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君はその言葉を知らない  作者: 三日月と饅頭
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3話 冷たい風

3 冷たい風

 

 俺は死んだ。今日をもって俺の人生は終了だ。あぁ、鈴音も死んでしまったんだ・・・。まぁ、鈴音が生きていないなら、話す相手もいない。いわゆるボッチだからこそ、その大切な人が死んだ今、もう俺の人生で何もすることはない。俺はそう思い、気をどんどん落としていった。


 でも何か、違和感がある。何かと言われれば困る。なにかも、わかっていないからだ。だからか知らないが、オレの心は次第に疲れていった。


 そしてもう死んでもいい、そう思うようになった。まぁ、もうどうせ死ぬんだけど・・・。そう叶いもしない願いを考えながら、心のなかで冷静に考えた。


 死んでもいいか。今までだったら、絶対になかったな。合理的に考えるやつだからな、俺は。なにか人を守ることもなければ、何か助けることもしない。だが、こうして死んでみてわかる。俺は意外と、おせっかいなんだと。そして、その運の悪さに・・・。


 そして俺は思う。今までのことになんの意味があったのだろうと。今死ねば、あの装置は世間に知られることもなく、この世を去るだろう。そして、その実験を最後までできなかった自分を責める。


 最終実験か・・・。本当に最終実験になるとはな・・・。思ってもいなかった。そして、感じた。その自分の、無力さを。そして、思う。


ーーーーー俺は偽善者なのか・・・。ーーーーー


 そして、俺は自分の心にある、もう存在しないはずのまぶたを閉じ、俺の人生に幕を閉じようとした。

 その時だった。


「達也、ねぇ、達也。ねぇ、達也!」


 耳を澄まさないと聞こえないような声で、鈴音が呼んでいるのがわかった。


(こんな時に、妄想かい・・・。もうほんとに、俺ってやつは、無力だなぁ。)


 そして思う。これは現実の声なのかと。現実ではない、そんなことはもうわかりきっていた。だが、妙に心地が良い。今までいた居場所といった感覚に陥る。だが、そういっている間に、鈴音の声は消えた。

 そして、また違和感について考えた。


(俺は、確か、黒い服を着た人たちに殺されたんだよな・・・。だが、まだ意識はある・・・。おかしい、でも、言いようがない。なんにも。俺は死んだ。ここは死後の世界なんだ。そう考えるしかない。ここは、現実ではない。)


 そして俺は気を落とし・・・。待てよ、現実、現実!無の空間で覚醒したような気がした。そして、俺は落ちていた気を持ち直す。


 そして俺は確信する。


(そうか!ここは仮想空間だったんだ!)


 ここが仮想空間だったことを忘れていた俺は、そう思うと、泣けないはずの涙が出てきたように感激した。

 

(いろんな事が起きすぎて、忘れていた)


 そして、自分の精神に力を入れた。


(それなら・・・。)


 ここが仮想空間なら、少なくともさっきの鈴音の声は本物。だったら・・・。そして俺は、ずっと開かないはずだった目を開けた。


 視界が削がれ、目には曇った世界が見える。寝起きのような世界に、俺は懐かしさを覚えた。


「達也!、達也!良かった良かった。うぅ・・・。」


 目を開けると、目の前に涙ぐんだ鈴音がいた。頭の下に、天国のような柔らかさを感じるのは錯覚だろうか。


「あぁ、大丈夫だ。成功・・・、なのかな・・・。まぁ、成功したよ・・・。」


 少し返答に困った俺は、鈴音の顔を見て、フフそう笑った。どうやら、鈴音はこの俺の行動に突っ込む余裕がなさそうだ。


 鈴音は、やけに俺を心配そうに見つめている。


「なんでそんなに心配してるんだ?なにかあったのか。しかも、膝枕なんて・・・。」


 そう聞くと何故か鈴音は頬を赤くした。なぜだ・・・。なんか俺変なこといったか・・・。その赤くなった頬を見て、守れなかった、仮想空間の鈴音を思い出す。やはり、本物の鈴音でなくても、偽物であっても悲しい。守れなかったという事実は変わらないんだから。そんなことを考えていると、鈴音が妙にキョロキョロしているように見える。


「あ、あ、あの、あ、あのね・・・。あ、あの。別に膝枕に意味なんてないけど・・・。って違うよ。きずかないの・・・。気づいてないっぽいっから言うけど、すっごい汗かいてるよ・・・。12月とは思えないくらいに・・・。」


