1話 雪の見える窓から
You Tubeで投稿している、動画を小説にしたものです。You Tubeには三日月と饅頭という名前でやらせていただいています。投稿頻度はとても遅いですが、どうかブックマークをよろしくおねがいします。
「ついに、完成だ。理論上だけど。」
朝早くに俺は大声で叫んだ。朝露が見える部屋の隅で。窓から、風が入る。
「もう、うるさいよ。朝からなんなの、いきなり大きな声で。」
階段を降りる音が聞こえた。パジャマを着て起きたばかりの鈴音がこっちを見る。まだ、日の出の前、朝五時半。窓には、雨の水滴が打ち付ける。鈴音が慌てて窓を閉める。
「もう、ちゃんと閉めてよ。濡れちゃったじゃん。」
鈴音は、そう言い、雑巾を持って窓に近寄る。俺はそれを眺めながら立ち上がった。
「八年の成果だ。やっとなんだよ。いや、理論から完成させて、それが正しいか計算して実践したんだ。実践っていっても作っただけで、まだ一回も動かしてないんだけど。」
まだ日の出前。外の街灯とかすかな月明かりが、二人を照らす。鈴音は、床を拭きながらいった。
「そんな無駄な計算、意味あるの。そんなのしてるくらいだったら働いてよ。私一人で大変なんだよ。あ、じゃぁ一緒に働く。猫カフェでさぁ。ねぇ、達也、聞いてる?。」
「科学者はそういうものなんだ。なんにも役に立たない計算をする。興味本心でね。でも、解き明かすことに意味があるんだ。ほら、よくテレビでもやっているだろ。無駄だと思っていたことが、実際はめっちゃ役に立つようなことでした、的なやつだよ。」
鈴音がこっちを見ていった。
「はいはいそういうのいいから。あぁ、眠いよう。もう、、気持ちよく寝てたのにぃ。起きちゃったじゃん。」
鈴音は、一拍あけてそういった。
「お腹減らない?」
外の街灯が消えたのは、もう日の出の時間だからだろうか。冷蔵庫の前に行き、コンビニ弁当を取り出す。電子レンジにコンビニ弁当を入れ、温める。歩くと同時に、ギィと鈍い音がする。
「お前は?」
そう、さり気なく好みの弁当を聞く。俺は、口説きがうまいのかもしれない。
「えぇっと、チンジャオロースがいいな。達也はナポリタンだね。」
「あぁ、消去法的にな。」
ナポリタンとチンジャオロース弁当が一緒に入らないことを確認し、先にナポリタンを温める。温めている間に、テレビを見る。朝は、ニュースしかやっとらんもんだな、そう思っていると天気予報が始まった。横を見ると、やけに鈴音が嬉しそうである。テレビをもう一度確認する。
「今日、雪だってよ、雪。おぉ、積もるって、雪。」
そう何度も誇張される言葉を聞いていた。積もるなんて、そう考えテレビをしっかりと確認する。
「おぉ。」
思わず声を上げてしまった。誇張なんかされておらず、そのままの意味だったらしい。これであれば、鈴音がこんなにも嬉しそうにすることにも納得だ。
美少女を眺めながら、何かを考える。恋愛アニメだったら最高のシチュエーションだな。あいにく、今はそんなことに興味はない。ただ、無邪気な女の子を見つめているだけだ。
「あんまはしゃぐなよ。」
そう一言添えると、鈴音がこっちを見て、反抗期?といった。言い返したいが、今のは完全に俺が悪い。ここは大人ってやつを見せてやろう。
まぁ、よくある話だ。年頃の男子はかわいい子にちょっかい出したくなるだろ。それと一緒のことだ。
「働きなよ、達也。ねぇ、やっぱ猫カフェでさぁ。」
「それ、お前の働いてるところだろ。お前のこと先輩って呼ぶのすげーヤダ。」
流石に、わかるだろう。俺も一度経験したことがある。コンビニにアルバイトをしにいってたら、友達とおんなじところで、友達のこと先輩って呼んでたもんなぁ。あぁ、思い出すだけで、寒気がする。
「えぇ、すごく楽しそうなのに。あと、パしれたのに。」
