荒野の山に見えた光明とエンカウント
ボストンボを倒して小休憩をした後、自分達は小さな山を登りきった。
小さな山の頂上は風が吹いていて、気持ちがいい。
「あ、あそこをみてください!」
胸ポケットに入っているフェルが指を指した方向をみると、そこには巨大な魔法陣が刻まれた、巨大な結界のようなものがあった、しかし結界の中は見えない…。
「もしかしてあそこに皆の住処があるのか?」
「はい!あの魔法陣は妖精の物です!つまり生存者が居ます!居るはずです!」
今までにないくらいに声が高くなり、喜びに満ちるフェル、喜ぶフェルを見て、よかったと心底思える…。
もしかしてこれがサードクエストの本来の報酬なのかな?わかんないけど、少なくとも希望はある。
「それじゃあ結界の所まで行こう…と言いたいが、結界の方向は崖なんだが…」
崖の高さを確認する…マンションで例えると約5階位の高さだ…落ちたら上手く着地できても、骨折しそうだ…。
頭の中で、落ちても死ななければフェルのリジェネレートで回復すれば良いのでは?という考えが浮かんだが…万が一死んだら笑えないので、その考えはボツにする。
世の中には高所から落ちても怪我を最小限に抑える着地術があると聞いたことあるが、そんなスタントマンな技術を鍛冶屋志望の自分が覚えてる訳がない。
「えーと、確かここからあそこに行くのは…ごめんなさい、何時もは飛んで移動するので地上ルートの行き方がわかりません…」
「いや、気にしないでくれ、見た感じあそこを通れば行けそうだ」
「……あそこは本来は桜がたくさんある森だったんですけど、全部無くなってる…」
フェル視点だと地獄絵図だな…自然が破壊尽くされた故郷を見る事になるとは。
もしも自分の住んでる街が全て更地になってたと想像すると、ゾッとする…。
「行こう、結界内ならフェルの故郷のままかもしれない」
「そうですね!そのはずです!」
明らかに空元気な返事をするフェル…いや、この状況で元気でいられる訳ないか…。
早く結界の所に辿り着いて、結界の中を確認して…と考えながら、結界に向かって歩いていると…。
「おやおやオメガヤンマが殺られたと思ったらまさか新たなご飯が現れ」
「妖精火門!」
背後から声が聞こえた、ゾクリと背筋が凍る…追体験で聞こえたユキさんを殺した…倒すべき虫の声が、だが…今戦うべきではない!勝てない、逃げないと!
自分は直ぐ様自分に向かって妖精火門を使って、自分の全身を炎に包んでから自分は逃げるように走り出した!相手が話してるとか関係ない!振り向かずに全速力で逃げろ!
視界が妖精火門の炎に包まれて真っ赤になるが、妖精門の攻撃に味方と使用者にダメージがないのはTTとの決闘やさっきのボストンボ戦の妖精氷門で確認している、そのまま炎の中から脱出して、結界に向かって走り出す!
「え?は?話しかけただけで自滅…?え?なにそれ?しかもこっちを攻撃せず?」
よし、かすかに聞こえる声でわかった、オールモスキートが完全に混乱している、今のうちに結界に飛び込まないと!
逃げる理由はただ一つ、フェルが精神的にもMP的にも万全では無いことだ、ボストンボに妖精氷門を使ってほぼMPがない…その状態でオールモスキートと戦闘しても勝てないと判断したからだ。
かと言って目眩ましに妖精火門を使うのはかなりの賭けだが、ただ逃げるだけでは追いつかれる可能性が高い…。
故に1番派手な妖精火門で自分を包みこんで、なおかつ火柱を壁にして、オールモスキートの視界を塞いだのだ…はっきりいって咄嗟に思いついて、条件反射レベルで行動に移した作戦だった。
「スピードアップ…今は逃げるんですね」
「万全じゃないからな…」
自分の考えを察したのか、フェルが小声でスピードアップの魔法をかけてくれた、下り坂のおかげでスピードは加速していって、ぐんぐん結界に接近している…。
この勝負で最大の問題は自分が結界の中に入れるかどうかだ…妖精が作った結界で未だ壊されてないということは、オールモスキートでも破壊出来ない結界なのだろう。
勿論自分が破壊するなんて論外だし、妖精火門でもうMPもない、故にこの結界が虫だけを拒む結界なら問題ない…だが妖精だけを通す結界なら…一か八かフェルを通す!妖精だけ通れるのなら少なくともフェルにとってマイナスにはならないはず!
最悪なのはだれも通さない事だけど…それは考えないことにする。
そう頭の中で行動を決めて、自分は肩からぶつかるように先の見えない結界に向かって飛び込んだ!
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レンナが結界に飛び込む時、オールモスキートは火柱を眺めていた。
話しかけただけで自爆した奇妙な白髮の人間に、頭をかしげつつ、未だ吹き出す太く、先が見えない炎にまだ吹き出すのか、凄いなと思いつつ。
「うむ、百足に続いてヤンマもやられてしまうとは…少し対策を練ったほうが良いかもしれませんね…幹部があと二人になってしまうとは。
それにせっかくのご馳走を逃してしまいましたか…まあ良いです…人間が来たという事は他の人間が来る可能性も高いということです、これは楽しみですね!人間の血は美味しいですからね…」
そう独り言を口にして微笑んだのであった、次なるご馳走を想像しつつ…炎が消えるのを見終えた後、何処かに帰るであった。
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