でも、勇者として召喚され、力を与えられた結果、彼女は勇者として魔王を倒さなければいけなくなった。
「ねえ、■■くん」
彼女は、俺の【本当の名前】でよぶ。
「これで、世界は平和になる、かなぁ……」
勇者として戦うことを義務付けられた、彼女の言葉。
俺は、即答できなかった。
……難しいよ。魔王を倒しても、すぐには、世界は平和にならない。残党もいるし。
魔物やダンジョンが消えるわけじゃあない。
でも、俺は答えた。
「ああ! 必ず! 世界は平和になるよ!」
俺は、泣いていた。
戦いの嫌いな少女が、命を犠牲にしてまで魔王を倒しても、世界は平和にならないという残酷な事実に。
そう、ここは物語のなかじゃあない。
勇者が魔王を倒しても、エンドロールが流れるわけじゃあない。
人生は、続いていく。
巨悪を倒して平和に終わるのは、ゲームや漫画の中だけなのだ。
でも、いや。
だからこそ、俺は、決意する。
「俺が、勇者のかわりに、世界を平和にしてみせるよ」
ミサカさんは安心した顔で息を引き取った。
こうして、魔王を倒した本当の勇者は死んだ。
そして、魔王を倒したという功績を持って、俺……ルイ・ワイルダーは帰国を果たす。
魔王が死んだこの世界で、世界を平和にするために。
勇者の卵を見つけ出して、拾い、育てる。
勇者が一人だけだったから、あの子が戦わざるをえなかったのだ。
異世界から勇者を呼び出す必要があったのだ。
この世界に、勇者で溢れかえれば、きっと、ミサカさんのような悲劇はもう2度と起きないだろう。
だから、俺は勇者の仮面を被り、今日も、勇者の卵を見つけ出して、育成し、追放する。
世界が、勇者の望んだとおり、平和になりますようにと。
俺の恩人の願いを叶えるためならば、喜んで、悪役の汚名をかぶろう。
それが、勇者パーティのお荷物でしかなかった俺に、できる、最大限のことなんだから。
◇◇◇
さて。
サポカを追い出した後、俺たちには、やるべきことがある。
そう、追放劇おなじみの、あれだ。
「おい受付嬢」
冒険者ギルドの受付へと、俺とエクスは向かう。
「一番難易度の高いクエストを、出しな!」
弱体化した、というところを示す必要があるのだ。
なぜって? 追放劇とはそういうものだからだ。
有能なメンバーを追い出したことで、悪役は困る。
それにより、有能なメンバーの株が上がる。
追い出されたばかりのサポカは、パーティ追放された弱者というレッテルが貼られてる。
そのレッテルを少しでも早くとってやらないといけない。
そのためには、こうして追い出した側が凋落する様を、周りに見せておかねばならない。
相対的にサポカの株が上がるからな。
「……そこまでする必要があるのですか?」
と、エクスが小声で言う。
まあ確かにと思う。が。
「……追い出して、その後にあいつが潰れるようなことがあったら、今まで手塩にかけて育ててきた意味がなくなっちゃうでしょうが!」
だから、ちゃんとやつが追放された後、自らの力に覚醒し、周りから認められるところまで、面倒みてやらないとな。
でないと、自分がダメなやつって思い込んで、自滅してしまう可能性がある。し、実際そうやって潰れたケースもある。
「つーことでよぉ! 俺は今から二人だけで、難易度の高いクエストをクリアしてやるぜえ! サポカなんつー、雑魚がいなくてもよぉ、大勇者ルイさまはやってけるんだってこと、証明してやるぜえ!」
周りからの視線が、痛い。
ちっ、と舌打ちを普通にされる。
「……あれが本当に世界を救った勇者かよ」「……弱いものいじめしてだっさいわ」「……まじであいつ死んでくれないかな、調子乗っててうざいし」
おーおー、嫌われてる。
それでいいんだ。俺は、追い出されたやつらが輝くための、踏み台でいいのだ。
「…………」
受付嬢がジッと、俺を見てる。
「んだよ?」
「いえ」
周りの連中は、俺のことを蛇蝎の如く嫌っている。
まあ、俺がこうして悪役ムーヴしだしてから、10年が経過してる。
結果どうなってるのかは、周りの連中のリアクションの通り。
メンバーを追い出し、罵倒し、酷い態度をとった結果、めちゃくちゃ嫌われてるのだ。
が。
どうにも、この受付嬢の姉ちゃんは、俺のことを嫌ってる感じがしないのだ。
不思議とな。
「では、オークロードの討伐などいかがでしょうか?」
オークロードっていえば、Bランクの魔物。
ふむ。まあ、これくらいでいいか。
「おいおいおいおい。オークロードぉ? こんなのワンパンだぜえ? これ以上ランクの高い依頼はないのかよぉ?」
「ありません」
「ちっ! しけてんな」
追い出す側の人間は、性格が悪くないといけない。
でないと、周りから不自然に思われてしまうからな。
だから、こうして普段から、人から嫌われるムーブを心掛けないといけない。
「しゃーねえから、俺様がオークロードぶっとばしてきてやんよ」
ちっ、と冒険者たちから舌打ちされる。
「まじで死ね」「くたばれクソ勇者」「オークロードに食われてしまえ」
嫌われてる、俺。だが気にしない。なぜなら自分で望んで嫌われようとしてるからな。
心は痛まないのだ。
「お気をつけて」
あれ? 受付嬢が、そんなこと言ってきたぞ。
気をつけてだぁ?
