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私はいつも蚊帳の外

 穏やかな風にそよぐ中庭の木々。青い空、私はいつものように学園の中庭で本を読んでいる。

『恋する為の心の掟』

 見た目からして、まず色恋に縁なくこれまで生きてきた。それが急に家と家の約束とはいえ、婚約者が出来たとなれば知識は必要であろうと手に取った次第だ。で、本の内容を……?


「はっ離して下さい!!」


 ん?何やら良からぬ声がする。

 私は木々の向こう側、噴水広場を覗く為、よっこいしょと腰を上げた。


 なんとそこには、美しいマイフィアンセ。ミリア!

 その手を掴み、抱き寄せキスをせがむのは、カイセル!?な 何をしておるのだ!!!!


「私はルシアンと婚約いたしました」


「知ってるよ。あの豚なんて放っておけばいい」

 豚を放置なんて許さぬ。


 ミリアは、この学園で才女としてもその美貌も一二を争う令嬢だ。多言語を話す彼女を我アンダントル家も欲しがっていた。わが家は小さな隣国に領地を持ち父は隣国の君主も担う。私兵を多く持ちこの国にも従えている。

 伝統ある教育がある学園は隣国にはなく、私はこのバタロニカ王国で育ち学んでいた。


 ああ ミリアはカイセルをあんなに拒絶するのか、てっきり意中の男性は彼だと思っていたが他に居るのだろうか。カイセルは何でも超一流が口癖。そんな彼が一方的にミリアを私物化しようとしているのだろうか?いや見ている場合ではない。


 嫌がっているなら私の出番、ここは私がいっちょ。


「ゴホッゴホッ」

 わざとらしい私の咳払いにカイセルが振り向いた。チッと舌打ちをしたようだが豚の耳に舌打ちだ。聞こえない。


「ルシアンっ!」

 ミリアは私めがけて走り寄ってくる。ふわりと弾んだ髪を左右に揺らし、愛くるしい目を煌かせ。

 両手を広げて私は待つ。さあ飛び込んでおいでこの胸に。


 抱きついた彼女を力いっぱい抱きしめた。

 それを見たカイセルは嘲笑いその場を離れる。

「カイセルは?」

「行ったよ」

「では、離してくださる?」

「ああ」


 私から少し距離を取り、髪を整え

「勘違いしないで。私はこの国の王妃になんてなりたくないだけですの。」

 ほほお、誰もが欲しがるその王妃の座を毛嫌いするのはなぜだろう。カイセルは婚約者が決まっていない。

 これまで話があったという者はみな、不細工だからと断られたという。

 他国の王女を迎えるだろうと噂があるが、彼はミリアを望んでいるのではないだろうか。


 しかし、本の教訓。

 レディの感情は詮索するべからず、干渉すれば逆上されるのがオチ。

 私は「そうか。ならば、ならなければ良い」と返した。


 何か言いたげにこちらを見たまま停止したミリアはまるで小動物のようだ。




 ◇◇◇



 それからの一週間。学園で数々の修羅場が繰り広げられる。私は当然蚊帳の外ではあるが、何故か毎度その修羅場に出会していた。

 何故ならそれは決まって中庭で行われたからだ。私の静かな読書スペースは失われる。


「どうゆうことだ。二人がそういう関係だなんて初耳だぞ」


「魔が差したんだ……いざ婚約が決まったら、二度と他の女性に触れてはいけないのかと思うと虚しくて」


 いや、私は誰にも触れたことないが、そういうものなのか。私はベンチで開いたままの本をそのままに、パトリックとジョージの会話に首を傾げながらも頷いていた。


 しかし、そこへ男二人の落ち着いた雰囲気とは真逆な様子のレディ二人が走ってきた。


「ジョージ!!あんなに私と婚約が決定して喜んでいたのは全て偽りだったのね!イザベル!あなたもとんだ不潔な女よ!!!!その卑しい目、鷲っ鼻見るだけで虫唾が走るわ」


「違うんだ アン!イザベルとは一夜の過ちであって……」


「過ち?!『やっぱり君が好き!君となら毎晩だって』って言ってくれたじゃない ジョージ!」

「ちょっと!パトリックなんか言ってよ!」

「え?」

「もー!いいわっお父様に言うから!」


 とアンはドレスを力いっぱい掴んで走り去った。


 パトリックと婚約したイザベルは、アンと婚約中のジョージと恋仲であるようで、何やらややこしくなったようだ。



 また別の日に、中庭でパチンッとぶたれた男がいた。

「サイテー!!!そんな男だとは思わなかったわっ。もうこうなったら病気ね?病気よあなたは」

「ごめん……抑えられなくて。でも結婚すればきっと……」

「そんな言葉を信じろって?人を馬鹿にするのもいい加減にしてちょうだい。まあいいわ。私、特別あなたが好きなわけじゃないし、貴族が自由恋愛で真実の愛と結婚なんて出来るわけ無いんだから。私も好きにさせていただくわっ!」


 クリスはステラと婚約中にも関わらず不特定多数の女性を相手にしていたと。


 好きにさせていただく?

 私には全く分からない世界の会話でただ開いた本は一向にページが進まずであった。


「ゴーピイ。どうすればいいだろう」と気力の無い声でクリスが隣に腰掛ける。

「いや、私には何もアドバイスなど出来ない」

「……そうだよな」


 クリスはサラサラツヤツヤの金色マシュルーム頭に薄茶色の瞳。純粋無垢な少年を思い描かせるその容姿に反して、とんだ女ったらしであったようだ。


 みな、豚には分からない苦労が耐えないようで、蚊帳の外がこんな時はいいものだとすら感じている。

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