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ジェナ 4

 ジェナはケビンを連れて客間へと戻ってきた。

 「あれ?マーティンさんとケイトさん?どうしたんすか?あ、今帰りました」

 最後はメイヤーに向かってそう言って、ケビンは客間を見回す。

 「おかえりなさい、ケビン君。ちょうど良いわ。あなたもここに座って」

 メイヤーはケビンが腰を落ち着けると、手早くジェナの事情を説明した。

 「へえ!そんなことになってたのか。いやあ、お礼が凄かったから、気に入ったんだろうなとは思ってたけど・・・ほい、妖精たちからお前にお礼の金貨」

 ケビンから手渡された巾着は、パンパンに膨れていた。口を開けると、中から蜂蜜の香りが立ちのぼる。両手に収まりきらないほどの金貨の量に、ジェナだけでなくマーティンとケイトも目を丸くする。

 「こ、これって、本物の金貨?」

 「ああ、そうだよ。っていっても、こっちじゃあ通貨みたいには使えないけどな」

 「あ、そっか・・・魔界で使えるの?」

 「魔界でも使えないわ。でも、魔界の通貨に交換はできるわよ。これだけあったら、10年は遊んで暮らせるわね」

 「10ねん!?すっごーい!!」

 ジェナの目が煌めく。

 「人間にもコインのコレクターがいるから、金に替えることはできるぞ。ただ、売る相手を探さないといけないけどな。売る相手によってはこっちでも10年は固い」

 「すっごーい!」

 ケビンの言葉に、マーティンとケイトの目も輝く。

 「よ、妖精ってのはそんなに金持ちなんですか?」

 「うーん、それが、妖精金貨については私たちも良くわかっていないんです。妖精さんたちに聞いても、詳しく教えてくれなくて・・・まあ、そのお陰で妖精金貨はすごく価値があるんですけどね。ねえ、ジェナちゃん、匂いかいでも良い?」

 「いいですよー」

 ジェナは巾着を丸ごとメイヤーに差し出す。

 メイヤーは一枚金貨をつまみ、くんくんと匂いをかぐ。

 「うーん、良い香り。メーラが赤ちゃんの頃、これを探したのよ。懐かしいわ」

 「どうして?」

 「妖精金貨は幸運を運んでくれるって言われているの。妖精に良いことをしてあげると、その夜、枕元に妖精がこの金貨を運んできてくれるのよ。妖精に会うのはすごく難しくて、10歳以下の子供が会いやすいって言われているのね。妖精金貨を貰った子供はそれをお守りとして持っていると、健康で安全に過ごせるって言われているのよ」

 「そうなんだ!それじゃあ、これ、マーテルたちにもあげなきゃ!」

 「お、おまえ、バカ。こんな高価なものをあげるって・・・」

 マーティンが呆れたようにそう言った。

 「でも、どうせ、通貨としては使えないんでしょう?それなら、皆を守って欲しいもの。はい、ケビンにもあげる。これはメイヤーさん。お母さんとお父さんにはお守り袋作ってあげる。それに入れておくといいわ」

 ジェナの太っ腹な言葉に、両親は目を丸くし、ケビンとメイヤーは苦笑する。

 「オレはいいよ、一枚持ってるから」

 「私もいいわ。メーラはもう持ってるみたいだし。それよりお友だちにあげてちょうだい」

 ケビンとメイヤーは申し出をありがたく辞退する。

 「そう?それじゃあ、そうしよっかな」

 ジェナは金貨を数えながら「マーテルとエイミーと・・・」と、友人たちの人数を数えはじめた。

 「ちょっと待て、ジェナ。妖精金貨を友達にあげるってことは魔界には行かないってことか?あっちだったら通貨と交換できるんだろう?」

 マーティンさんの言葉に、ジェナは一瞬キョトンとしたあと、しまったという顔をした。

 「ジェナ?」

 「お前、なに考えてる?」

 マーティンとケイトに詰め寄られ、ジェナは「あー・・・ごめんなさい!」と白状した。

 「実はね、魔界には最初から行く気は無かったの。やっぱり、遠いし、怖いし・・・」

 「え?それじゃあ、どうしてあんなこと言ったの?迷ってるみたいだったじゃないの?」

 「うん・・・その・・・都の学校に行きたかったから・・・魔界に行くくらいなら都に行けって言ってくれるかなあって・・・」

 マーティンとケイトは、ジェナの顔をじっと見つめる。

 「マーテルでしょう?そいうことを考えるのは」

 「う・・・なんでわかるの?」

 「わかるわよ!もう!おかしいと思ったわ!あんたが魔界に行きたいなんて言い出すなんて、絶対に無いと思ってたもの!」

 ジェナは認めた。

 クレイから手紙が来た日、マーテルが考えてくれたのだ。これを利用して、ジェナの都行きを確定してしまおうと。ジェナの両親がジェナが都へ行くことに賛成していないことはわかっていた。学費を貯めろと言ったのも、ジェナが諦めるのを待つためだとわかっていた。ジェナは諦める気はなかったが、バイトの給料を考えると、学費を貯め終わるのはかなり先のことになってしまう。

 両親の協力なしにジェナは都の裁縫学校へは行けないのだ。

 マーテルにはその事を相談しており、そして、あの日、マーテルはとても良い案を思いつてくれた。

 ジェナが魔界へ行くか都へ行くかを迷っているふりをすれば、両親は泡をくって魔界行きを諦めさせようとするだろう。そこで、交換条件を持ち出すのだ。魔界は諦めるから、都へは行かせてくれと。

 (相変わらず、あいつは悪知恵が働くな。良い商売人になりそうだ)

 ケビンはジェナの話を聞きながら、心のなかで苦笑した。

  

 

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