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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マイルールで世界を取れる可能性がある事を僕以外は誰も知らない

作者: 昼咲月見草

「横断歩道の白い線以外、踏んだら地獄落ちな!」


 

 言いながら僕の隣で信号待ちをしていたランドセルをしょった男の子の集団が駆け出した。

 多分、歩道と車道の間に引かれた白いラインの上も、彼らは日々勝負しながら歩いているに違いない。

 何との勝負か?


 もちろん自分との、だ。


 おそらく多くの人は、それを子ども時代の単なる遊びとして認識しているだろう。

 だが僕は知っている。

 それは、実はただのごっこ遊びなんかではないのだ。



ー鑑定ー



 僕は前を走る子どもたちの集団を鑑定した。

 僕だけが、なぜかこの世界で僕だけが持っているらしいスキル、鑑定。


 10歳の頃、交通事故で大怪我をして死にかけた僕はこの能力を手に入れた。


 それはまるでゲームやアニメの中の能力のようで、僕はしばらく、世界の秘密を手にした勇者のような気分だった。


 だがそれも、この能力で見られる真実をはっきりと認識するまでのことだ。

 なぜか。

 この鑑定能力で知った事実。


 それは、この世界の誰もが鼻で笑って軽蔑するようなものだったからだ。



『スキル:マイルール』



 人間は、誰でもこのスキルを所持している。

 それは、マイルールに定めたものからエネルギーを得られる、というものだ。


 それはいい! 