 俺は、服を触り、顔を歪ませた。


「ほら、服がびしょびしょじゃん。こんなのになってたら流石に心配するよ・・・。死んじゃうかもしれないじゃん。」


「うわ・・・、まじかよ。こんなびしょびしょなの・・・。」


 気づいた瞬間に寒くなる。よくあることだが、今、俺の体でも起きていた。


「こんなんで死にはしないと思うけどな。まぁ、心配してくれてありがとな・・・。」


「いや、流石にないよ・・・。こんな、汗の量・・・。脱水症状になるよ・・・。」


 俺は、そっと立ち上がり鈴音に膝枕ありがとよ、そういって洗面所にいった。そこから見えたのは、さっきの言葉に恥ずかしさを覚える鈴音の姿だ。


 俺はかわいい奴め、そう微笑しながらいい、服を着替えるのだった。




 俺は、さっきと同じような白衣に着替えて、パソコンに研究データを入力する。あんな事が起きてしまったんだ。あれは、そう単純な話ではない。


 なにかに関係性があるのかもしれない。あれで最終実験、俺は大噓つきだな。あれは嘘で、痛みを感じたあの空間を俺はもっと知りたい。決して変態ではない・・・。


 痛みを感じた・・・。それも想像を絶するほどの・・・。あれは、脳内に痛いという感情が湧き出るように、電流で操作している。だから、ああなるのだが、まだ死の痛みは感じたことがない。そんなものどうやって再現したのだろうか。まさか・・・、ねぇ・・・。なんてことはありえない・・・、のか・・・。そう思いながらも、俺は時計の時間を見た。


「12月23日か・・・。仮想空間での日時は、1月23日だったから、ちょうど一ヶ月か。」


 考えれば考えるほど、謎は深まる。あの男は、何だったんだ。AIヒューマンとしているんだったら、俺の記憶に必ずあるはずだけど・・・。俺はあんなヤツ、見たことがない。


 何だったら、あの殺されていた少女もそうだ。AIヒューマン以外は、仮想空間に入った人間にあまり、行動をすることができないんだけど・・・。


 俺は、さっきまで被っていた仮想メットを見る。すごかった汗は、もう乾いていて、濡れていない。今の時間は20時、俺は今日は寝れそうにないな、そう一人でつぶやき、またパソコンを見た。


 「ソウムデバイスに接続っと。」


 そういって、俺がいつも使っている、開発したソウムデバイスというものに接続する。これは、単純に回線につなぐと金がスゴくかかるから、ソウムという会社のソウム回線を利用して、自分なりに改良したものだ。

 ソウムデバイスにつなぎ、またパソコンとにらめっこを始める。パソコンとにらめっこをしているとここまで、頭が痛くなるのか。瞬きの一瞬も今はスゴく長く感じられた。



 パソコンとにらめっこを始めて三十分、流石に疲れてきた。そう思い、前を向く。


「わぁぁぁぁ!。」


 思わず声が出てしまった。それもそうだろう。だって目の前に鈴音の顔があったんだから。


「あ、あのう。す、す、少し近いんですけど・・・。」


 そう言いながら見つめる。


「なんかさぁ、今日疲れてるの。すごい、暗いよ。雰囲気が。」


 いや雰囲気かい!、そう突っ込みたいところだが、ここは押さえた。なんだって俺を心配していってくれているんだから。


「ねぇ、何があったの・・・。その、仮想、メットだかなんだか知らないけど、その仮想空間で・・・。」


 そう聞かれて、少し戸惑った。なぜなら、こいつに話すかまだ決めていなかったからだ。そもそも、こいつがそんな話題に興味を持つなんて考えていなかった。話すべきなのか・・・。ここで・・・。


 別に、ここでこいつに話しても何もいいことないよな。でも、今後これがもっとやばいことだったら。思ったより、そういうことが多い世の中なんでな。


 まぁ、今もその後も、悲しいことを抱え込むのは一人だけでいい。つらい思いをするのは一人だけでいいんだ。まぁ、あいつがあっちの世界で死んだっていっても全然信じなさそうだけど・・・。


「あぁ、その顔、よっぽど・・・。なんだな・・・。その顔をしてるときはよっぽどの時だよね・・・。」


 正直に言って、鈴音に話すメリットがない。むしろ、話さないほうが都合がいいだろう。そして俺はこのことを、一人で抱え込むことにした。


「ねぇ、今絶対、そのこと一人で抱え込もうとしてるでしょ。だめだよぅ。そんなこと。砕けるだけだからね。」


 そうだな。やはり、鈴音には話さないほうが・・・、いや、いま鈴音、なんていった?


