リオアを調べ、海に揺蕩う有耶無耶
晩ご飯を食べる前、なんとなくリオアの動画配信をネットで調べてみた…。
リーダーさんからあんまり探り入れないでと言われたが、気になって調べたくなるのが、人間の性だ。
「うーん…?」
一つの動画を見つける、リオアの半年前の動画だ、ファンタジーフリーダムのダンジョンの攻略動画だ、リオアが槍を使って、敵を撃破していく…かなり慣れた動きだ、あれ?リオアて剣使いだよな…?
他の動画を見る、リオアの一ヶ月前の動画だ…限られた資金で調達した武器を投擲術縛りで戦うダンジョン攻略だ、指と指の間にナイフを持って鋭く投げるシーンはかっこいい…敵の攻撃も華麗に回避してスタイリッシュだ。
もう一つ動画を見つける、これはかなり最近だ、取っておきの武器で無双する!とタイトルがあり、武器のシルエットに?マークが描かれている…更に蜘蛛にバッテンマークが付いていて虫を討伐する動画のようだ…虫は嫌いなのでこれはスルーする。
しかしリオアはファンタジーフリーダムは1年半前からやっているみたいだ、それ以前は他のVRゲームの配信をしているみたいだ…。
うーん、晩ご飯の時間までリオアの動画を見ていたが、ダンジョンの攻略動画では動きが素早く、槍や剣、投擲物を巧みに使いこなす器用さがあるのがわかったくらいだった。
少なくとも、自分より圧倒的に強そうだ。
晩ご飯を食べた後は、調べ物せずにファンタジーフリーダムにログインする。
ユリのマイホームにたどり着くと、コートを着て、本を読んでたフェルが、出迎えてくれた。
「あ、本を読んでいたんだな、フェル」
「はい、少しは使える力を増やしたくて…」
「あーなら勉強の邪魔したか?」
「いえ、大丈夫です、また夏の所に行くんですか?」
コクリと頷くと、ふわりと水着に着替えてから自分の胸ポケットに収まるフェル。
再び同じ乱数値を入れて夏のイベントステージに降り立つ。
「あれ?なんか雰囲気違いますね」
「ここは時間の影響があるのか…?」
降り立った浜辺は、リアルタイムと同じ夜で静かながらも、神秘的で幻想的な雰囲気が醸し出している。
所々に光源になる光の玉が浮かんでいて、暗くて視界不良になることはない。
「ちょっと泳いでみて良い?」
「はい、泳ぎはおまかせします!」
ばしゃりと海に入り軽く潜る、海の底にも光る玉や光る石ぽい物があり、これまた幻想的だ…。
「凄いですね…」
「そうだな、のんびりと見ていたいな」
胸ポケットに入っているフェルが感動の声を上げる、そのまま頑張って潜って、海の底にある光る石を手に取った。
『光る石
ただの光る石、物作りには装飾程度にしかならないが、小さな照明や目印にはなる』
うーん、少し入手しておくか…大量に入手しても使い道がないだろうし、海の底を照らす明かりがなくなるのは、ちょっと怖いからな。
海の底から浮上して、力を脱いて海の上に浮かぶ、空は月と数多の星が浮かんでいる…。
「凄いな、この海の底と星空を見るだけでもここに来る価値はあるな…」
「そうなんですか?」
「ああ、綺麗な所は見たくなるからな…」
「綺麗な所ですか…」
静寂な時間が流れる…自分は有耶無耶にしていた話を切り出した…。
「なあ、実はここで活動をしていたら、あのオオムカデと戦った時に手に入れた、壊れた妖精門の鍵を直す為の材料が手に入りそうなんだ」
「な、直せるんですか!?」
「ああ、サブクラスもそれ用のクラスにしたし、レシピも持っているんだ…まあ、しっかり読み込んでないんだけどな」
フェルが直したいと言うまで読まないようにしていた、あのレシピは特殊で他と違うと思うし、必要になるまでは必要材料以外は読んでない。
「………直せるなら直したいです、レンナさんのならきっと、妖精門の鍵を使いこなせると思いますし…」
「そうか、直す時は力を貸してくれよな?」
「勿論です、あの鍵は私にとっても大事な物なのです」
「…なあ、はいかいいえで答えて欲しい、故郷に帰りたいのか?」
「…………」
フェルは答えない…。
「なんで答えれないんだ?」
「はいと言ったら、きっとレンナさんは私の故郷を目指そうとするはずです」
「まあ、そうだな、他に目的もないし…間違いなく目指すだろうな」
そう言うと、フェルは胸ポケットから出てきて、こちらの顔を覗き込む、その表情は不安に満ちていた。
「………それが嫌なのです…故郷を襲った化け物とレンナさんが出会った場合、確実に戦闘になります…きっとそうなったら…今のレンナさんでは確実に負けます、ユリさんに色々と教えてもらいました、レンナさん達を含めたこの世界のプレイヤーという存在は諦めない限り消滅しても、再び蘇るって…でもそれはこの世界の理…私達の世界では違うのかもしれません…それが怖いのです」
なにそれ?そういう設定だったの?この世界?
それにフェルの故郷て別世界という位置づけなのか?
しかし確実に負けるか…ウィンディーネの不意打ちとはいえ耐えられなかった身としては弱さが露呈してるので、反論の余地はない…。
それにゲームだから自分は死ぬことはないが、もしかしたらフェルの故郷内では復活できなくて、ユリのマイホームに叩き戻され、なおかつフェルの故郷である世界に行くには、フェルの存在が必須というのなら…死んで離れ離れになったら、確実に詰みだ。
そう考えるとフェルの不安を消す言葉が見つからない…。
そっと、人差し指でフェルの頭を優しく撫でた…。
「力不足だな…」
「そ、そういうことではないんです!レンナさんは強い装備を沢山生み出してるじゃないですか!ただ…戦いは…」
フェルの言葉が詰まる、これ以上のフェルの故郷の話をしてもネガティブになるだけだろう。
「そうだ、さっきかき氷を見つけたんだ、食べに行かないか?」
「え、あ…はい!」
急な話題を変えた事に驚きつつも、乗ってくれるフェル、フェルが胸ポケットに入った事を確認した自分は、かき氷が売ってる所に向かった。
フェル関連の話は結局、有耶無耶なままだ…ただ、鍵を直す方針にはなった…。
きっといつかフェルの覚悟が決まって、あるいは別の要因できっとフェルの故郷に向かう可能性があるかもしれない。
その為にももっと強くならねば…フェルを守れない…。