00021話「栄枯盛衰」
しばらくの間コレットと二人で会話していると、キャサドラ先生が部室に入ってきた。
話を中断し、コレットが先生の元へ駆け寄る。
「ぁ、あの、先生・・・・・・。」
「どうしましたか、コレットさん?」
「え、えっと・・・・・・椅子が足りなくて・・・・・・。」
「あぁ、そうでしたね。では備品管理室に行って借りてきていただけますか?」
「わ、分かりました・・・・・・っ。」
「申請用紙はどこにしまったかしら・・・・・・。」
キャサドラ先生は小さく呟きながら戸棚にある小さな引き出しを端から開けていく。
「・・・・・・あったわ。」
小さな用紙にサラサラと必要事項を記入し、その用紙をコレットに手渡す。
「それではお願いしますね、コレットさん。」
「は、はい・・・・・・っ。」
用紙を受け取ったコレットは早足で部室を出ていった。
「フフ、普段この部室には人が訪れることがありませんから、張り切っているようですね。さて、アリューシャさんにはこちらを。」
そう言ってキャサドラ先生が小さな冊子を手渡してきた。
表紙には【部活動のしおり】と書かれている。
パラパラとページをめくると中には生徒たちが描いたであろう個性豊かな部活動の紹介が載っている。
「それと、こちらが入部届です。明日の昼休みが終わるまでに提出してくださいね。」
「入部届は今出しても構いませんか?」
「えぇ、構いませんが・・・・・・ゆっくり考えなくて大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
受け取った入部届に必要事項を書き込んでいく。
と言っても、クラスと名前、希望する部を書くだけの簡易なものだ。
すぐに書き終え、入部届をキャサドラ先生に手渡す。
「魔法道部・・・・・・ですか。だからコレットさんも張り切っていたのですね。でしたら少し失敗しましたね。」
「どうしたんですか?」
「いえ、コレットさんに頼んだ椅子を備品の貸し出しではなく、部の備品として申請しておけばと思いまして。まぁ、それは後ほどしておきましょう。」
なるほど、貸し出しだと返却しないといけないしな。
「それで、キャサドラ先生。魔法道というのは具体的に何をするんですか? 大会なんかもあるようですが・・・・・・。」
チラリと壁に貼られたポスターに目線を向けながら先生に問いかける。
「部活動では魔法の修練をしてもらうことになります。大会はその成果を披露する場です。そうですね・・・・・・見てもらった方が早いでしょう。」
そう言ってキャサドラ先生は立ち上がり、戸棚から古びた小さな魔道具を取り出して机に置いた。
何やらメーターが付いた台座に薄い円盤が乗った薬研のような形をしている。小さい割にはかなり重そうだ。
「この魔道具は何ですか?」
「魔力を量る魔道具と言ったところですね。この円盤部分に魔法が当たると台座にある針が動いて、受けた魔法の魔力を示すようになっています。」
「なるほど・・・・・・。」
「では少し手本をお見せしましょうか。」
キャサドラ先生が円盤に手をかざし、”風”の魔法を唱えた。
円盤部に風が当たるとメーターの針がゆっくり動き、二目盛り過ぎたあたりで止まった。
「これで今の魔法は2.3点といったところでしょうかね。」
大会ではもっとデカい計測器に魔法をぶつけて、その得点を競うのだそうだ。
それなら大会を勝ち進んでレンシア市に行くというのも不可能ではないだろう。
「少し触ってみてもいいですか?」
「構いませんよ。重いので気を付けてくださいね。」
少し持ち上げてみると、見た目以上に重い。
原因は台座に乗っているCDを数枚重ねたような円盤部分だ。どうやら魔鋼で出来ているらしい。
魔力に触れると軽くなるという性質を利用して計測を行っているようだ。面白いことを思いつくな。
ぺたぺたと魔道具に触りながら説明を受けているうちにコレットが戻ってきた。
「も、持ってきました・・・・・・っ。」
よほど急いだのか、頬が上気して息が上がっている。
「ありがとうございます、コレットさん。貸出証はもらってきていますか?」
「は、はい・・・・・・これです。」
「はい、結構。では借りてきた椅子を部の備品として申請し直してきますから、返却しないようにお願いしますね。」
キャサドラ先生はコレットから貸出証を受け取ると、入れ違いに部室を出ていく。
「え、えっと・・・・・・どういうこと?」
「私が部員になったから、椅子を部の備品にするんだって。」
「ほ、ほんとに・・・・・・!?」
「うん。もう入部届も出したから、私も正式な魔法道部の部員だよ。」
コレット泣きそうな、笑いそうな、もにょもにょと表情が変化して上手く感情が出せないようだ。
まぁ、嬉しいのだということは伝わってくる。
「あ、それ・・・・・・。」
コレットが机に置かれていた魔道具を見つけた。
「そうそう、さっきまでこの魔道具の説明を受けてたんだ。ちょっと試してみるよ。」
屋内では”風”の魔法のみ使用可だったな。
ちなみに屋外では制限無いのだが、”火”の魔法だけは先生の監督下で行う必要がある。・・・・・・学校が燃えたら大変だしな。
「てことで・・・・・・”風”。」
適当に呪文を唱え、それに合わせて魔力を操作して風を作り、計測器にぶつけた。
すると計測器の針はビンと最大値まで振り切り止まってしまった。
「あ、今ので強すぎなのか。なかなか塩梅が難しいね。」
狙い通りの値に止めるのは難しそうだ。
でもこうして目に見える形で結果が表されるのなら、魔力操作の良い練習になるかもしれない。
「・・・・・・ア、アリスちゃんって魔法道やってたの?」
「いや、今日初めて聞いたよ。」
「じゃ、じゃあどうしてそんなにすごい魔法がつかえるの・・・・・・!?」
「え、今のがすごいの?」
魔法が衰退していることは感じていたが、まさかそこまで廃れてしまっているのか?
確かに便利で楽に使える魔道具があれば魔法はいらないだろうけど・・・・・・。
「す、すごいよ。だって、わたしなんて全然・・・・・・。」
コレットはその後の言葉を飲み込み、暗い表情で俯いてしまった。




