ムシムシパーティ
「いやぁ!ムシ来るな!?」
探索して真っ先にあったのは、巨大なカマキリのような化け物だった、あのギョロッとした目が無理だ、逃げたい。
「クイックスラッシュ!エアロバースト!」
怯える自分とは裏腹に、淡々と慣れたようにカマキリを切り刻むユリ…なんで平気なの!?理解できねぇ…。
「あはは、安心して、Gとかムカデとかそういうのは出ないからね」
「安心できないよ!?蟻とか蜘蛛でもだめだからね!?」
傍から見ても兄の威厳が完全に死んでいるが、でも駄目な物は駄目なのだ…まあ、妹からしたらこの兄の弱点は見慣れている感じだが…。
「死んだらPCはすぐ復活できるけど、パニクって転んで死なないでね?因みにNPCは死んだら二度と出てこなくなるんだよね…恐ろしい世界よ」
「ならしっかり守ってくれ!?色々と不慣れで場違いなのは理解してるだろ!?下手したら一撃もらったら死ぬだろこれ!?レベリングなんて出来るのか!?というか最後の情報いる!?」
森に入る途中、他の人達を見かけたが、明らかにこちらを変な物を見る目で見ていた、それに他の人達はレザーアーマーや金属の胸当てなどしっかりとした防具を着ているのに、こっちは質素な服で寝巻きに見えてくる…。
シャベルを盾にして守りに徹しているが、心許ない…これ戦えるのか?という疑問すら湧いてくる。
「ほっ!はあ!ヘビースラッシュ!」
慣れた手付きで虫を刻むユリ、だが自分は攻撃していないからなのか、経験値は入ってこない、明らかに目的からズレているが、虫にシャベルなんて振り下ろしたくない、近寄りたくない、植物のモンスターはどこなんだよ!?
森の中のせいで、どれが植物系のモンスターなのかわからない…このままひたすら虫から逃げ続けるのかなと思っていたら、急に腕が固定されたかのように動かなくなり、それによって驚いた体は背中から倒れそうなったが、背中は地面にぶつかることなく、なにかに受け止められた。
「え、え!?ちょた」
理由もわからずにユリに助けを呼ぼうと思ったが、体が一気に引っ張られたので声が出なかった、運が悪いことにユリは眼の前の虫と戦っていてこちらを見てなかった、一瞬にしてユリの姿は木々に隠れて見えなくなる。
全く意味がわからない状況で混乱する、誘拐という言葉が頭をよぎったが俺は男だぞ!?あ、でも今は少女の姿してるんだった!?
高速で思考が動く中、首をなんとか回して引っ張られてる方向を見る、そこには………
自分より大きな蜘蛛の後ろ姿があり、白い糸が伸びていてその白い糸が自分の腕に巻き付いていた。
頭の中で浮かぶのは虫にお持ち帰りされて捕食される自分、ユリじゃなくても、誰かに届けば良いと願い、悲鳴を上げたかったが、全く持って声が出なかった…。
視界の左上の端にあった、自分の緑のバーの所に驚く人のアイコンが出現している、それが声が出ない原因だとなんとなく理解したが、レベル1の自分が出来ることはただ、持っているシャベルを落とさない様に、手を強く握ることだけだった…。
少なくとも引っ張られてる間、ダメージを受けてないのは不幸中の幸い…いや、地面に引きずられて大根おろしならぬレンナおろしになって、死んだほうがましだったのか…?
今の自分は、完全にファンタジーゲームではなくて、ホラーゲームをプレイしている感覚しかなかった。