第1話 婚約破棄させちゃいました……
「グラン様、私は貴方との婚約を破棄します!」
私の目の前で今とんでもない事が起こりました。そしてこれが私の人生を大きく変える事になりました。
少し時間を遡ります。
「君みたいなのがなんでこんな所にいるんだい?」
「えっ?」
私はリア、17歳です。今パーティの主催者のグラン・フォーズ様と廊下で鉢合わせて挨拶をしたところ因縁を付けられてしまった。
「この舞踏会は伯爵家以上の階級のものしか呼ばれていないのだが?」
「えっと……私の所にも招待状が来ていたのですが。」
私は恐る恐る招待状を見せた。するとグラン様は舌打ちをして私の招待状を破り捨てた。
「これで君は参加者じゃなくなった。さっさと帰りたまえ!」
「そ、そんな……」
「場違いなんだよ、君みたいな男爵令嬢がこんな所にいるのはな!俺の機嫌が悪くなる前に帰れ。」
そう言うとグラン様は会場へと戻って行きました。私は気がつくと涙を流していた。初めてのパーティでお父様もお母様も私の為にドレスを新調してくれていたのに。ダンスの稽古もしてくれたのに。こんな形で帰るのが悔しかった。でももう帰らなければならない……私は出口へと向かって歩いて行く。
「無様ね……」
私が振り返るとそこには銀色の髪の美しい女性が立っていました。知っています。この方はルーシィ・フィール様……由緒ある侯爵家の御令嬢だ。そしてグラン様の婚約者でもある方……
「何故言い返さないの?貴女が悪いわけではないのに。」
「あの……えっと……私の身分では反論は許されませんので……」
そう、この世界では身分の上の方に逆らってはならないのです。
「ふーん……悔しくないの?」
「……悔しいです……!お父様もお母様もこのパーティに呼ばれた事を光栄に思われて私にドレスを作って貰いました。ダンスの出来ない私にダンスのレッスンも付けてくれたのに……それなのに……」
私はポロポロと再び涙が出てきた。化粧ももう落ちてしまったと思います。でも涙が止まる事はなかったのです。
「はぁ……ほら、ハンカチよ。涙を拭きなさい。」
いつの間にか私の前に来ていたルーシィー様が私にハンカチを渡してくれました。
「そ、そんな畏れ多い……」
「いいから使いなさい。そして先程の言葉を撤回しますわ。リアさん。」
「どうして私の名前を……?」
「ふふふ。あのボンクラが貴女を狙っていたのを知っていたからよ。私はあなたが理不尽な事にも従順にしていたから無様といいました。でも今のあなたの言葉なら無様という言葉は不適切でしたわ。」
「そ、そんな……」
私は深々と頭を下げるルーシィ様に顔を上げて下さいと慌ててしまう。
「さぁ涙を拭いたら行くわよ!」
「行くって何処へですか……?」
「ふふふ。決まってるじゃない。」
満面の笑みのルーシィ様はさも当然の様に言い放ちました。
「あのボンクラに一泡ふかせに行くのよ。」
そのままルーシィ様は私の手を掴んで会場へと連れて行くのでした。
会場に入るといきなりグラン様がルーシィ様に声をかけてきた。
「おやおや、ルーシィ何処に行ってたのかい?探していたんだよ。」
「あら、探してくれていたのですか?これは失礼しました。」
私には目もくれず話すグラン様だったが流石に後ろにいるため、気がついた様だ。
「おや、ルーシィ後ろにいるのは誰だい?」
先程私に帰れと言ったのに白々しいと思っていたけどすぐにルーシィ様がそっくりそのまま私の思ってる事を言ってくれた。
「あらあら、白々しい。先程廊下で彼女の招待状を破り捨てていたではないですか?」
ルーシィ様はいつ拾ったのか先程破られた招待状のカケラを持ってきていた。それも会場中に聞こえる様な大きな声で……
「なっ!何を言っているんだいルーシィ……僕がそんな事する訳ないだろう?」
ルーシィ様はわざと大きな声で周りに聞こえる様に言ったのです。
「いいえ、私見ていましたの。あなたがこの子に詰め寄って男爵令嬢には相応しくないと言う所までね。」
