変人病の恐ろしさ
「…………わかった、キメラの血を持ってきてくれた礼だ、妻に会わせてやる」
物凄く渋々だが変人病になった少年の母親に合わせて貰うことになった。
2階に上がり、案内されるがままドアを潜ると…そこには異質な部屋だった…。
部屋は狭くその部屋の半分を占領していたのはベッド…ではなく巨大な水槽で、室内にはベッドなんて無かった…。
それだけなら物置か?と呑気な事をいえたかもしれないが…水槽に入っていたモノがそんな言葉を封じる。
水槽には成人女性の下半身と同じくらいの大きさの魚の尻尾…ボディ…そして水槽から飛び出ているのは鳥の羽…そしてその鳥の羽と魚の下半身を纏める上半身は人に近い体で…頭は間違いなく人だった。
「…あら、お客さん?すみません、今の私は起き上がれないので寝たきりでの対応になるわ」
少年の母親はこちらに気付くと、困った笑顔のようなものを浮かべた、寝たきりと言うか足が魚というか…言葉に詰まる。
「あ、えーとこんにちは…レンナです…旅の者です」
異形の姿になんと言えばいいのかなわからなくなった自分はひとまず自己紹介をする。
その時の自分の脳内に過ったのは、さっきまで戦ったキメラて…変人病の手遅れになった者じゃないよな?という考えだったが、今口にしてもトラブルしか招かないのは火を見るよりも明らかなので頭の中に留めておく程度にする。
「もしかしてペンタのお友達かい?嬉しいね、あの子にも友達が出来るなんて…」
ペタン…もしかして薬師モドキの少年の名前か?友達ではないんだが…まあ、否定せずに話を進めよう。
「…あの、その……そういう病気て発生率が高いのか?」
「え?…いえ、お医者さんの話ではかなり珍しい奇病らしいわ5年に1人居るか居ないかと聞くわ」
……良かった、ひとまずさっきまで倒していたキメラが元人である可能性は低そうだ。
「と、そうだ!なあ、これを飲んでほしい!今度こそ本物の薬のはずだ」
「また買ってきたのね…飲ませてもらうわ…」
父親から渡された薬を諦めた表情で飲む母親、父親の持っていた薬は魔術で偽装されただけの鎮痛剤だ、治るわけがない…もしかして、この人も中級レベルの鑑定系スキルを持っていたりするのか…?それとも何度も飲んでいるからうんざりしているのか?
「今度こそ…利いてくれ…」
「………」
効くわけがない…だけどそれを口にする勇気は自分には無かった…。
それに変人病の知識がない自分が下手なこと言えない。
フェルは無言でひっそりと母親の姿を胸ポケットに隠れながら見ている。
「…取り敢えず変人病に関して把握できたし…ペタンさんの調合見てきます…失礼しました」
「ペタンをよろしくね…」
頭を下げてそう言ってくる母親…なんだか死ぬ前提な口調でなんか嫌だ…。
ひとまずこちらも頭を下げて、ペタンの元に向かう。
一階に降りて、ペタンが入った部屋に入ると、ペタンは必死な顔で薬瓶を振ったり、それを釜に入れたりと作業している。
凄い集中力だ…邪魔する訳にはいかない。
邪魔しないように辺りを見渡していると、1冊の本が目に入る、その本を手に取ってみると、それは錬金術の本だった、ペラペラと読んでいると目の前にシステム画面が現れた。
『レシピ:錬金術用フラスコを手に入れました。』
あ、レシピを手に入れたけど、これって鍛冶におけるハンマーにあたる部分だけど、勝手にもらっていいのかな?そう思っているとペタンが悲鳴をあげる。
「ああああ!失敗した!後5回しかチャンスないのに!」
……どうやら既に半分のキメラの血を使ったみたいだ…このままだともっとキメラの血が必要になりそうだな…出来ればもうキメラとは戦いたくないんだが…。
「レンナさんレンナさん、錬金が失敗する理由がわかりました」
フェルの声にドキッとする、こっちがのんびり考えている間に錬金が上手く行かない理由を見つけたのか。
「失敗理由てなんだ?」
「道具です、彼の使っている道具かなり性能が低いです」
錬金術は専門外だから材料を用意するしかないと思っていたが…手伝えることが出来たな。