なんでこいつ、俺のこと嫌ってないの? こんだけ嫌われるようなムーブしてるのに?
ま、いっか。
ということで、俺はオークロード退治に向かうことにした。
街を出て、近くの森へとやってきた俺とエクス。
「で、どうするのですか?」
「そらもう見事にボコボコにされないとな。んで、その後に、サポカがオークロードを倒す。これによって、サポカの株があがるってもんだ」
追放劇ではお馴染みの光景である。
これをすることで、サポカが実はすごいやつ!? と周りに知らしめることができるわけだ。
「それ、必要なんです?」
「必要なの。俺の目的、知ってんだろ? エクス」
勇者を、育て、一人前にして卒業させること。
「もっとこう、勇者たちの学校を作るみたいなことをすればいいのに」
「個別指導のほうが効率がいいんだよ」
「だとしてもこんな、ルイ様が傷つくようなことしなくてもいいのに」
エクスのやつが、悲しそうに目を伏せた。
こいつは俺のそばで、ずっと、俺の悪役ムーヴを見てきた。
俺が人から嫌われ、罵られる様を、ずっと見てきて……思うところがあるんだろう。
こいつには心があるからな。
「いーのいーの」
ミサカさんの代わりに、勇者の仮面を被るって決めた時点で、こうなる覚悟は完了させてる。
だから、心は傷つかないんだよ。
「さてっと……」
俺は目を閉じながら、魔法を発動させる。
【鳥瞰】の魔法。
文字通り、上空から周りを見渡す魔法だ。
「お、いたいた」
「オークロードですか?」
「おう。そっちもだけど、サポカのやつもだよ」
オークロードはこのまま進んで行った先にいる。
サポカは森の入り口のほうにいた。
二人の、ちょうど中間地点へと俺は向かう。
その一方で、植物の魔法を使い、森の木々の位置を動かして、オークロードとサポカをバッティングさせるように誘導。
「無駄に高度なことしてますね……無駄に」
「無駄って言うな。必要なことだから。お、きたきた」
オークロードがまずお出ましだ。
この5分後くらいに、サポカがこの場に現れる予定である。
「しゃあ! オークロードちゃん、俺様の経験値となりなぁ!」
俺は魔法……ではなく、剣で戦う。
無謀だ。
俺の職業は魔法使いだ。
当然、物理的攻撃力なんて皆無。
それを、サポカの補助魔法でブーストしていたおかげで、Aランク相当の力を出していたのだ。
そう考えると、サポカの補助魔法はやっぱりすごいことになる。さすがは勇者の卵だけある。
「いっくぞぉおお! ずえええええい!」
俺は剣を使ってオークロードに攻撃。
かつん!
もちろんノーダメ。
「ブボォオオオオオオオ!」
オークロードが俺のことをぶん殴る。
痛いのは嫌だ。
だから痛覚遮断の魔法をかけておく。
「ひぎゃぁああああああ!」
思い切りぶっ飛ばされながら、俺は悲鳴を上げる。
痛みは魔法で切ってるのでない。
俺の悲鳴がサポカに届くように、風の魔法を発動させる。
風に乗って、サポカに俺と、そしてオークロードの声が届くように向けた。
鳥瞰魔法発動。よし、やつめ、こっちにくる。
いいぞ。勇者とは、困ってる奴を助けるもんだからな!