周囲がざわざわとし出しました。当然です。グラン様は誠実な方だと多くの人が信じていたからです。それをこんな公の場でそんな無作法な事をしたなどと言われたのだから。
「な、何を言っているんだ。この僕がそんな事をする訳ないだろう?あまりにも目に余る事を言うのなら君であっても容赦しないぞ!」
グラン様は焦りからか攻撃的な言葉を使っていました。
「あら、私の証言だけでは足りませんか?では他に見ていた者がいればいいんですよね?」
そう言うとルーシィ様は指を鳴らした。すると廊下から3人の男女が出てきた。
「なっ、お前たちは……」
「知らないなんて言わせませんわ。この者たちは以前こちらのリラさんと同じ目に遭いパーティから追い出された者たちです。私が知らないと思いましたか?貴方はパーティを開く度に身分の低い者を虐めていた事を。」
さらに周囲がざわざわとしだす。
「お、憶測で物を言わないでくれ!僕がそんな事を……」
「私は生きる価値すらないと言われました。」
「僕の時はお家を取り潰すと脅されました。」
「私は居たいのならグラン様の侍女になれと脅されました。」
次々と出る証言にグラン様は顔を真っ赤にして怒り出した。
「き、貴様ら……低身分の分際で僕に虚偽の言いがかりをしようと言うのか……」
すると今度はルーシィ様が反論した。
「あら、その理論なら貴方が私に刃向かうのは許されるのかしら?」
「なんだと⁉︎」
「貴方は伯爵家ですが、私は侯爵家です。貴方はよくて他の者が悪いというのは筋が通らないのではなくて?」
言い淀むグラン様にルーシィ様は畳み掛けます。
「この者たちは私がお呼びしました。貴方の様に貶めるためではなく、私に協力してくれる為に、ですからこの者たちへの狼藉は私への狼藉となります。それを理解して下さい。」
何も言い返せないグラン様にルーシィ様はトドメを刺した。
「私は親に貴方と結婚する様に言われました。そして貴方の評判を信じここまで来ましたが……陰でこの様な事をしているなんて見損ないました。」
そしてルーシィ様はスゥーと息を深く吸い込んだ。
「グラン様、私は貴方との婚約を破棄します!」
「なっ!」
これにはグラン様含め周りにいた者も言葉を失った。
「そ、そんな事、父上たちは許さないぞ!」
「知りませんわ。自業自得でしょ、さぁ皆さん行きましょう。この会場はもう用済みですから。」
そう言うとルーシィ様は踵を返して広間を後にした。私は他の3人の方たち同様一緒に広間を出るのでした。
「「「ありがとうございました!」」」
屋敷を出ると3人はお礼を言っていました。
「いえ、お礼を言うのは私の方です。皆様のおかげであのボンクラにお灸を据える事が出来たのですから。」
「いえ、それでも我々の恨みを晴らしてくれたルーシィ様には感謝しかございません。また何か有ればお力添えさせて下さい。」
そして3人は深々とお辞儀をして帰って行かれました。なので残ったのは私とルーシィ様だけとなりました。
「あの……私からも改めて御礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。」
「あら、貴女も私に御礼を言うの?別に大した事してないわよ?」
「いえ、あのまま帰っていたら私はきっと誰も信用出来なくなるところでした。なので私もルーシィ様に何かありましたらお力になります。」
私がそう言うとルーシィ様は少し考える仕草をしました。
「そうね。じゃあ今日は……」
「んっ……」
なんとルーシィ様はいきなり私のくちびるにキスをしてきたのです。そして私が驚いている間にルーシィ様は離れました。
「貴女いいくちびるしてるわね。また堪能させて貰うわ。」
そう言うと踵を返してフィール家の馬車がある方へ向かっていかれました。
「な、なんだったの……?」
私は呆然としてしばらく立ち尽くしていました。
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