不愛想な私
「ルシアン おかえりなさい」
領地から戻った私を出迎えたのはミリア。数日会わなかっただけでまた初めて恋に落ちるような程のときめきがこの胸を熱くする。ああ愛しのミリア。
「ああ、わざわざ出迎えなくてよい」
あれ?!なんだ……今のは、私が言ったのか!?私がミリアに……。
なんてことだ……これか魔術師の呪い……。
上着を預かりに来たペリエも不思議そうな顔をする。
「ありがとう ペリエ」
ん?やはりミリア以外には普通に話せるようだ。
食事の時間、ミリアは私の隣でお上品にスープを飲む。
もう一度ミリアの横顔を眺めてみる。ああまた口元にパンプキンのスープをつけて。
拭いたい!拭いたい!私の指で!動けっ指!言葉が無理なら体はどうだ……。
動いた。おお……意思に逆らうことなく動いた指先にこの上ない安堵感が溢れる。そのまま私はミリアの口の横についたそれをなでた。この指先が脳の指示に従ったのだ。実に良かった。
「スープが付いていた。レディらしくないな」
ああ……可愛いなって言いたいのに。
やはり口からは思ってもいない言葉が唐突に飛び出してしまう。
声音も、自分で思い描くよりも冷めたものである。
「あら、それはどうもっルシアンお腹が空いたからじゃなくって?そんなに不機嫌そうな顔」
笑いたくても君に微笑みかけられないんだ……。何なんだろうかこれは……。いつか君がこんな私に愛想をつかして出ていってしまうのだろうか。出発前夜にあんなに甘い口づけをしたのに……。
待て、口づけは出来るのか……?
今は皆がいる。仕方がない。
「不機嫌ではない。君こそもう少し可愛く私に振る舞ったらどうだ。」
「…………」
ああ……。ミリアは驚いて何も言わないではないか。パンをちぎったままその手も止まってしまっている。
「どうしたの?ルシアン、あなたらしくない。」
と母上も私に疑問の顔を向ける。
「ああ 少し疲れたのかも。申し訳ない……。」
「あらそう。ごめんねミリア 気にしないでね。」と母がミリアを気使ってくれたが。
早めに席を立ち、私は自室に戻った。どうしよう。呪いを解くにはどうすれば……。うちに何かそんな書物は無いだろうか。
コンコンコン
扉を開けるとミリアが佇んでいた。不安げな彼女はその美しい瞳をこちらには直接向けず、私の姿を視界の隅に少し入れるほどに俯き気味である。きっと私の言葉に傷ついただろう。ごめんよミリア……。
「ミリア 何の用だ?」
えーっ!私は今、"さっきはすまない"って言ったつもりだったのだ……これでは何も言わないほうがマシではないか。
「あ いえ 何でもないわ。少し様子が違ったので気になって。特に用は無いのです。」と去ろうとするミリア。
くそっ。私はミリアの手をぐいと引っ張った。
そのままぎゅっと彼女を潰れそうなほどに抱きしめる。こんなに小さな体だっただろうか、華奢で柔らかな君を全身で感じた私はやはり"会いたかった"と言いたい。君に伝えたい……。
「用がないなら来るな」
ああ……これでは変な男だ。
「あ では おやすみなさい……。」
そんな私の言葉とは相反する行動にミリアは動揺しながらも部屋へと戻っていった。
私も動揺している……。
頼む、ミリア……私の君への愛情を信じてくれ……泣きそうだ。




