共鳴の記憶:大時雪の授業
これは何年前の記憶なのだろう?フェルの幼さからして1、2年前くらいなのか?
「はい、リジェネレート、良く使えてますよ!」
視界では大時雪…ユキさんがマンツーマンで魔法の使い方を教えてくれる…だがユキさんの声しか聞こえず、相変わらずフェルの声が聞こえない。
時折視界がなくなるノイズが入っては、時間が飛んで場面転換しているせいで、入って来る情報は、断片的だ。
「うーん、ホーリーボールはうまくいかないね…フェルの攻撃魔法の適性が無いのか…私が下手なのか…こう、光の力を貯めてばーん!という感じなんだけどね」
ユキさんの授業は、かなり感覚派だった…ゲームシステムで魔法を使っているなら、そういう感じになるのかな?
フェルの手は必死に何かを出そうと、ブンブンしてたら、フェルの手から魔力の塊が発射された、それは的に当たって弾けた。
「あ、ホーリーボールとは違うけど、攻撃魔法ぽいのは出たね!このまま頑張ってホーリーボールを覚えていきましょう!」
それを見て褒めるユキさん、まるで我が子のように優しく教えている。
すると視界にまたノイズが走り、場面が切り替わる、次は水晶で出来たドローンみたいなのと戦うシーンだった。
「最初は移動するドローンを攻撃してみてください、攻撃してこないのでじっくり狙ってくださいね」
その言葉と共に体が動く…え、ここは自分がフェルの体を使ってドローンを攻撃しないといけないのか!?
体は動くとはいっても、自由に動かせる訳ではなく、戦いに必要な動作しか出来ないみたいだ。
攻撃と言われても、今のフェルは武器を持ってない、素手で攻撃するわけにもいかない…ならさっきの魔力の塊を飛ばす魔法?を使うべきだろう。
ホーリーボールは多分使えないだろうが念のために試してみよう。
「ホーリーボール!」
フェルの手から魔力の塊が生み出される、明らかにホーリー感のない青い魔力の塊がドローンにぶつかって、ドローンを吹き飛ばした。
「ドローンは魔法に強いので気にせずに魔法を撃ってくださいね、仮に壊れても知り合いに直してもらいますし、後は少しドローンのスピードと回避力を上げますね!今のフェルならきっと当てる事が出来ますよ」
背後から、ユキさんの優しい声が聞こえる。
「ええ、いいでしょう、これが終わったらティータイムにしましょう、フェルの希望のミカンも一緒に食べましょう」
これはフェルがティータイムをおねだりしたのかな?
何故かフェルの声は聞こえないが、それでもユキさんの言葉で何となくわかるな。
狙いを定めて魔力の塊を発射して、ドローンに当てる、ドローンのスピードが早くて当てるのに少し苦戦したが、動きが単調だったので、なんとか当てる事が出来た。
すると再びノイズが走り場面が変わる、ユキさんとフェルがティータイムをするシーンになった。
周囲は華やかな花畑が見える。
フェルは自分くらいの大きさのミカンから果肉をちぎり取り、食べながらユキさんと話していた。
「私はもう一つの顔があって、学校という施設で勉強をする学生なの…信じて貰えないけど、これでも優等生なんだよ!………あ、信じてないな!むう、本当は数学が得意なの!」
「私のお母さんもフェルのお母さんみたいにとっても優しいよ!この前プレゼントしたら、ありがとうと頭に撫でて貰ったんだ!」
「イツキが事細かに私の秘密を探ろうとしてるんだよ、この異世界はバレちゃいけないから教えられないのに、本当デリカシーのない幼なじみだよ!」
コロコロ表情を変えながら楽しそうにおしゃべりするユキさん、凄く楽しそうなのはいいんだが…。
不安が自分の中に満ちる、頭の中によぎるのはフェルの故郷を襲った化け物の存在だ、プレイヤーが居ない時に化け物が襲ってくる可能性は多分低い…。
つまり…ユキさんは化け物と戦った可能性が高い…そしてフェルがあんな所で蜘蛛に食われかけた以上、負けたんだろう…。
ユキさんの装備に鑑定眼が使えたので、使ってみたら、ユリから貰った体操服と同レベルの装備スペックだった、レベルやステータスは分からないが…装備の統一感がないのは、とにかくスペックのいいもので固めた結果なのだろうか?
どちらにせよこの先に起こるのはバッドエンドな可能性が濃厚で、出来れば見たくない…そんな気持ちが胸に満ちた。