謎のドワーフ
「そこの人間止まれ」
ドワーフの街に入り、早速エアデのお父さんに報告しようと歩いていたら見知らぬドワーフに呼び止められた。
そのドワーフの声は年老いた感じで、見た目は自分と同じ位の背丈で、煤だらけのエプロンを着ていた。
「なんですか?」
「お前鍛冶屋だな?」
ジロジロとこちらを品定めをするように見てくるドワーフ、なんで見ただけでわかるの?いや、まあゲームなら相手の実力を見抜くスキルとかありそうと言えばそれまでだが…一応聞いておこう。
「なんで分かるの?」
「その背中に背負ってるシャベルと剣、君専用にかなりカスタマイズされている…そして手だ、手が鍛冶屋の手をしていた…」
「成る程…えーとそれで何か御用ですか?」
「お主、ドワーフの技術に興味はないか?」
「…興味はあるけど、そういうのは余所者に教えたらだめな秘伝じゃないのか?」
「駄目じゃない…ただ生半可な実力者がやって、それをドワーフ式と広められて、ドワーフ技術に傷が付くのが困るが実力があるやつに伝授するなら問題ない」
淡々とこちらの質問に答えるドワーフ…なんだか怪しさも感じるがドワーフ技術か…気になる…。
「なあ、フェル、ヴォルゲ…このドワーフさんから話を聞きたいんだが時間いいか?」
「私はいいですよ」
「見学していいなら僕も構わない」
「お主等は鍛冶屋ではないな…まあ、妖精も天使も見学すればいい…」
そう言って、謎のドワーフは1つの工房みたいな所に入る、自分達もついていくように建物の中に入っていった。
建物の中は何でも高レベルな設備があるチームゼロオーダーの工房とは違い、本当に鍛冶特化の工房で鍛冶設備に関してはゼロオーダーの工房より広く大きかった。
「1つ聞いていいですか?なんで会って間もない自分にドワーフ技術を教えるんですか?」
「教えたいからではだめか?」
「駄目じゃないです、個人的は興味あったし…」
「ならそれでいいではないか、まずは黙ってみていろ、手本を見せる」
謎のドワーフはそういうと鍛冶設備を操作する、すると金床に真っ赤に熱された金属の塊が流れてくる…ここはチームゼロオーダーの工房と同じなんだなと見ていたら、謎のドワーフがハンマーを振るい始めた!
「バトルエンチャント!」
ドワーフがそう叫びながらハンマーを振るうと、熱された金属がみるみると剣の形を成していく!非現実的な速度で変形していく金属におおー!と声を出してしまう。
「完成…」
あっという間に剣を作り上げるドワーフに凄いと声を漏らすと、眼の前にシステム画面が現れる。
『バトルエンチャントが教導されました、実践して習得しましょう。』
教導てなんだ?知らんシステムが出てきたぞ?と思っているとドワーフが話しかけてくる。
「次は試してみろ…お主なら出来るはずだ」
そう言って金床の前に立つように促される。
「…フェルやってみよう」
「そうですね!やってみましょう!」
「ぬ?妖精もやるのか…?」
謎のドワーフは目を丸くする。
「はい!私達は2人で共同作業します!」
「もしかしてそれが妖精式か…?」
「…妖精式とは言えないけど、自分達なりのやり方です」
「ならばやって見て欲しい、妖精式とドワーフ式が合わさったらどうなるか見せて欲しい」
こうして、突発的に鍛冶をする事になった。
鉄の剣を作る材料はあるみたいだが…。
鍛冶設備や材料を見ていると2つ気になるものを見つけた。
1つはドワーフの鍛冶設備は強化時に素材を2つ設定できるということ、もう1つは資材置き場の端に置いてあった、茶色いインゴットだった。
『ドワーフインゴット
ドワーフの技術を持って作られた合金インゴット、生半可な技術や力では加工出来ないが、加工できれば強力な力になるのは間違いない』
「あの、これ使っていいですか?」
茶色のインゴット…ドワーフインゴットが凄く良さそうに思えて、ドワーフに聞いてみる。
「…駄目だ、それを練習用に使うのは許さん…だが今背負ってる武器に強化素材として使うのならいいぞ…初めての技術を武器に施すならその度胸を買って譲ろう」
挑戦を叩きつけるかのように条件を突きつけられた、火光かアースキーの強化素材になら使って良いとの事…。
ならバトルエンチャントを試すついでに火光を強化するか!
「分かった、背負ってる武器の強化素材としてインゴットを使わせてもらう」
「ほう…自信家だな」
でも強化素材を2つセットできるならもう一つセットしたいな……。
「ねえ、ヴォルゲ…なんか天界でしか手に入らないような素材とか持ってない?」
「え、急にそんな事言われても………フン!……は、羽ならあるけど」
ヴォルゲはそういうと羽を1枚取り出した。
『天使の羽
天界に住む天使の羽、新しいほど神聖な力が宿っていて極めて高価に売れる、この羽は産地直送、これ以上の鮮度はない、素材にするならすぐに使用したほうが良い』
「ヴォルゲさんの羽?」
「そ、そうだよ!なんだかんだ色々と手伝ってもらっているからこれくらいしたほうがいいかなと思ってね!2枚目欲しいとか言うなよ!我慢したけど結構痛かったからな!だから失敗するなよ!」
フェルの言葉に取り繕うヴォルゲ…天使の羽を素材にするのはどうかと思うけど、神聖な力が宿っているなら素材として申し分ないし、鮮度も最高みたいだ。
「ありがとう、ヴォルゲが身を削ってくれたのは無駄にはしない」
天使の羽を受け取る、素材はドワーフのインゴットと天使の羽でセットして、強化武器は火光に決める。
さらに呪血鍛冶の特殊効果で自分の血を注ぐ!
「フェル、準備はいいか?」
「はい!火光を最高にしましょう!」
スタートボタンを押して、火光の強化を開始した!