フェルとレンナ
「フェル!」
「ひぃ!?誰ですか!?」
………昨日まで共に戦って、恋愛感情まで向けてくれたフェルから目に見えて恐怖の感情を向けられるのは中々に精神ダメージがでかい…。
「えーと、自分は……レンナだ、君に届け物をしにきた」
「届け物…?人間が……私に?」
目に見えて警戒している…どうやって警戒を解けば良いんだ…?
「……ああ、これを届ける為に刀神もどきを倒してきたからね、ほら、ナナサカさん覚えてる?」
「刀神…?何言ってるんですか?神様がそうポンポンいるわけないじゃないですか…ナナサカて誰?」
うん、会話ミスった、フェルは自分関連の記憶を全ての失っているのだ…自分が側にいる時の記憶の話は役に立たない…。
「…届け物てなんですか?」
「薬だ、長い期間の空白の記憶があるだろ?それを思い出す薬だ」
そう言って胸ポケットにしまっていた赤いタブレット薬を取り出す…ナナサカさんの体との戦いで胸ポケットに強い衝撃を食らったが、薬は無事だった。
「思い出す薬…?その禍々しい薬が?何で出来ているんですか…?」
……材料はフェルの血ですと言ったら間違いなく飲んでもらえなくなるのは間違いないので、言葉を選ばないといけない。
「ごめん、自分が作った訳じゃないから材料の詳細はわからない」
「…誰が使ったかもわからない、貴方の事も知らない、薬も怪しい…そんなもの飲みませんよ…」
駄目だ、全然警戒が解けないフェルはネージュフラワーを手に警戒している…ネージュフラワーから氷のエフェクトが出ているが…壊れたんじゃないのか…?あの空間だと使えなかっただけか。
どうすれば…なにか、なにか…フェルが自分の事を信用してもらえるんだ?いや、1つだけある少し賭けになるが試してみよう。
「自分の事を知らないか…例え君が忘れたとしても、装備は忘れないよ」
「どういうこと…?」
「よく見てよ、貴女が持っている杖を…じっくり鑑定するように…」
そういうとフェルはネージュフラワーを凝視する…。
「え!?」
驚きの声をあげた…どうやら上手く鑑定眼が発動したみたいだな、共鳴の試練の結果フェルが得た鑑定眼のスキル、記憶は忘れてもスキルは残っていると思ったが残ってたみたいだな。
「次はコートを、そして左手に人差し指に身に着けた指輪も鑑定するように見て欲しい!」
ああ、フェルの武器、ネージュフラワーもフェルの防具、白雲の外装にも、更にアクセサリーの妖精と鍛冶屋の指輪にも!共通した物がある!
それは鑑定眼を使えば、3つともフェルとレンナが共同で作った事が鑑定眼の説明に書いてあるのだ!
「…………嘘でしょ?待って、私こんなの作った覚えないよ!待ってそれに貴方のつけている指輪…同じ?え?ま、まさか結婚指輪…?」
「まって、流石にそこは飛躍しすぎている、確かにペアリングで大事な誓いを立てた指輪だが」
「誓い…婚約…?…………うう、頭が…痛い……」
あかん、逆にフェルを混乱させてしまったか?
「すまん、欠けた記憶を無理に思い出そうして頭が痛むのか?肩貸そうか?」
「いえ、大事です…」
フェルの体がふらついている…心配だ。
「…その薬を飲めばこのもやもやは晴れるんですか?思い出そうとしても思い出せない…この苦しみから開放されるんですか?」
「ああ、自分が知る中で一番知識が凄い人に調達してもらったんだ、効果は保証する!だから信じて飲んで欲しい!そしてお願いだ!自分の事を思い出して欲しい!」
赤いタブレット薬を瓶から取り出して、フェルに差し出す…。
フェルは薬を受け取ると意を決して飲み込んだ!
「う、口の中が怪我したときみたいな感じ…うぐ…」
……材料に血を使ってるからかそんな味になるのかな?とにかくお願いだ!効いてくれ!
「あ、あぐ…頭が割れるように痛い!」
「フェル!?HP回復薬だよ!飲んで!」
HP回復薬を差し出しても両手で頭を抱えて苦しみ続けるフェル!
ああ、リーダーさんの薬は失敗作なのか!?もしそうだったらナナサカさんに今回の事を言って決闘でボコってもらおうか!?
いや、それよりもどうすればフェルの苦痛を紛らわせるるんだ!?アースキーの効果じゃ肩代わり出来ないのかよ!
「フェル!頑張ってフェル!」
頭痛のせいか飛べなくなっているフェルを両手で受け止めて、呼びかける。
「蜘蛛…ウィンディーネ…セイレーン…リダさん、ナナサカさん…ユリとリオアは同じ人……」
「気をしっかり持ってフェル!ユリとリオアは別人だよ!?」
そりゃあユリもアイドルスキル持ってるし体格似てるし、似たスキルを使うけども!だ、大丈夫か…?
不安一杯でフェルを見つめていたら、頭の痛みがなくなったのか、頭から両手を放すフェル…。
「フェ、フェル?」
不安げな声で言葉をかけるが、フェルは反応せずにこちらの顔に近付いたと思ったら口に柔らかな感触が伝わる…そしてフラフラと自分の胸ポケットの中に入り…こちらの顔を見上げた、その表情は嬉しさで泣きそうな顔だった。
「ただいまですレンナさん…」
「フェル………おかえり」
『レンナは称号:神速で禁忌を覆し者の称号を手に入れた』
フェルの言葉とシステム画面が自分の目的達成を証明していた。
「よっしゃあ!」
思わずガッツリポーズを取った!
『称号:神速で禁忌を覆し者
常軌を逸した行動力と人脈で3日もかからずに禁忌を覆した者に送られる称号、大切な存在の為ならば神の体だって撃退してみせた、フェルと共に戦闘時全ステータスに+補正が生じる』