柔らかな優しい香り
「さ、ここが君の部屋 母が張り切ってデコレーションしたらしい。ちょっと可愛すぎたかな」
母はピンクを主にブリブリなプリンセスのような部屋にしてしまった。娘も欲しかった母にとってミリアは可愛いようだ。
部屋を見渡したミリアは小さくくすりと笑った。
「私には似合わないくらいに可愛いお部屋」
「あっ気に入らなければ、元々使っていたものを持ってきても良いし、好きに……」
「ルシアン 私にはこんなピンクは似合わないと?」
な なんだ?ああ私はまた無神経な事を言ってしまったようだ。
「まさか、君が気に入らないか心配だったんだ。君にはピンクもよく似合う。可愛いから」
つい可愛いからなんて失礼な言い方をしてしまった。ミリアは可愛いなんて馬鹿にしてるの?って怒るタイプだ。聡明な彼女に可愛いなど……言ってはならなかった。
「あ ありがとう」
「ひぇっ?」
ミリアが素直にありがとうと。可愛いにありがとうを言った。これは……どんどん可愛いって言い続けても良いのか。
しばしの沈黙……。改めて部屋で二人っきりとなると心臓が口から飛び出そうだ。飛び出ないように何度もゴクリと喉を鳴らす。
ミリアは気にもしていないのか部屋をくるくる回っている。明日から私は領地へ数日行かねばならない。ミリアを連れていきたいが、父が危ない道を通るからと反対した。
「ミリア、明日から父と私は領地へ行く。危ない道だからとミリアと母には残ってもらう予定だが大丈夫かな。ここなら護衛もしっかりしている」
「お父様とルシアンの護衛は?しっかりしてますか?」
「ああ いつもどおりの兵をつけて行くはずだよ」
「そうですか。なら大丈夫です……。」
ミリアは素っ気なく答えた。
私達の安全を気にかけてくれたようだがさすがは、賢い彼女は淡々としている。
だけど、そんな賢さに寂しさがこみ上げる私はどうすれば。ここは一か八か。ぶたれたって構わない!
「ミリア 私が戻るまで無事でいてくれ」
戦場に行くわけでも無いのにこんなセリフをはき、私はミリアのそばに歩み寄る。
さっきの挨拶のハグは受け入れてくれた。まあ、半分事故的に抱きついてしまったが。
今回は、本当の抱擁をしたい。
よしっベッドの脇でトランクを開けようとしているミリアに歩み寄った私。背を向けた彼女にもう一度「ミリア」と近くで呼ぶと。
トランクを持ったままミリアは勢いよく振り返った。
私はトランクに頭を叩き弾かれ「痛っ」とベッドに倒れる。
なんと間抜けな失態。レディのベッドに勝手に転がるなど。
しかし、私と足が絡まったのか今ミリアもベッドに突っ伏している。ああ何ということだ怪我はないか。
「ミリア すまない。怪我はないか 近づきすぎたようだ」
と彼女の肩を持ち仰向けにする。ミリアの肩は大きく震えていた。まさか、泣いているのか?!ミリア!
細く小さな手で顔を覆ったまま、まだ震えている。
私はいてもたっても居られず、ミリアの横に肘をつき、その手を剥がした。
そこには笑うあまり肩を震わすミリアがいた。
私が笑って欲しかったミリアが今大笑いしている。なんという幸せ。顔にまでかかり、乱れた彼女の真っすぐな長い髪をゆっくりとはらい、私は抱きしめるどころかその可愛い唇を奪ってしまった。
不器用な私の初めてのキス ブチュっとされミリアは固まっていた。
そんな私の左側に2つの視線を感じる。
ゆっくりと首だけを向けるとそこには目をまんまるにしたペリエとマリーが同じように口を抑えていた。
「あ あああ違うんだっ。これは その」
「失礼いたしましたっ」「ごゆっくり ルシアン様」
マリーは焦った様子で、ペリエは嬉しそうにまた扉を締め出ていった。
あ、私はまだミリアの上に覆いかぶさるようにしたままであった。
立ち上がり「すまない ミリア」
「謝るのですか?!今のは……違うことはないですよね。事故ではない……ですわ」
白状しろといわんばかりの目で私をじっと見るミリアは顔を真っ赤にしていた。
「ああ、違うことはない。こ 故意的だ。帰ると言われても仕方がない。」
私は覚悟した。
「分かりました。故意的だと認めてくださって安心しました。」
「…………」
では帰りますと言われるのか。言われるだろう。ああ情けない。感情に流されて了承を得ずに唇を奪うなんて。奪い方も知らないくせに。
「どうしてあんなに、ぎ ぎこちない……のですか?」
「あ あははは 初めてしたから。……面目ない。」
「……初めて」
何やら落ち着いた様子でミリアは私に歩み寄る。
「目を閉じてくださいっルシアン」
あ、私は今からブッ叩かれるらしい。私はそっと目を閉じ歯を食いしばる。
ん?!なんだこの柔らかな感触は……うっすら目を開けると同じく目を閉じたミリアが私に口づけをしていたのであった。
優しい香りがした。
私はそのままミリアをぎゅっと抱き寄せた。




