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ジェナ 8

ペガサスの代わりにやってきたのは、赤毛の天馬だった。美しさではペガサスよりも見劣りするが、優しい瞳とジェナとマーティンへの礼儀は、比べ物になら無いくらい信頼ができるものだった。

 「ああ、この馬なら安心だわ」

 メイヤーはそう言って手を叩いた。

 ジェナとマーティン、そして、メイヤーとケビンは村人に見送られながら出発した。

 「なんだか、出発前に疲れたわ」

 「いやあ、驚きですねえ、ペガサスって美しくて気高い生き物だって思ってましたよ。いやあ、本当にいるとも思ってなかったんですけどね」

 マーティンは笑いながら言った。

 「ええ、魔界でも大昔、そう思われていました。あれだけ美しい天馬だから、心も同じくらい美しいのだろうと。子供のように無垢で、純粋な存在だろうと。特にペガサスに心酔したのが若い女性たちです。一目、その姿を見たいと森に足を踏み入れる女性もいました。そして、ある時期に、勇気ある女性が声をあげてくれたんです。ペガサスがどんな馬なのかを。それまでも被害はあったんです。でも、皆大っぴらには言い出せなかった。恥ずかしいですからね。自分が騙されたのだから、自分が悪いのだと思い込んでしまう若い子達がほとんどだったんです。その女性が新聞社に話をしてくれて、それが大勢の知るところになってやっとペガサスの悪事が知れわたりました。あと少しで騙されるところだったという女性たちからの感謝の手紙や投稿が相次いで、やっと問題があると認識できたんです」

 メイヤーの言葉に、ジェナはショックを受けたようだ。マーティンはそれを見て、話題を変えようとしたが、メイヤーがそれを許さなかった。

 「ジェナちゃん、これから魔界に行こうってときに、こんな話をしてごめんなさいね。でも、こういうことはちゃんと知っておかないと駄目。特にあなたは女の子だから、妊娠の心配もあるから、相手はちゃんと選ばないと」

 「ちょっ!?メイヤーさん!ジェナはまだ子供ですよ!」

 「もう、あと2年で結婚ができる年齢ですよ。あと二年したら突然妊娠や子供の知識が降ってくるとでも?これから働きに出ようっていう女性が一番気をつけないといけないのは、その体を狙っているペガサスみたいな男です。マーティンさんが都行きを反対しているのも、そういう人間がいるからでしょう?」

 「い、いやまあ、そうですが・・・」

 マーティンの言葉に、ジェナは驚く。

 「そうなの?それで、あんなに反対していたの?」

 「いや、まあ・・・」

 「ジェナちゃん、さっきのことを思い出してみて。あなたはペガサスにうっとりだったわ。私がペガサスの噂を話して聞かせても、それを信じることに躊躇っていたでしょう?そういう女性はいっぱいいるの、今でもね。噂の真偽を確かめるためにペガサスに会いに行くと、ペガサスはその麗しい瞳でまっすぐに女性を見つめて、『僕を信じて、あなたを愛しています。あなたと人生を共にしたい。ほら、奇跡が起きて僕はあなたと同じ姿になった』って言うのよ。女性はその言葉を信じて一夜を共にして、そして、次の日起きてみるともう隣はもぬけの殻」

 「・・・クソだわ」

 「でしょう?処女でなくなった女性に興味はないの。次に会ってもさっきの私みたいに唾を吐きかけられるだけ。話しすらできないわ。こういう男はペガサスだけじゃない。エルフにもドワーフにも、人魚にもいる。もちろん、人間にもいるわ。そうよね?男性代表?」

 ケビンとマーティンんはメイヤーにそう聞かれて、「・・・そうっすね」「・・・ええ、まあ」と答えにくそうに答えた。

 「そうだったんだ・・・確かに心配よね、私は騙さやすいわ、絶対・・・」

 「ええ、そう。マーティンさんの心配はよくわかるわ。でも、それをちゃんと説明しないのはよくないと思うの。ジェナちゃんは悪い男に引っ掛かるかもしれない。でも、それをちゃんと自分でわかっていることとわかっていないことは大きな差があるの。悪い男がいることを知っていることも大切よ。それを知っているだけで、気を付けることができるし、気を付けなきゃと思うし、なにより、両親や友達に相談ができる。相手の男がリップサービスで甘い言葉を囁いているのか、本気でそう思っているのかを判断することはどんな玄人でも簡単じゃない。それをできるようになることはとても大切。皆と、悩みながら、相談しながらしていけば、皆で成長できるわ。マーテルちゃんたちも一緒にね。この話しは近いうちにしようと思っていたの。ペガサスが来たのは誤算だったけど、まあ、丁度良かったわ」

 メイヤーは少しスッキリしたように、そう言った。

 ジェナとマーティンは顔を見合わせる。

 「・・・お前もわかっただろう?ああいう男はいるんだよ、都には」

 「パッパース村にはいないの?」

 「・・・」

 「どこにでもいるわ。これからそういう男に成長する可能性もある。女かもね。どこにいるとしても、その知識は持っているべきよ」

 ジェナは頷いた。真剣な顔をしている。

 マーティンはそんな彼女を心配そうに見ている。親心としてはこんな話を聞かせたくはなかっただろう。

 「マーティンさん、あなたの許可もなしにこんな話をして、申し訳ないと思っています。でも、今が一番いいと思ったんです。ペガサスのあの様子を見て曖昧に話を終わらせるよりは」

 「ええ、わかっています。私もケイトも、話さないといけないとは思っていました。ずるずる引き伸ばしてはいましたが・・・ありがとうございます」

 ジェナはマーティンの様子を見て、同じくメイヤーに礼を言った。

 「私も聞けて良かった。父さんと母さんが心配していることを、ちゃんとわかってなかった」

 二人の言葉を聞いて、メイヤーは安心したように微笑んだ。

 「あ、そうだわ、忘れてた。朝食にしましょう!とっても美味しいのよ!」


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