「うん、わかってた。絶対最後のが本音だよね。はぁ、もうすぐ何億くらいか入ってくるかもしれんぞ。。」
「えぇ、なんで。まさか宝くじでも当たったの?・・・いや、達也にそんな運はないかぁ。まさか、あのゴミ売るとかじゃないよねぁ。売れないよう、あんなゴミ。当てにならないこと言わないでよ・・・。」
「おぉぉぉい、おい。今のはみのがせぇやせぇんねぇ。八年頑張ったものゴミとかひどすぎだろ。歴史的発明になるかもしれない。まぁ、実際は、まだ実験してないからどうなるかわかんないけどね。」
さらっと、息を吐くように悪口を言われたが、すぐに気づいた。なんかそこらへんは敏感らしい。自分のことだけは。そうか!これを自己中というのか!そう、一人で納得するのだった。
「あのゴミが・・・、何億円に、なる・・・。ありえんな。信じられんし。」
「あ、そういえば、今日最終実験をするよ。んで、お前は・・・。」
鈴音は顔を横にふった。
「うん、わかってた。」
今日、買い物に行くらしい。今日は雨。途中から雪に変わる。俺が、じゃぁお風呂入れておくよ、そう言うとありがとう、お願い、そういって
「濡れたらやだもん。だから、入れといて。あ、帰ってきたら濡れてるか・・・、うーむ、まぁとにかく入れといて。」
といった。
鈴音はチンジャオロースを口に運んだ。他愛のない会話が続く。でも俺はこの他愛のない会話が一番好きだ。鈴音とどうでもいいことを話す。平和だなぁ、そう思いながら。やっぱり平和が一番なのさ。
俺は、弁当箱に、プラスチック製のスプーンの先がツンツンしているやつを突き刺し勢いよくゴミ箱に投げ入れた。俺は、鈴音を見ながら立ち上がる。
「あれは、ゴミなんかじゃない。世界のすべてを示す種子だ。まぁ、わからないならいいさ。おこちゃま。」
あれ、鈴音の様子がおかしい・・・。と思ったら、すぐに泣き出した。
「うぅ、ひどいよ。そんなこと言わないでよ。あんなゴミ、いいじゃん。罵ったって。」
内心すごくめんどくさいと思った。
「おぉい、なくなよ。明らかにお前が悪いのに周りから見ると俺が悪いみたいじゃないか。はぁ、今日は実験やるんだぞ。まぁ、お前は関係ないけど・・・。あと、さっきからゴミゴミ言い過ぎな。女の武器、ウソ泣きには、さすがに勝てんな。」
舌を出し、べーと声に出す鈴音にため息を付いて、見下ろすようにして立ち上がった。本当におこちゃまだな、そう思いながらもこれって俺が悪いんじゃね?と考える俺だった。
「まぁ、勝手にやってよ。あ、死なないでね。」
鈴音がため息を付いて立ち上がる。そして弁当に、スプーンの先がツンツンしているやつを突き刺しゴミ箱に捨てた。俺は心のなかで、似てるな、そう思い、心のなかで苦笑するのだった。
「死なねーよ。死ぬつもりはねーしな。」
鈴音は冷蔵庫の前に立ち、冷蔵庫の扉を開けた。手作りのお茶を手に取り、紙コップを2つ、そこにお茶を注いだ。
「ただ、脳の意志電流をアダプターライセンスにコピーして、コンピューター上に意識を伝えて、脳神経細胞に電力で見せかけの感覚を作り出して、自分が別の世界にいるんじゃないかと、考えることができるように設計した。」
俺は首を横に振りながら、
「あぁ、これに3年かかったんだよなぁ。これだけに・・・。」
鈴音が、お茶の入った紙コップをわたした。俺が小声で、ありがとよ、というと鈴音はパァ、と明るい笑顔になった。・・・かわいい奴め・・・。そう思いながらも、顔を見つめニヤッと笑った。
そして、少しお茶をすする。ズズズズズ。
「結局、何だったんだろうな。」
「何が?達也、なんか変なことしたの?」
首を横に振り俺は、鈴音を確認する。
「今日の実験のことだよ。結局、やることになったけど、二日間寝てないしなぁ。長引いたらどうしよう。」
