もしも失う恐ろしさと酒の恐ろしさ?
「また勝てなかった…いや、一太刀すら届かない…」
「まあ、悩みの乗った刃で斬られるほど俺の柔肌は高くないさ…いや違う、安くないさ」
何度か斬り殺されてユリのマイホームでリスタートしては、フェルを起こさないように工房に行ってはナナサカさんと決闘していた。
「なんというか今日は実りが少なさそうだな…」
「はい…なんか殆どのスキルが上がってない…」
「迷いがある状態でスキルレベリングしてもレベルが上がりにくいと噂で言われてたけど本当にそういうのがあるのかな…まあ、今日はここまでにしよう…闇雲に武器を振るった所で何かを守れる力を得られるというわけじゃないからな」
ナナサカさんはそう言うとストンと座り、缶ジュースを取り出すとこちらに向けて下から上に投げて渡してきた、キャッチをして見てみるとそれはお酒だった。
「こういう時は一旦飲むに限る!」
ナナサカさんはカシュ!ともう一本の缶ジュースを取り出して蓋を開けて飲み始める、ナナサカさんの飲んでる方はお酒じゃない、未成年でも飲めるジュースだった。
……好奇心でお酒を開けようとしたら『未成年は使用できません』と警告文がでてきた、無理やり開けようともしたが出来なかった。
あれか、投げるの間違えたというやつかな?
「あのーナナサカさん、これお酒で未成年だから飲めないんだけど」
「え!?……あ、投げるの間違えた…もう1本ジュース…ないわ、えーと…これ買っておこう、はい、これ飲んで一息つきな」
お酒を返すと、代わりにナナサカさんは缶ではなく、工房に置いてあった瓶詰めのなにかを渡してきた、鑑定眼で見てみる。
『美味しいエリクサー
飲めばHP、MP、状態異常が全回復する美味しいエリクサー、ただ美味しさの為に普通のエリクサーより倍の材料費がかかるようになった為、売り物とするにはとっても向かない、フルーツ牛乳味』
「あのナナサカさん?エリクサーをジュース感覚で飲ませるのはどうなんですか?」
「エリクサーなんて使ってなんぼだ、リダみたいに病気になって腐らせる方がよっぽどエリクサーがもったいないわ」
「病気てどういう事!?」
「うん?知らないのか、珍しい…ゲームの世界ではエリクサー病と言うのがあってな、わかりやすく言い換えると勿体ない病だな、強力な消耗品を出し渋る病だ、末期だと結局エリクサー使わずに終わるかえって勿体ない病だ…まあ、それは奢りだ、好きに飲んでくれ!」
「わ、わかった…」
ひとまずゴクリと美味しいエリクサーを飲む、フルーツ牛乳でとても美味しい。
「ぷはーやっぱりゲーム内で飲む炭酸ジュースはうまいな!」
ナナサカさんはあっという間に缶ジュースを飲み終えて、さっき返したお酒を飲み始めた。
というかゲーム内のお酒で酔えるのかな…?そういう状態異常にかかるとか?
「因みにレンナ殿の妹のユリ殿もエリクサー病だ、レンナ殿も亜種と言うか厄介な病気にかかっているようだがな」
自分が病にかかっていると言われてもびっくりする、少なくともエリクサーはまだ普段手にすることはないし、消耗品を出し渋る事はしてないはずだが…。
「病気てどんな病気なんだ?」
「うーんと…………ロスト恐怖症?」
なんで疑問形、というか思考時間あったから今作った感があるな…。
「……どういった病なの?」
「うーんと…大切な存在が傷付く、失うことを恐れて、極力セーフティなところに置いとくたくなる病だねーどんなにえぬぴーしーが強くなっても万が一がある、そうかんがえるとどうしても過保護に保守的にはしったうやまうだねー」
まって、ナナサカさんの言葉がだんだんとガタガタになってきてないか?
え?酔うの?いや酔うにしては早すぎないか!?
「ナナサカさん?酔ってます?」
「あはは、いくら状態異常が確定で掛かっちゃうパッシブ状態でもそんなよいたるしないよー」
あ、駄目だ、完全に酔っている、というか明らかに弱点的な事を自分で言っているけどいいのか、というかもしかして確実に酔うとわかってて飲んだの?なんで?
「ともかく!むぢゅかしいんだよ!守れなかった際はそぬ引退に繋がるし!下手な指摘をすると認識の差異で不和の切っ掛けになりゅ!かと言って放置は良くないし…つんだ!」
えーとさっきまでのナナサカさんの発言をわかる範囲で纏めて要約すると、自分がなっているロスト恐怖症は、万が一フェルが死ぬことを恐れて過保護になる病らしい、守れなかったら即引退に繋がるし、指摘された場合認識の差異で喧嘩になりやすく、かと言って放置は良くない…打つ手なし?
うーん、どうリアクションすれば良いんだ?
過保護なのはなんか否定できない、実際万が一を考えると過保護になってしまう。
「過保護て良くないよな…」
「でもきついよ、気の緩みで仲良いきゃらが消えたさいの傷はまじゅきえないから」
「…リジェネレート!酔ってる人の言葉は聞き取りにくい!」
「……は!?すまん、うっかり勢いでお酒飲んじゃった!」
シンクロの力で使ったフェルのリジェネレートが効いたのか、酔いの状態異常の効果時間が終わったのか、ナナサカさんが正気に戻る。
「えーと、さっきの話覚えてます?」
「ああ、かなり軽率な事を言ってしまったな…忘れてくれ」
どうやら酔っ払い状態は魅了と同じように記憶とかは残るみたいだ。
「…いや、ロスト恐怖症に関しては心当たりがあるから参考というかまあ、注意しておくよ」
「……言っておくけけど、俺の個人的な考えでは過保護なのは悪くないと思うけどな…油断して失うくらいなら過保護くらいが丁度いい…まあ、今日はちょっとそろそろ寝ないとやばいからログアウトさせてもらうよ…あーまさかうっかり酒を飲んでしまうとはな…寝不足か」
「未成年に酒飲ませようとするからだよ」
「システム的に飲めないとわかっていても悪ふざけも程々にしないとな…やりすぎたらリダに怒られちまう」
こうしてナナサカさんはログアウトしていった。
先程の酔っ払ったナナサカさんとの会話を思い出す………まあ、少なくとも夢幻の自分達と戦う時はもう少し気楽にいこう、フェルが死ぬ訳ないのは実際に体感したし…出来れば次はそんな殺られる事なく勝ちたいな…。
それになによりも過保護にされ過ぎるのは、フェルも嫌いそうだからな…もう少し優しさと過保護の境界線を見極めないとな…。
そう思いながら長く感じた1日が終わるのだった。