普段はしないお仕事時にプライベートの友達に会うほど気まずいものはない。
ウェイターとしてバイトゲームを初めて10分程が経過した。
結構お客さんが増えてきて対応が大変になってくる、というか他のウェイターは居ないのか?と思ってユリに言ってみたら、依頼というかゲームの都合だよバッサリ言われた。
厨房を良く見たらスタッフがほぼ居ない、厨房の広さと人数が明らかに釣り合っていない。
「そっちは大丈夫なのか?」
「こっちはまだまだ大丈夫、お兄ちゃんが大切にしている妖精の力で実質2人分の馬力があるからね」
どうやら厨房はユリの力とフェルの最適なサポートのお陰でまだまだいけるみたいだ、人数差でこっちのほうがきついのが本音だが、ちょっとお兄ちゃんらしさを見せたくなったのでウェイターきついという気分は飲み込もう、せっかくなら2人に出来る兄を見せたくなった。
「それじゃあ料理を持っていくぞ3皿だな」
「2往復頑張ってお兄ちゃん!」
「いや、1往復で十分だ」
二刀流のスキルを使うかの如く腕に料理が乗ったお皿を乗せる、左に2皿、右に1皿という状態だ。
二刀流関係ない?まあ、ほらバランス取るために必要なんだよ!
「お兄ちゃん大丈夫?ぶちまけたらそこでは依頼終了だよ?」
「任せてくれ!」
少しふらつくが、特に問題なく料理を運ぶ。
体は普段より小さくても半年ぐらいしっかりと使っていたから、これ位テクニカルな事は可能みたいだ。
「よし、これならもう少し効率化出来そうだ!」
さっきの雪合戦やテクニカルなボール叩きとは違い、ミス無く手応えを感じて気分が乗ってくる。
このままもっとウェイターとしてお客様に料理提供してやるぜ!と思っていたらお客様の入口のドアが開き、再びお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませー!お好きな席にどうぞー!」
「あーこんにちはー」
「え?」
目の前には大柄の男…いや中身はのんびりとした口調の女性のアッシュルさんが居た。
アッシュルさんの背後には他のプレイヤーがいた知らぬ女性1名だ。
「お?アシュー知り合い?」
「うん、鍛冶屋のレンナさんー、生産クラスだけどガンガンに前に出る前衛だよー」
「ちょ、え!?なんで他のプレイヤーがいるの!?」
「うんー?もしかして接客業は初めてー?こういうのは仕事のレベルが上がるとNPC以外にも他のプレイヤーも入ってくるようになるんだよー、前に係員のお仕事している時にデート中のレンナさんと会ってたでしょー?」
狼狽しているとアッシュルさんが説明してくれた…そう言えばそうだった、夏の時にフェルとデートしてダンスホールを借りる時にアッシュルさんが対応してくれてたんだった!
というかはずい格好見られた!?
「へーゲームでデートね…妬ましい…」
「はいはい、リアルの愚痴を聞くから席に座ろうねー」
「はー、好き!アシュー結婚して!」
「はいはいー寝言は寝ていってねーとりあえず席座ろうーレンナさん、注文決まったら呼ぶねー」
「は、はい…」
アッシュルさんをあだ名で呼ぶ女の子のプロポーズを毎度の事のようなテンションで受け流して、アッシュルさん達はフリーなテーブルに座った、ちょっとやりにくさを感じる…。
あの2人はどういった関係なのやら…まあ、距離感的に腐れ縁というか古くからの付き合いの親友みたいな感じがする。
「あのすみません…注文したいんですが」
「あ、ごめんなさい!今行きます!」
他の人に呼ばれてハッとする、今は給仕の依頼中だ、給仕しないと!
頭の中に浮かんでた物が給仕の依頼で思考の外に吹き飛んで、自分は給仕をするのだった。
■■
「……レンナさん、あの服装からして、かなり女サイドに落ちてきたなー…」
「へ?あのプレイヤー女性じゃないの?」
「いやー私と同じランダム作成の犠牲者だよー外見女の子でも中身は男性だよーだからああいった服を着るのに抵抗ありそうなんだけどなー」
「嘘でしょ……あーでも女の子に近い見た目の男の子かーそんなのが現実にいたら婿に欲しいわー」
「仮にそんな子がいてもー、貴方が触ったら逮捕されて、獄中で過ごす羽目になるよー?」
「私そんなに近寄ったら通報されるほど悪人顔に見える!?」
「妄想している顔は割と悪人だよー?」
アッシュル達はそんな会話をしていたが、レンナの耳に届くことはなかった。