「ねぇ、聞いてる?だ、か、ら、一人で抱え込もうとしてるんでしょ。むう、話してよ。話さないなら、私、泣くよ?いいの?」



ーーーーー⁉ーーーーー



 そう驚いてる間に泣き出す鈴音。俺は大声で、流石にそれはだるいだろぉぉ。そういって鈴音を再度確認をする。うわ、泣いてるよ・・・。どうすりゃいいんだよ・・・。


「あはは、イヤね、あの、それだよ。あ、あ、あ、あの、そう・・・・、なんでもない・・・。あの、あれだよ。仮想空間ってゲームみたいなの。だから、あのぉ、全然クリアできなくて・・・。」


 そして、キョロキョロと自分でもわかるくらい、目が泳いでることを知ると、急いで顔を覆い隠した。

「ねぇ、気づかないの?、自分の目が泳ぎまくってる件について・・・。」


(ヤバイヤバイヤバい、どうしよう。久々に鈴音怖いって思った・・・。あのとき以来だな・・・。なんてことより、これ、まじでめんどくさいぞ・・・。ん、なんで今、件についてつけた?・・・。)


 そんな、くだらないことを考えているうちに時間は10時を回っていた。そして、考えることをやめた俺だが、何か案はないかと、頭が余計に考える。


 そうだ!初めてかもしれない。こんなに、この無駄な考える時間がやくにたったのは。そして、俺は鈴音にこう告げる。


「鈴音、もう10時だよ。もう寝た方がいいんじゃない?ほら、夜遅くまで起きてると体に悪いからさ・・・。ね・・・。」


 そういうと鈴音は、口を大きく膨らませて涙を拭いた。そして、こっちをかわいらしい眼差しで見つめる。そして俺にこう言い放った。


「確かに・・・、達也みたいに名あるのは嫌だないぁ・・・。」


「そのねぇ、達也みたいになるのは嫌だなぁが、余計なのよ。いんざベット!!。」


「ふーん、いい逃げ道を見つけたね。まぁ、今日はもうこんな時間だし寝てあげるよ・・・。明日、ぜっっっっったいだからね!ぜっっっっったいだからね!。」


そう言って、すずねは階段を上がり眠りに行くのだった。俺は、大きなため息を付き、ソファーに意気消沈するのだった。


 そんなすずねの姿を見て、あぁぁぁ、こえぇぇぇ、そう叫ぶのだった。



 「終わったぁぁぁぁぁぁ。」


 そう一人でつぶやく頃には時間は午前二時を過ぎていた。俺は、また仮想メットを見る。


 どうしても試したいことがたっくさんある。この前の最終実験のときにするべきだったがあんなことが起きたから、すべての計画がうまく行かなかった。なるべく早く終わらせたい。


「いみゃるかぁ・・・。」


 そう、ダル気味の声で発する。そして、俺はまた仮想メットをつけた。今見ておきたいのは視覚の具合だ。この前の実験のときは少しずれている面があった。だから、その具合を知りたい。


 コードを繋ぎ、一度、トラウマになったところに行くためにボタンを押す。


 

・・・・・。


「いくかぁ、もう、そろそろ・・・。」


 そして俺はまた、無知の世界へ飛び出した。



 ・・・・・。全身で無を感じた。やはり、何度体験しても克服はむずかしをうだ。仮想空間に入ると、タイムチャットに決まってjlosu202-h/wと書かれている。何度も言うが、この仮想空間はsの人の脳の情報を読み取ってできている。だから、−30日、だいたい初期設定では一ヶ月前くらいの設定になっている。だから、ここでは、一ヶ月前くらいの事が起こる。


 一ヶ月前の俺の記憶から読み取ってできているから当たり前。現実と同じ時間になると・・・、って俺にもわからない。なんのためにこの前実験してあんな事になったのやら・・・。


 流石に仮想空間自体が落ちるとかそういうのが起きると思っていたら、普通に時間が流れていた。でも仮想空間で行動を起こすと、脳に保存された情報から読み取り、新しい世界を制作、実行するようにしていた。だから、未知を作り出すプログラムはもう完成していたんだ。それが、現実との時の重なり、または時の交差という道に遭遇し、未知を作り出すプログラムが作動した、そう考えるしかない。っていうかそうでなければありえない。まさかなぁ。そして、俺は目を開けた。


「時間は、午前2時18分・・・。すずねは・・・、寝ているな・・・。」


 そう言って立ち上がった俺は、窓を開けた。決してなにか理由があるわけではない。窓からは冷たい風が入ってくる。


「仮想空間かぁ。この景色も偽りなんだよなぁ・・・。美しいが・・・。いや、美しいの一言で、表してはいけないな。家の窓から見える景色・・・。」


 外の景色、それは今まで見てきた中でも、トップクラスにキレイだった。なんせ山に行ったときよりもキレイだったからな。


「ほうき星・・・。そういえば、一ヶ月、ちょうど流星だったか。」


 空に目を向ける。すると無数の流星が、夜空を流れた。尻尾を引いていて、一つ一つ個性を持っているようで美しい。


「確か、このくらいの時間に・・・。」

 

ーーーーードタドタドターーーーー


 階段を荒々しく降りる音が聞こえた。そう、階段を降りるすずねの音が聞こえる。その音は、また、この美しい暗闇に消えていった。


 



この暗闇とその音を聞いて俺は思う。あぁ、なんていい夜なんだろうと・・・。











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