守れずのリッチ
「恨めしい…恨めしい…守れる力を持ったものが…」
広場みたいに広い所に出た時に、声が聞こえた…人を恨む声が聞こえる。
「ボス戦始まったか!」
「……え、これはやばいかも」
ボス戦への気合を入れた瞬間、アッシュルさんから弱音ぽい声がこぼれた…え、なにがやばいの?
「弱き者を守る力…大事な人を守る力、愛する人を守る力…羨ましい…欲しい、欲しいいいい!!!」
なにもない所から黒い塊が出てきたと思えば一気に黒い風を吹き出し、黒い塊の何かがうねうねと人の形を作り始める、次第にそれは一部が白くなり、骨となり、王冠を被った骸骨の王みたいな姿になる。
待って、ネットで見たボスの画像と全然違うんだけど!?
『ナンバーボス:守れずのリッチが現れました』
「ごめん、レンナさん、これは私が追っかけてた数字クエストのボスなんだー…今まで探して見つからなかったのに、よりによってこんな時に出てくるなんて…フェルさんを巻き込んでしまいました…」
「そうなのか!?いやそれは仕方ない!それに探しててやっと見つかったという事は、チャンスなんだろう!?こっちの身とフェルは自分がなんとかするから戦闘に集中して!」
落ち込むアッシュルさんを励ます。
だけど考えたらやばい…このボスはアッシュルさんが戦う事を前提にした強さだよな…逃げと守りに徹しても、どれだけ戦えるのやら…。
「レンナさん、あのリッチ、私達を見ています!」
「よこせよこせ!ちからをよこせ!ああ!うらやましい」
フェルの声に反応したかのように、リッチが黒い風をこちらに飛ばしてくる、声からして正気じゃない!
「守る力を欲するならアッシュルさんの力の方がいいだろうに!」
そう叫びながら黒い風を回避する、その間にアッシュルさんはリッチに近付いて斧を振り上げた!
「貴様の相手は私だー!シガド!兜割り!」
ドガン!とアッシュルさんの全力の一撃が振り下ろされる、リッチが吹き飛んだと思ったら、リッチが魔法陣を展開して、消えたと思ったら自分達の眼の前に現れた。
「よこせよこえ、ちょうだえ、ぜんぶほし!」
「うわ!?なんでこっちばかり!」
おかしな声を叫びながら、自分の心臓…いや、胸ポケットに入ってるフェルに向けて骨の手を伸ばすリッチ、後ろに下がりながらもアースキーでリッチの骨の手を殴る。
「シガド!こっちを向けー!聖なる付与瓶!剛断ー!」
アッシュルさんが白く輝いた斧で攻撃を放つ、骨にヒビが入るが、すぐに再生されるのが見えた。
「な!?特攻の一撃を耐えるどころか、すぐ回復ー!?」
「うばうじゃまま!」
リッチの発した黒い風がアッシュルさんを吹き飛ばす、リッチは再びこちらを見た…完全にアッシュルに無関心だ…。
「もしかしてフェルを狙っている?明らかにフェルを見ているよな…」
「な、なんで私が…?」
「わかんない、力を欲してるのに一番非力なフェルを狙う理由がわからん!もしかして力は力でも魔力を欲してるかも?」
でもアッシュルさんも結構MP持ってたよな?なんか違う気がする!
「ああ、うらやま…守りたい…ああ!よこえ!ねぇあぁ!!!」
「来るな!」
「レンナさん!スピードアップ!パワーアップ!」
何度も何度もフェルに向かって手を伸ばすリッチ、フェルを狙う際は黒い風で攻撃せずに愚直に手を伸ばすだけだから、なんとかアースキーで骨の手を殴って対応出来るけど、いつ黒い風で攻撃してくるかわからなくて怖い…初撃はなんとか回避できたが、あれを何度も放たれたら確実におしまいだ。
「ほしい!ほほしいいいあ!こっちこおおおい!」
「嫌です!レンナさん助けて!」
「フェルが欲しい?ふざけんな!フェルは物じゃねぇ!うちの妖精に手を出すな!」
だああ!虫ほどじゃないけど気持ち悪い!ストーカーみたいに手を伸ばしてくんな!全力の突きを食らわせてもびくともしねぇ!
「いい加減にこちらを向いて話をきけー!アースブレイクー!」
リッチの背後からアッシュルさんが俺の数人のHPを消し飛ばしそうな一撃を放っても、リッチは高速再生して再びフェルに向けて手を伸ばす…しかしアッシュルさんの攻撃が響いたのか動きは遅い…。
「ここだー!シガドー!フェルは貴様の妻ではないー!!」
アッシュルさんがリッチに、タックルを食らわせて押し倒す。
「見ろ!貴様の妻の魂はここにあるー!」
アッシュルさんは白衣からボロボロのペンダントを取り出し、リッチに見せつける。
「あ……ああ………イ…オ…………ご……め…」
「もう眠れーイオさんはずっとずっと待ってますし、他の女に手を出したことに関しては素直に怒られてこいー」
ボロボロと、リッチが崩れ落ちて消えていく…倒した…のか?
『守れずのリッチを撃破しました、称号:大切な妖精を守る手を入手しました』
『称号:大切な妖精を守る手
大切な妖精を守る際、敏捷と器用にプラス補正が発生する。
敵が妖精に意識を向けるほどより補正が増える。』
システム画面が戦闘の終わりを告げる…生きた心地がしなかった……。