「あ……ルイさん……」
サポカ登場だ。
「サポカぁ! てめ、何しにきやがった!」
「……自分で誘導したくせに」
ぼそ、とエクスがつぶやく。シャーラップエクス。
「こいつは、はあはあ、俺さまの獲物だぁ! 手ぇ出すんじゃあねえぞ!」
「ブボォオオオオオ!」
オークロードが追撃。
もちろん俺は攻撃を受ける。
ゴロゴロ転がって、無様に泣き喚く。
「ちくしょおお! どうなってんだぁ! 急に攻撃力がなくなったぞぉ!? あんなやついつもなら、ワンパンなのにぃ! まるで、補助魔法がきれたみたいだぁ! まさかサポカの補助魔法がないからこうなってるのかぁ!?」
エクスが死んだような目をしていた。
俺の演技そんなにダメ……?
「! あぶない、エクスさん!」
おっと、今度はオークロードがエクスに攻撃をしかけたぞ。
もちろん、あの女は軽くオークロードを倒せる。
なにせ【勇者】の相棒なのだから。
しかし、サポカはそのことを知らない。
か弱い乙女に、魔物が襲いかかってる。そう見える。
ほら、絶好の覚醒のチャンスだろ?
「ぼくが、助けないと! でもどうやって……」
ああくそ、手間のかかるやつだな!
「ちくしょぉおおお! いつもの身体強化の補助を、俺さまによこせ! まさかとは思うが自分にかけるんじゃあねえぞお!?」
はっ、とサポカが何かに気づく。
「そうか。自分に補助を掛ければ!」
そうだ、そいうことだ!
他者にかける、とつい思ってしまいがちの補助魔法。しかし自分にかけるという選択肢をとることで、やつは、自分の可能性にきづく。
前に出て、戦う才能が、おまえにはあるってことを。
「身体強化!!」
そうだ。サポカ。それでいい。
あとは、もう描写するまでもない。
身体能力を向上させたサポカが、オークロードを見事に撃退してみせたのだ。
「はぁ、はぁ、すごい……自分にこんな力が、あるなんて!」
いいぞ、サポカ。自分で気づくことが重要なんだ。
自分で気づいたことは、一生忘れないからな。
あれから数日後。
俺は宿屋に居た。
「よっし、そろそろ出て行くかな!」
俺はあれから……何度か同じムーヴを繰り返した。
何度も、無謀にも魔物に戦いを挑んで、返り討ちに遭う。その繰り返し。
それによって、『勇者って実はサポカの魔法が会ったから強かったんじゃね……?』という噂が広まった(エクス談)。
相対的に、サポカの補助は凄い! ということが周りに広まっていった。
「これで彼は自信をつけたようですね」
と、エクス。
「自信も付けた、チカラも十分。もう、これで大丈夫だろう」
よいしょ、と俺は立ち上がる。
きちんと卒業させてやれて、俺は晴れ晴れとした気分だ。
一方で、エクスの表情は暗い。
「…………」
「なんだぁエクス。そんな顔すんなって。俺は大丈夫だからさ」
こいつは優しいやつだから、俺が周りから酷いこと言われて、傷ついてるっておもってるんだろう。
「街を出る前に、うめーもんでも食ってくかぁ……」
と、そのときだった。
「勇者さま! 開けてくださいませ!」
宿のドアが激しくノックされる。
エクスが扉を開けると、あの、ギルドの受付嬢がいた。
「どうした?」
「サポカさんが、ダンジョンから帰ってこないんです……!」
……話を聞いたところに寄ると……。
どうやら、昨日サポカは一人で、最近できたばかりのダンジョンに潜ったらしい。
「一人……だと? 回復役は?」
「つけてないです。つけなくても、自分はやれるんだって……」
ああくそ!
あのバカ! あいつは確かに凄い魔法剣士の才能がある。
攻撃魔法、補助魔法、そして剣術の才能がだ。
しかし回復魔法については、他の才能と比べると、まだまだ。鍛錬が必要となるレベルだ。
あいつ……自分の力を過信しやがったな!
「お願いです、勇者さま。どうか彼を……将来有望な勇者の卵を、どうか……お助けください……」
「………………」
言われなくても、やってやる。
俺はエクスを見やる。
「やるぞ」
「はい」
「おい受付嬢。さっさと出て行け」
受付嬢があっさり引き下がる。
……くそっ。色々ツッコみたいことが山ほどがあるが……。
今はそれより、弟子を助けるほうが先決だ。
「武装化!」
エクスの体が光り輝く。
彼女の体が人間から……一振りの剣へと早変わりした。
俺はその黄金に輝く剣を手に持つ。
「空間転移!」
この剣のスキル……【空間転移】を発動させる。
これは、行ったことのある場所へと、転移するというスキルだ。
通常なら、できたばかりのダンジョンの中には、転移できないだろう。
だが、そこは工夫で乗り切る。
俺は弟子の魔力を探知する。
ここから、かなり離れたところの、ダンジョンの最下層に、サポカがいることを捕らえた。
そう、探知できた。
行ったことが、ある。だから……!
