二度目の呪い
「では行って参る」「いってらっしゃいませ」
「行ってきます。ミリアくれぐれも気をつけて」
「はい ルシアン」
花のように柔らかな微笑みを向けた彼女に後ろ髪を引かれながら私は父と馬車へ乗り込んだ。
危ない道といっても、山賊が出たり道が狭かったりするだけで通いなれた道ではあった。
護衛もいる為まず山賊は狙っては来ないだろう。
「この峠を過ぎたらひと休みしよう」
「はい 父上」
「それにしても、お前たちが本当に呪いのせいで顔も体型も変わっていたとは驚いたな」
「はい。しかし、自らが呪いをかけた訳では無いのにカイセル王太子や陛下がああなったのは心が痛みます」
「そうだな。何事も下から上へ登るのは良いが、持っていた物を突如失うのは辛いものだ。」
山中のいつも寄るレストランで昼食を取る。
ここのマッシュポテトは絶品でいつもレッドビーンズとセットで頼む。
護衛の隊員達もどんどん口に運び、他愛もない話に花が咲く男だらけの集団だ。
食べ終わり、用を達した私が戻ると皆いびきをかいて眠り込んでいる。
なんだ……これは……。
「おいっどうした?!」声をかけても揺すっても起きない。誰一人として起きないのだ。
「父上!父上!皆がおかしいです!」
「グーああ~ スー」
駄目だ。眠り薬か?!誰が……私だけ口にしていないもの……いや皆と同じだ。
「すいません!どなたかいますか?すいません!」
厨房をのぞくと皿洗いをしたまま立って眠る人までいる。何だこれは……しかし、奥で包丁のコンコンという音がした。
そこへ足を踏み入れると、年老いた女性がじろりとこちらを睨んだ。
「あ~あ、悪いね……。わたしもこんなこったしたくはない。だが我ら魔術師の使命はこの世界を良い世界にすること。あの王家の血筋を絶やしあんたらを守るにはこれしかなかったんじゃ……許せ」
「な 何の話を……?」
「私は魔術師最後の末裔だ。ひっそりと山に籠もっていたのをカイセルに見つかってなあ」
「カイセル……。」
「みすぼらしいほどに必死じゃよ」
「……まさか、ミリアに魔術を?!」
「いーや。今からかける。世界を救うためだ。ただしミリアにかけはしない安心しな。あんたにかけるから」
「わ 私?」
そうかまた醜男に戻るのか、なんの事やら分からないが世界が救われミリアが守られるなら醜男にでも豚にでもなろう。
「ん?あんたあまり理解力なさそうだね……。」
包丁にジャガイモを突き刺して魔術師が溜息をついた。
「え」
「よーく聞きな。カイセルはミリアがあんたを嫌うだろうとあんたを豚に戻してくれと言った。だがね、私は言ったよ。ミリアは豚でもルシアンが好きだったと。
ははは何でもお見通しさ。
そうしたら、カイセルはあんたから優しさを奪えと言った。だが、そんな大きなものを奪うにはカイセルの命と引き換えになる。
それを聞いたカイセルは、結局あんたのミリアへの優しい言葉を奪えと言った。その代わりに私は、カイセルの寿命をもらう事にしたんだよ。」
「え?!寿命?カイセルはいつ死ぬのですか」
「あんたはどこまでお人好し……自分の心配しなっ!カイセルは今すぐは死なない。どうなるかはあんたには秘密だ。あんたも呪いや私の事をを他者に言えばどうなるか、命の保証はしないよ。まあ言えないようにしておくから安心しな。それから私は身を隠す。カイセルさえ早死し王家の血筋が耐えれば私は使命を全うできる」
そう言って老婆は七色の光を放った。
眩しい……!あああっあのときと同じ眩しくて何も見えない……ただ手探りであたりの食器を落としただけであった。
光が消え、目を凝らすと老婆は消えていた。切りかけのジャガイモだけが床に転がる。
後の皿洗いをしていた少年が動き出し
「あっ!すいません僕皿割りました!!」と叫んだ。ああそれ割ったのはきっと私だ。
「すまない。私が割ったようだ。代金にのせてくれ」
皆のもとへ戻ると、眠っていたのが嘘かのように話声がする。ん?私が夢を見ていたのか……?皿はたしかに割れていたが。
「父上!さっきあちらでひ ひ な……あれ」
「なんだしゃっくりか?水を飲め」
……七色の光の話をしようとすると、光という単語が出せない。……ならば魔術師、老婆の話を。
「父上!ろ まじゅ ろ……」
「なんだ?変なやつだな。マジュロン?そんな菓子があったような無かったような……。ああマカロンだ!!」
……駄目だ。




