ミリアの鳥
ミリアのおかげで呪いが解け、私達は穏やかな日々を送っていた。
どこへでも共に出かけ、思ったことを口に出し、笑い合う。街に出てハーブティーの店で瓶に詰めてもらい店主と話し込むミリアを見て私はこの上ない幸せを感じる。
当たり前のような日常がこんなに幸せの連続なんだとこの胸に刻み込む。
「ミリア、仕立て屋が午後に来るんじゃ?」
「あ!そうです。急がないと」
結婚式の為、私達は準備をしていた。そう、婚約破棄などする事なく本当にミリアは私の妻となるのだ。ああ夢のようである。学園ではほとんど話したことが無かったのに、いや私はただいつもミリアを見ていた。
彼女の視線がこちらへ向くことが無くても。
いつも凛として冷静に振る舞うミリアを笑わしたいとただ目で追うだけの豚だったが。
聡明で周りに流されず芯のある彼女に惹かれていた。ただ彼女の幸せを願うだけの私が、その幸せを共に築く相手になるとは……。
願いが叶うと思うとこんな私で良いのかと不安にもなる。
◇
夜、ミリアとワインでも飲もうかと私は部屋を訪ねた。
「ミリア」
あれ?眠ったのか……?
コンコンとノックをし、扉に触れるとしっかりと閉まっていなかったのか扉がひとりでに開いてしまった。
私の目に飛び込んだのは、ミリアの部屋を飛び回る鳥?!いやあれはハンカチーフ……。まるで鳥のようにパタパタと羽を動かし……え?なんだ?!
振り返ったミリアは驚いたように「ルシアンっ」と言った途端ハンカチーフの鳥も床へと落ちた。
「ミリア……すまない。勝手に、扉が開いていて……声をかけたのだが」
「ルシアン……私」
私の前へ立つミリアは不安げに視線を落とした。
まさか、魔術で?ミリアは本で学び魔術が使えるように……?
「ミリア、魔術を習得したのか?」
「鳥が飛ぶかやってみたくて……ごめんなさい。私……」
どうした……ミリア、そんな顔して。
「ミリア、どうした?何でも言っていいんだよ。私には全てを。私は君のすべてが愛おしいのだから」
「私、魔術師のお婆さんに、魔術を継承されました」
な……どんな顔をすれば良い……継承……?本格、本物的なものか……。
「ミリア……それが条件だったのか?」
「……はい」
私はたまらずにミリアを抱きしめた。
「そんな怖い思いを……ひとりで抱えていたのかミリア。大丈夫だよ。」
「ルシアン……魔術のことは秘密にすべきですわね?」
「ああ……王もカイセルも魔術師が消えてほっとしていた。秘密にしなければならない。君に危険が及ぶのだけは避けなければ」
万が一ミリアが魔術師だと広まれば、とんでもない。平和な日々を壊したくない……。ミリアを失いたくない……。
私は君を守るだなんて勇ましい男ではないだろう。だが、私はずっと君の味方でいつも君の一番近くにいたい。
「はい」
「ミリア、たとえ君が老婆のようになろうとも私は君を永遠に愛する」
「え?わ 私もです。ルシアン。あなたが例えまた醜い姿になろうとも私の愛も変わることはないわ」




