海と水中呼吸と水泳
『サマーステージに転送します、水着を確認しました、イベントポイントを獲得する時50%のプラス補正が付きます、またステータスにプラス補正が生じます』
水着によって発動したボーナスのアナウンスが流れた後、視界が真っ白にから元に戻ると、そこには雲入道雲が浮かぶ空色、小さな赤い蟹が横移動する白い砂浜、広大な海が眼の前にあった。
「うぉー、プライベートビーチみたいだ!」
人を殆ど見かけないのは、他のプレイヤーはここと同じ見た目の別のチャンネルにいるからだろう、人混みに苦しまなくて良いのは最高だな。
「これが…海ですか…」
海を眺めるフェルの目は、キラキラしていた。
「入ってみるか?」
「はい!」
チャプチャプと海の中に入ってみる、冷たくてゾクリと体がふるえる、胸ポケットに海水が入る位に、体を海に入れる。
「ひゃあ!冷たい!」
「泳いだ事ある?」
「無いです、だからちょっと怖いです…」
まあ、泳いだことのない、もしくは泳げない人にとっては足の付かない水場は怖いという感情を抱いてもおかしくない…。
自分も学校のプールで、25メートルまでしか泳いだことがないし、陸地住まいで海に入った事もないのでちょっと緊張している。
一応自分達の水着には、水中呼吸という効果が付いてるから、溺死はしないはずだ…でも足がつく場所にいる間に試しておきたい。
「すまん、フェル…水着の効果を確認したいからちょっと頭上に避難してくれないか?」
「水中呼吸の効果を確認するんですね、分かりました」
ふわりふわりと妖精の羽を動かして、自分の頭上に座るフェル。
「羽が濡れて飛びにくい…」
「そうなのか?頭から落ちないように気をつけなよ?」
そんな会話をしてから息を止めて、眼を閉じて、数歩歩いて、フェルがいる頭の所以外を海につかる。
恐る恐る口を開けてみるが、口の中に海水が押し寄せて窒息するということもなく、呼吸出来る事を確認した次は眼を開ける。
目を開けた先には綺麗な海の中を確認することが出来た、眼を保護するゴーグルがないのに目が痛くなることもない。
海の中に、いるけど呼吸が出来るという違和感はあるが、活動に支障はないようだ。
「おーい、フェル聞こえるか?」
「は、はい!聞こえます!」
ふむ、水中でも水中にいない人と会話が出来ると…。
「フェルも入ってみると良いよ、少なくとも溺死することはないよ」
「…わ、分かりました!」
フェルがそう言うとジャボン!と海の中に入ってくる…。
目と口を閉じていているがそれが恐る恐る開いていくと、すぐに眼をキラキラとさせて海の周りを見始めた。
「凄いです!水の中なのに呼吸が出来ます!」
「ほんと凄いよな…て、沈んでいってるぞ、大丈夫か?」
「え?あわわ」
ジタバタして浮上しようとするが、かえって海の底に沈むフェルを、手のひらで受け止めてる。
「むー泳げません…」
「暫く泳ぐ練習だな」
自分も泳ぐ練習をしたい…幸いここは敵が出ない場所みたいだし、他のプレイヤーも見当たらない、のびのびと泳ぐ事が出来そうだ。
イベントポイントとか集めて、報酬を手に入れるのがイベントのメインだと思うが、開催期間は長いし、それに自分は海を楽しみたいので、取り敢えず30分ほど、安全な場所で泳ぐことにした。