「そうだよ。いつも、なんかすごく自分のハマるようなことがあったら、全然やめないもんね。迷惑だなぁ〜って思いながらいつも見てるよ。」
はぁ、そうため息をついた鈴音は立ち上がり、俺の、どこに行くの?という言葉に反応しトイレ、そう答えた。
「何だトイレか。・・・ふふ。」
何も変わりない、この部屋で、いつものように会話をする。それは案外、楽しい事なのだ。
外は雪が降り始め、気温は3度。鈴音は、コートを着て、
「じゃぁ、行ってくるね。うわ、すごい。雪降ってるよ。」
確かにはしゃぐのもわかる。なんせここは太平洋側の気候、めったに雪がふらない。更に積もるなんて。おこちゃまの鈴音には丁度いいのかもしれないが・・・。
靴を慌ただしくはく鈴音を見て心配になりこう、声をかける。
「転ぶなよ。はしゃぎすぎるなよ。あぁ、俺はお前のお母さんか・・。」
鈴音はムスッと表情を変え、
「嫌だなぁ。達也、子供に甘やかしすぎて外とか行かせてもらえなそう。私、外好きだから、それは嫌だなぁ。」
「嘘に決まってんだろ」
風船に針をさすように俺が言うと鈴音は、こっちを少しニヤついた表情でいった。
「もうやだなぁ、そんなこと本気にすると思った?」
「うるせぇぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。心配していってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
鈴音は、じゃあいってくると大きなびっくりするような音量でいった。
雪が降り始めて何分くらい経っただろうか。手を出し、上を見る。手に落ちた雪は、手の上に落ち、すぐに消えていく。それはもう、運命のように・・・。
はぁ、そうため息をついて家にあがるとヘルメットのような、脳内意識読み取り機をつける。そして、ソファーに寝転がる。
午後三時。もう夕方だ。頭に変なものをつけながら考える。誰もいない部屋、薄暗い、窓から雪が降ってくるのが見える部屋。そんなところでは、独り言がはずむ。
「そういえば、時間設定ガバガバだったな。あぁ、すぐにtimeチャットに日時を入力すればできちゃうのかぁ。過去に戻れるなんてのは、最高だな。まぁ、一切現実にかんしょうしないから意味ないんだけど。仮想空間かぁ。いかにも、映画の監督が興奮しそうな台本だ。」
ため息を付き俺は、窓の方を見た。雪がシンシンと降っている。寒っと思いながらもスイッチを入れた。
未知の空間。さて今から、新たな宇宙へ・・・・・。
なんとも言えない苦痛が俺を襲う。なんだコレ、そう思いながらも俺は目をそぉっと開ける。目を開けると、いつもの何気ない散らかった部屋が見える。
「せいこうだぁぁぁ。」
そう俺は弾む心を抑えられず、大声で言った。いつもと変わりないが、俺は頭にヘルメットを被っていない。よってここは仮想空間なんだ。
「ヘルメット・・・、なんか名前つけるか。呼びづらいし。うーむ、仮想空間・・・、別にどうでもいいんだよな。中二病じゃあるまいし・・・。仮想・・・・、うーむ、仮想、ヘルメット・・・、仮想メット、うん、もう仮想メットでいいかな。もう。」
そうクソどうでもいい事を口ずさむ。完全に今いるのは、仮想空間だ。プログラムアダプターから脳内意識を読み取って、そこから考えられた情報から新たな世界を作っている。まぁ、要するに、この仮想メットをつけた人の脳内意識を読み取って、その体験、体感したことから世界を作り出す。だから、ここは現実でもあり、俺の中でもあるということだ。
人間や生き物は、その人と関わりの深い人はそのまま、AIヒューマンとして作られ、脳内情報保存プログラムに保存され、実体、感覚となって現れる。だが、その人に全くの関わりを持たないものはAIによって新たな人としてこの世界のみに生まれる。
