夏といえば
「ねえ、夏と聞いて何を連想する?」
放課後の教室で僕は彼女に問いかけた。春の陽気に二人きり。葉桜の影が窓に、教室に、落ちている。
彼女はどう答えるのだろう。鮮やかな青空に浮かぶ入道雲だろうか。それとも、虫の声に満ちた山林だろうか。遠くの道路を揺らすかげろう、散歩中に不意に聞こえる風鈴の音色。それか、うだるような暑さそのものだろうか。
「そうだね」凛とした声が僕の思考をさえぎる。
彼女は考える時間を取るように窓の外に視線をやった。葉桜。木漏れ日。
そして僕を見て、目を細める。
「夜、かな」
深い藍色の瞳。謎めいた微笑。僕は何も言えなくなってしまった。