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ジェナ 5

「えー?もうばれちゃったの?」

 その日の夕方、マーティンとケイトが帰った後、マーテルが古城へとやって来た。ジェナは怒りが収まらず、古城のキッチンの隅でビスケットをかじっていた。

 「父さんは全然話を聞いてくれない!理解もしてくれない!とにかく危険だから行くなってばっかり!」

 ジェナはマーテルの顔を見ると、堰をきったように不満を爆発させた。

 マーテルはそんなジェナの話を最後まで聞き、「よし、それじゃあ新しい作戦考えよう」とジェナの目を真っ直ぐに見つめて言った。

 ジェナはそんなマーテルを見て、大きな瞳にみるみる涙を浮かべた。

 「うっうっ・・・ありがとうマーテル。あんたが味方でいてくれることがすごく嬉しい」

 そう言って、マーテルの腰に抱きついて泣き出した。

 「うん、あたしは味方だよ。ジェナは絶対に都の裁縫学校に行くべきだと思うもん。魔界にあるならそっちも良いわね」

 「うう・・・でも、魔界はやっぱり怖い~でも、材料のお店が一杯あるのは羨ましい~」

 ジェナは泣き終えるとスッキリしたようで、マーテルと二人で、キッチンのテーブルにやって来た。

 「ジェナちゃん、落ち着いた?さあ、お茶を飲んで」

 メイヤーがぬるめに淹れたお茶を出してくれた。

 ジェナはビスケットと大泣きで乾いた喉を潤した。

 「ありがとうございます、メイヤーさん。あと、ごめんなさい、親子喧嘩に巻き込んじゃって・・・」

 「いいのよ。私もいずれメーラとああいう喧嘩をすることになると思うと、すっごく参考になるわあ」

 メイヤーはそう言って笑う。

 「メイヤーさんもメーラと喧嘩するの?」

 「するわよお。するする。メーラって割りと自分で考えて結論まで出しちゃうから、反対するのが大変なの」

 「でも、メーラは危ないことはしなさそうだよね。頭も良いし」

 ジェナの言葉に、メイヤーは真顔になった。

 「この世界は危険なことだらけなの。いくら頭の良い子でも、思わぬところから怪我をすることだってあるわ。私やマーティンさんやケイトさんは、ジェナちゃんたちよりそれを少しだけ多く知っているの。でもね・・・」

 ジェナとマーテルは、メイヤーの言葉の続きを食い入るように聞いている。

 「危険だからって子供たちになにもさせないのは、私もおかしな話だと思う。それならいっそ、産まなければいいの。この世に産まれなければ苦しいことも痛いこともなにも知らずにいられるんだから。親は子供を守りたいとは思うけど、全ての災いから守ることなんて到底不可能。そして、子供もそれを望まないわ。だって、お家から一歩もでずに生きていくなんて、嫌でしょう?」

 「絶対に嫌!」

 「そんなことをするために産まれた訳じゃないもん!」

 ジェナとマーテルは頷いた。

 「でも、当然だけど、やりたいことを何でもやって良いかというとそう言うわけではないのよ。これは二人もわかってるわよね。たった一人で生きていくというのならそれも可能かもしれないわ。でも、二人には家族がいる。友達もいる。この村の一員でもある。その為にやらなきゃいけないこともあるわ。全てを自由にはできない。でも、できる限りの自由を手にいれたい。生きるって大変ね。特にあなた達人間は時間が少ないもの・・・」

 メイヤーはジェナとマーテルを見て、ケビンを見てため息をついた。

 「大変よね、こんなにも若いうちから将来のことを考えなければいけないなんて。あと数年で子供を持つ子もいるなんて・・・あなたたち人間の一生はとても凝縮されたものなのでしょうね」

 メイヤーの言葉に、ジェナとマーテルは顔を見合わせる。

 メイヤーはふわりと微笑んでお茶を飲んだ。

 「さて、これからどうしましょうか。何か作戦はあるの?マーテルちゃん」

 メイヤーの言葉に、マーテルは目を煌めかせた。



 四人で話をしていると、ジェナの母親のケイトがジェナを迎えにやってきた。

 少しぎすぎすした空気を纏いながらも、ジェナとマーテルはケイトと一緒に帰っていった。

 「・・・寿命が短いって大変ね」

 帰っていく三人の後ろ姿を見送りながら、メイヤーがポツリと言った。

 「私にはいくらでも時間があったわ。飽きるくらい魔法の勉強ができたし、研究もできた。仕事にだってたくさんの時間を割けた。結婚と出産にも十分に悩む時間を貰えたわ。でも、あなたたちは私たちほど悩む時間がない。試行錯誤する時間が無さすぎるわ。ケイトさんたちはまだ30数年しか生きていないのよ。そんな少ない時間で何ができるの?この村を出ていくジェナちゃんに教えてあげられることを知ってるの?」 

 「知らないでしょうね。良い噂も悪い噂も聞いてはいるけど、それは伝聞であって実体験ではない。そこから生まれてくるのは、よくわからないという恐怖です」

 ケビンは答える。

 「怖いからジェナちゃんを応援してあげられないのよね。なにかあっても助けてあげられるかどうかわからないから」

 「助け方もわからない事態が起きると思います。都では特に」

 「怖くて当たり前だわ。あまりにも情報と体験が少なすぎる。私は、歳を重ねるほど出産を急がなくて良かったと思ったものよ。次から次に知らなかったことが起きるんですもの。怖いことも、楽しいことも。それを知らずにメーラを産んで育てるなんて・・・落ち着いて育てるなんてできなかったでしょうね」

 メイヤーは困ったように頬に手をあてる。

 「ケイトさんたちの心配も、ジェナちゃんの気持ちも痛いほど良くわかるわ。どうしましょう・・・」

 メイヤーの悩む姿に、ケビンは「大丈夫、手はあります」と微笑む。

 「寿命が短い俺たちなりのやり方があるんですよ。メイヤーさんはこれまで通り、あの子達の味方でいてあげてください」

 「そうなの?わかったわ」

 メイヤーはほっとした顔でそう答えた。


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