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結局ダンスは・・・

 幅の広い大理石の階段を進むと、絵画や壁画の一部が並ぶ。誰も居ないのか静まり返った空間で私は時間を忘れて次から次へ目を移した。


 この国の持つ宝は羨ましい。いずれ隣国の君主として指名されるならば文化的なものを是非置きたい。大きな図書館なんてどうだろうか。


 ふと、ガラス張りの箱に入れられた七色に光る首飾りに目を奪われる。美しい、だがなんというか、贅沢さに嫌悪感を抱かせるほどの宝石だ。


 その説明書きに目を通すと、『魔術師へ捧げられた最後の宝石』のタイトルが。

 魔術師?本当に居たのか。

 美しくなりたい王女が、魔術師に頼み美しさを手に入れる代償にこの首飾りを差し出した。しかし、これは国宝級の王妃のものであった為、怒った王が魔術師を窃盗詐欺師とし処刑した。


 ほお、これは何処の国の話だろう。


 その時、カンカンカンと遠慮ない足取りがヒールでフロアを叩き走る音がした。

 音の方に目を向けるとそこには、ミリアが居た。ヒールを脱いで更に私に走り寄り手を取り、そして私達は薄暗いミイラの置かれたショーケースの下へ転げ入った。


「どっどうした?ミリア」

「シーッ」とミリアが私の口を閉じる。


 するとまたしても誰かの足音がした。

「ミリア!ミリア!」

 カイセル?

 とりあえず、ミリアに従い私は音を立てず息を潜める。隣のミリアは緑の瞳を大きく開いたままカイセルが去るのを待っているようだ。


「こっちには来てないか……」ぶつくさ言いながら彼は去った。


「ミリア」

 カイセルに何かされたか気になるが、何をどう伝えれば良いか頭をめぐり名前を呼ぶことしか出来ない私をちらりと見て

「ちょっとカイセルがしつこいから。たまたまここへ来たらあなたがいただけよ。別にあなたを探したわけじゃないわ」

「そうか、探してはいなかったが、たまたまいた私とこうして小さくミイラの下に潜ったわけだ」

「ミイラ?!」


 ミイラが怖いのか私の服をぐいと掴み肩をすくめるミリア。

 なんという愛らしさだ。このままぎゅっと抱きしめたいがそんな事をしたら悲鳴が響き渡るだろう。


 ようやく、下から這い出た私達は反対側の石段を下り石像エリアへ足を運ぶ。


「これは皆価値あるものですけど、全部集めるのにどれほどの財を投げ打ったのか。窃盗団らも王室が高く買うからと異国では酷い奪い合いが耐えないようです」

 とミリアは目を落とした。


「そうなのか。私はなんと無知だ。ただ単にこれらの素晴らしさに見惚れていた。愚か者だ」


「本当の愚か者はこの国」


 ミリアのこんな真剣な顔は初めて見た。

 呑気に生きてきた私とは違い、彼女は色んなものを見て知っている様な目をしていた。


「あ、そろそろダンスタイムが終わるかな」

 と私がポツリと呟くとミリアは俯く。そうだよね。君と踊るのは卒業パーティーに婚約者として、婚約破棄をする前に最初で最後のダンスにしよう。


「卒業パーティーまで待とう。私のパートナーで踊ってほしい。」


「……どうしてもって言うなら」

「どうしても」

「仕方ないですね。分かりましたわ」


 皆が居る会場へ戻ろうと私達は歩き出すもミリアの足音が妙に静かだ。


「あ」


 どうやらミイラの下にヒールを置き忘れたらしい。


「ミイラの下にヒールを置き忘れた令嬢なんて君だけだろうな」と私は響き渡るくらいに笑った。


 恥ずかしそうに足をもぞもぞするミリアを置いて私はヒールを取って来た。


「さっ、お姫様」と私は彼女の足元に跪きヒールをはかす。

「ルシアンっ そ そんなこと」

「かまわないよ。誰も見ていない」


 会場にミリアと戻ると、勢い良くカイセルがやって来た。

「どこに居たんだ?探し回ったんだぞ」

 その険しい顔は男の私でさえぎょっとする。せっかくの美形が台無しである。


「私が博物館の展示品を眺めたくて、付き合ってもらったんだ」と平然と返した。隣で何も言わないミリアは私の上着の裾を握るようにしていた。


「私のダンスを断り豚と博物館か。ははっ。嫌われたもんだ。君が王太子妃になるのを嫌がるのは縛られたくないからだろ。大丈夫。君を縛り付けやしない。好きな事をして好きなものを買って不自由なく過ごせばいいんだよ。政に引っ張り出すような真似はさせない」


 ため息を落としたミリアは鋭い目を向けた。相変わらず私の裾をつまんだままだが。


「私はその贅沢な世界が嫌いなのです。贅沢するしか脳がない、あなたみたいな方が見ていて不愉快なのよ。宮殿のお飾りみたいに私を見ないで頂きたいわ」


 カイセルをはじめ、周りにいた学園のメンバーも驚いたように口を噤む。


「だからってゴーピイとは悪趣味だろうっ」

 とカイセルは吐き捨てるように言ったのだが、

 無論私も驚き、ミリアに引っ張られるようにして博物館を後にした。


 馬車の中。ミリアは静かに口を開く。


「私は悪趣味ではないですわ」

「ああ、分かっている。君にはもっと相応しい方が現れるはずだ。大丈夫 心配無用」

「ルシアン……あなたは頭のネジが緩んでいると言われない?」

「ネジ?頭の中は空っぽなのかとは言われるが、どうだろう」

 真顔で考えた私にミリアは鼻を鳴らして笑う。

 なんの事やらだが笑ってくれるのはただ嬉しいのだ。

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