まぁ、本当、中二病じゃあるまいし。
「ねぇ・・・、ってまた実験してるの?」
こっちの世界の鈴音が俺にそう言いかける。こうして宇宙はできるんだなぁと、そうありもしないことを思う。
「あぁ、すまんすまん。今はちょっと、準備中なんでな。じゃぁ、五時!五時から始める。」
「もうまぁ、いいけど。片付けてね。ちゃんと。それだったらやっていいよ。」
階段を登る鈴音の音がする。これは・・・、先月の風景だ。timeチャットにはー20w2podと書いてあった。少しずれているようだ。一日くらい。初期設定を後で見直そう。
実はこのゲームを完成させるために、仮想空間上だけで通じる新しい言語を作った。約256文字。頭がおかしい、そう思いながらも手を動かす。
「あぁ、疲れたな。」
何もしてないのに疲れている。よくあることだ。
少し訂正しておこう。これは時間を変えることができるが・・・、というか、チャットで時間を入力すれば時間設定が変わる。脳の保存データから、過去情報を読み取っているため、過去の再現しかできない。
まぁ、当たり前なんだけど。まだ、体験していないことを考えられるかよ、とね。これはゲームだ。脳内でtだ遊ぶだけのゲームだ。コンピューター上でただ遊ぶだけのゲームだ。脳で操作する、意識で操作する、現実そっくりのゲームだ。少なくとも、いま達也はそう考えていた。
「これはテストなんだよなぁ。仮想空間実現に向けての・・・。」
ここで俺はふと思ってしまった。脳の保存情報からこの世界を作り出している。だから、この仮想空間は過去のことしか再現できない。(再現もなにもない)未来は、体感して、体験してない。だから、脳の保存情報プログラムにアクセスできない。脳に保存されてないからだ。まぁ、単純な話だ。だから、このtimeチャットに未来の時間を入力しても当たり前のように実行できない。でもそのときに、エラーメッセージや強制ログアウトをさせるようにしていない。そのため、俺はこのあとの結末を知らない。
これは俺が開発したものだ。これを確認する義務が俺にはあるだろう。・・・少し気になる・・・、いや、だいぶ。
「未来の時間を入力・・・、さてどうなるのやら。俺の脳内情報には、一ヶ月以上先のデータ、記憶はない・・・。さてさて・・・、どうなるかな。」
俺は恐る恐る、timeチャットに+1345ojshae76と書いた。これは、二ヶ月先を表している。そして、実行を押す。すこし、視覚がずれている気がした。
「あぁ、これ帰ってきたら、直さないとな。」
いつものように(まだ二回目)、不感の世界に飛ばされた。
「未知の世界、未知の空間へ」
目を開けると、そこにはすずねがいた。俺を見て、口を開く。
「なんか・・・、大丈夫?すっごい汗かいてるよ。」
「成功だ!」
鈴音がこっちを見て首を傾げる。余計なことをいってしまった、俺だけ空回りじゃないか。そう思いながら立ち上がる。
なぜだろう。仮想空間の未来(事実上)に来て、まっさきに頭をよぎったのはなぜ、この世界の感覚が、今ここにあるのだろうという疑問だ。
成功だ、そうはいったがそもそも何が成功で成功ではないのかすらわかっていない。そもそもありえない。体験していないことをどうやって再現しているのか、再現もなにもない。
まぁ、今は過去の脳内保存情報から予想して再現している、そうゆう仮説を立てておこう。あくまでも仮説だがな。
そう考えていた、その時だった。
ーーーーバァンーーーーー
激しい銃声が、街の中に鳴り響いた。その音は、家の中にいる俺たちにもはっきり聞こえる大きさの音。
さらに悲鳴が聞こえる。鈴音は、慌てて窓に向かった。そしてカーテンを開ける。鈴音は言葉を失い、俺は、何だ、そう言いながら窓に近づいた。
「・・・っ!」
そして鈴音は、膝から・・・、崩れ落ちた・・・。