「転移!」
剣のスキル、空間転移を発動。
宿の部屋から、一瞬で、サポカのもとへと飛ぶ。
「バボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
目の前には巨大なミノタウロス。
5メートルは超える巨体だ。
その前では、血だらけのサポカが倒れている。
無謀にも、この迷宮主に戦いを挑んだんだろう。
「う……うう……」
まだ息がある。が、すぐに治療しないと、サポカは死んでしまうだろう。
「ブボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「うるせえ、消えろ!」
俺は魔法を発動させる。
「煉獄業火球!」
極大魔法を、発動させた。
巨大な炎の塊が、ミノタウロスの上空へと出現。
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
極大の炎がミノタウロスを消し炭にする。
あとには、何も残らない。
ふぅ……。
そして、倒れているサポカへと向かう。
「……ぁ、んで……」
「寝てろ。【睡眠】」
俺は眠りの魔法をサポカにかける。
がくんっ、と彼が気絶する。
あとは回復魔法をかけてやった。
「これでよしっと」
まあ、これだけ痛い目にあったんだから、もうこんなバカなことはしないだろう。
「手間かけさせやがって……ったく……」
俺はサポカを負ぶる。
そして、片手で剣を握って、スキルを発動させようとする。
「…………ごめん、なさい」
寝言か。
まあ、いいよ。
「今度は、おまえがこうやって、だれかを助けてやるんだぞ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《サポカ視点》
……その後、ぼくは目覚めると、ダンジョンの外にいた。
ダンジョンはいつの間にか消滅していた。
「……勇者、さま……?」
ルイのやつ……いや、勇者さまの姿はどこにもなかった。
ぼくは……覚えてる。
彼が、ぼくの前に一瞬で転移して、迷宮主を倒してくれた。
……ぼくを、助けてくれたんだ。
「どうして……?」
「サポカさん!」
受付嬢さんがこちらへと走ってやってきたのだ。
「受付嬢さん……」
「良かった! 間に合ったんですね、勇者さまが!」
受付嬢さんも安堵の息をつく。
「今、勇者さまって……」
「わたしが頼んだんです。勇者さまに、サポカさんを助けてって」
「!? そんな……どうして? あの人は、弱いのに……」
自分で言って、でも……首を振る。
いや……あの人は、本当は弱くない。
だってミノタウロスを一撃で倒して見せたじゃあないか。
「あの御方は、本当はお強いんです。5年前もそうでした」
「!? ご、五年前……?」
「はい。あの人は昔も、この街で冒険者としてやってました。そんときも、あなたのような、未熟で、しかし未来ある若者を育てておりました」
!?
ぼ、ぼくを……育ててた?
で、でもそれなら……色々合点がいく。
僕に選別をくれたり、ぼくに……補助魔法の使い方を、教えてくれたりした。
それに……さっき、ぼくを助けてくれた……。
「あ、ああ、ああああああああああああああああ!」
ぼくは……ぼくは、なんてバカなことを!?
あの人は……ぼくを育てようとしてくれてたんだ!
「勇者さまぁあああああああ!」
ぼくが、叫ぶ。でも彼は答えない。もう……どこにもいない。
会って……ちゃんとお礼を言いたかった。
ぼくを育ててくれて、ありがとうって……。
でも……彼は、もういない。
遅すぎた。気づくのが……遅すぎたんだ……!
「う、うう……ううぅう……」
ぼくは後悔した。
ちゃんと、育ててくれて、ありがとうって……言ってたら……。
そのとき、ぼくの脳裏に、彼の言葉が思い起こされる。
……今度は、おまえがこうやって、だれかを助けてやるんだぞ?
「……わかりました、勇者さま」
ぼくは立ち上がり、目元の涙を拭う。
そうだ。
彼が、こうして優しくしてくれたように、だれかに優しくしよう。
困ってる人が居たら、助けてあげよう。
そう……あの人のように。
「その意気です。さ、帰りましょう」
「はいっ!」
……こうして、勇者ルイは旅立っていった。
ぼくは……これから、彼のような立派な人間になろうって思った。
そしていつか……彼に会ったときに言うんだ。
育ててくれて、ありがとうって!
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
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