 そう思うだろう。


 だがそうでもない。


 このマイルール、基本がゲームでの勝利で得られるものなのだ。


 そして、ゲームについては決まりがないが、得られるエネルギーについては個人差があり、細かく決まっている。




 例えば、さっき駆け出した少年たち。

 彼らの中には、某有名RPGにハマっている子がいる。

 彼は、そのRPGの戦闘で得られた経験値を自分のエネルギーに変えられる。

 そのエネルギーとは、家族の体内に侵入した毒素を無効化する、だ。


 彼の家族は非常に健康的な人生を送る事ができるだろう。

 食品添加物も怖くない。

 だが即死級の毒はエネルギーポイントが足りなければ無効化不可だ。フグとかハブとかトリカブトとか。


 まあそんなものは普通に生きていれば全く意味がない。

 きっと彼の先祖は身分の高い毒殺の危険性がある人物だったのだろうが、今は時代が違う。

 毒殺とか科捜研が出てきてあっという間に檻の中だ。



 さて他の子も見てみよう。



 例えば、集団から遅れてやる気なさげについていくあの少年。

 彼は基本ゲームをやらない。

 彼の趣味は音楽鑑賞だ。特にクラシックをよく聴く。

 彼の才能の欄には、演奏によって音楽の持つ力を引き出す、とある。

 おそらく指揮者とかピアニストとか、そっちの方に行けば芽が出るだろう。


 まあそんな可能性はカケラもないが。


 音楽の道に進んで失敗した父を持つ母子家庭の彼には音楽の習い事など無縁のもので、しかも父を反面教師とした事で将来の夢は公務員だ。

 でなきゃ資格をとって公認会計士。


 このまま才能が埋もれていく事間違いなしの彼のマイルールは、ゲームに勝利すると奇跡を起こすエネルギーが溜まる、だ。


 ゲームなんて全く興味のない彼の周囲では奇跡など起こらない。残念。




 横断歩道をにぎやかに駆けていく少年たちを見送りながら、人生の虚しさをしみじみと感じていた僕に、背後から話しかけてくる人物がいた。



「やあ、田中くん。今帰りかい?」



 それは我が校の生徒会役員で、うちのクラスで1番もてる秀才、佐々木。


 普通ならここで「嫌なヤツと会った」と思うところだろう。

 だが僕は違う。

 なぜなら彼を僕は鑑定できるからだ。


 彼のマイルールは、『ゲームに勝利すると金運エネルギーが増える』というものだ。


 だが彼は、毎日懸命に勉強して、日々モテる男の研究をして、ゲームなんて一切やらずに全ての時間を意味のある努力に費やして、金運を得られる機会を棒に振っている。


 実に哀しい男なのだ。


 だから僕は、僕だけは彼に優しくしてやろうと決めている。



「佐々木くん、今日はずいぶん早いんだな。生徒会はいいのかい?」


「うん、今の時期はヒマなんだ」


「そうか。この後、何か予定はあるのかい?」


「いや、特にないけど」


「じゃあうちでゲームでもしないか」


「いや、ごめん。ゲームはあまり好きじゃないんだ。でも良かったら一緒に本屋にでもいかないか? 予約してた新刊が入荷したんだ」



 なるほど、やけにウキウキしてるのはそのせいか。


 僕はもちろん、一緒に本屋へ行く事を承諾した。

 付き合いって大事だからね、一応ね。




 賢い諸兄にはお分かりだろうが、ゲームで得られる力や能力があるなど、言っても誰も信じない。

 ゲームなんてそんなもの、くだらない意味のないものだからだ。


 

 本屋のあと、ファーストフードに寄る事にした僕と佐々木の横を、『世界的政治家になるエネルギーが溜まる』スポーツ少年が通り過ぎた。

 彼は野球選手になる夢があるので、ゲームをする時間があれば練習をしていたいタイプ。


 ファーストフードの隣の席にいたのは、『ノーベル平和賞を受賞するエネルギー』を持つ顔色の悪い社畜だった。

 スマホを片手にぺこぺこ頭を下げて、これからまた会社に戻ると話していた。

 彼の人生にはもう、ゲームをするヒマなど永遠に来ないに違いない。



 神様は多分、意味のないくだらない事に価値を見出しているのだろう。



 そうでなければ、価値のないこんな人間社会に期待をかけるなどあり得ないことだと、僕はいろんな人を見てきてそう思う。

 まあそれも、鑑定なんていうものを手にした僕の一方的な見方なのかもしれないが。



 え? 僕?


 僕のマイルールは、『ゲームに勝利すると事件や事故に巻き込まれにくくなるエネルギーを得られる』だ。

 おかげで、僕と僕の家族はこれまで一度も、事件や事故に巻き込まれたことがない。

 絶対に、とは限らないため、今日もこれから時間のある限りスマホの無料パズルゲームをやる予定だ。


 分かっていただけただろうか?

 僕がこの能力を誰にも、親にさえ言えない理由が。


 我が家の安全と平和を僕が守っている、なんて。


 まず父親に失礼だし、母親に心配をかけるし、うちの暴力姉は多分、僕をぼこぼこにした上で「出ていけ!」とか言うだろう。

 あのクソアマに人の心を期待してはいけない。



 スマホでニュースサイトを見ていた佐々木が顔をしかめた。



「また増税だってさ。困るよね、ほんと」


「そうだね」



 君の場合、ゲームをやれば問題は解決するよ?


 そう言いたいのを僕はぐっと我慢した。


 駅の改札口から出てきた綺麗なお姉さんは、職業風俗嬢。多分これから仕事。

 彼女のマイルールは『ゲームに勝利すると周囲に平和を呼び込む』。

 そんな彼女はスマホでゲームをするより明日の食費が気になる様子。



「汚い大人が世界を動かしてる。世界って理不尽だよね」


「そうだね」



 いい人生を送れるマイルールの持ち主は、そんなものなくてもしっかり能力を発揮できるし、世界を良くするマイルールの持ち主は、それが発揮できないほど困窮していたりする。



「本当に理不尽だね」



 改札を入って、僕と佐々木は上り線と下り線に分かれた。


 誰もが熱中して時間を忘れる、そんなゲームがあればいいのに。

 くだらない、意味のない、そんなものに時間を費やす。

 それが正義だと、そんな常識が受け入れられる日がくればいいのに。


 そう思いながら、僕は今日もスマホでゲームをする。


 家族や大切な人を守るために。どこからどうみても意味のない事を。








ー完ー









お読みいただきありがとうございます。


このお話は、ひだまりのねこ様のエッセイ『踏むか飛び越えるのか ~影のお話~』を読んで、子どもの頃を思い出して楽しくなって書きました。

ひだまりのねこ様に心からお礼申し上げます。


ありがとうございました!にゃあ(≧∀≦)!



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