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00011話「決まらないのは今日の」

「ここがアタシの家だ。」


 カレンに連れられて到着したのは、商店街から少し離れた場所にある共同住宅の一室だった。

 有り体に言えばボロアパートの一室である。

 ただ古い建物ではあるものの、手入れは行き届いており小綺麗にされているため嫌な感じはしない。


 部屋の中に通されると、単身者用のワンルームで彼女の印象通り乱雑に物が散らかった部屋だった。

 しかしその割には物が少ないという印象も受ける。なんというか、所々ポッカリと隙間が空いているような。

 ふと部屋の隅に積み上げられたものに目が留まる。


「荷造り? してるんですか?」


 色々と詰まった箱が積み上げられているようだが、荷造りというにはお粗末な詰め方である。

 適当な箱に適当に放り込んでいるだけなのか、下着がはみ出ている。


「あぁ、近いうちに引っ越すからな。勢いでおチビを引き取っちまったけど、ちょうど良かったのかもな。あっちの家はアタシ独りには広過ぎるし。」

「引っ越し・・・・・・ですか。」


 本当に”これから”というところだったのだろう。

 気丈に振舞ってはいるが、彼女の漏らした嗚咽はしばらく耳の奥にこびりついて回りそうだ。


「何黙ってんだよ。もう腹減ったのか? ちょっと待ってろよ。」


 カレンはそう言うと、荷物を置いて台所に立った。

 部屋の中とは違い、台所は綺麗に整理整頓されている。

 部屋が散らかっているのは引っ越しの準備の所為で、実は家庭的なのかもしれない。

 下着がはみ出した荷造りもきっと後でやり直すに違いない。


 だがそれはやはり淡い期待だったようだ。

 ドンガラガッシャーンという擬音を人生で初めて聞いた気がする。

 どこをどうしたのかは分からないが、あれだけ綺麗に整頓されていた台所は少し目を離した隙に悲惨な状態になっていた。


「あの・・・・・・何したんですか?」

「いや、シラインが簡単そうにやってたからアタシでもいけるかなって・・・・・・。」


 なるほど、台所が綺麗だったのは彼が管理していたかららしい。

 そしてカレンは台所に立たせてはいけない人種なのだろう。


「私がやりますから、カレンさんは荷造りの続きをしておいてください。」

「・・・・・・おチビが出来るのか?」


「得意ではありませんけど野営で料理当番をすることもありましたから、カレンさんがやるよりはマシかと・・・・・・。」

「うぐ・・・・・・分かった、やってみろ。」


 カレンに代わって台所に立ち、とりあえず軽く片付けてスペースを確保。

 買い物袋を覗いて献立を考える。

 随分適当に食材を買うなと思っていたが、どうやら何も考えずに買っていたらしい。大量に。

 まぁ、足りないよりはいいか・・・・・・余った分はこっちの冷蔵庫に――


「あの、この魔道具は何ですか?」

「ん? 冷蔵庫だよ。中に物を入れとくと冷えるんだ。そんなことも知らないのか? 外にも出回ってるはずだけど・・・・・・。」


「も、もちろん知ってますよ! 私が知ってるのとは色とかが違ったんで・・・・・・!」

「あー、確かに色々種類もあったしなぁ・・・・・・。」


 この時代は冷蔵庫が一般家庭にまで普及しているようだ。あとは洗濯機とテレビだな。

 もしかして、あっちにある魔道具が洗濯機か? テレビはさすがに無さそうだが。


「って、お前、思い出したのか!?」

「へ? 何をですか?」


「何をって、料理当番してただとか言ってたじゃねえか! 何か思い出せたのか!?」


 カレンにガクガクと肩を揺らされる。

 し、しまったー!

 そういや丁度いい感じに記憶を失くしてる設定にしてたんだった!

 でもそれだとこの先やっていくには少々辛いか・・・・・・よし。


「そ、その・・・・・・お父さんとずっと旅をしてたことは覚えてます。その時に料理当番とかもしていました。」


 この言には本当のことも含まれている。

 親父とは冒険者ギルドの仕事でちょっとした旅をしたこともあるし、料理当番をしていたのも本当だ。親父の料理が不味すぎて・・・・・・。

 当初は他の冒険者に料理を教えてもらったりしたものだ。


「ただ、どうして旅をしていたのか、とかは分かりません。教えてもらっていませんし。」

「そりゃあまぁ・・・・・・色々あったんだろうよ。」


 妻に愛想をつかされて家を追い出された、ならあり得そうだ。


「けど何故私が独りになってしまったのかまでは・・・・・・思い出せていません。でもきっとお父さんとは・・・・・・もう会えないんですよね?」


 むしろ会えた方が驚く。この時代まで生きてたら仙人か人ではない何かの域である。それは自分もなのだが。


「ぅ・・・・・・あ、安心しろ! アタシが面倒みてやるから!」

「それじゃあ荷造りお願いしますね。料理は私がやりますから。」


 ぐいぐいとカレンを押して台所から遠ざける。

 シラインがそうしていたように、俺も彼に倣った方がいいだろう。

 部屋の片づけを始めたカレンを尻目に、台所へ向き直る。


「さて、何を作ろうかな・・・・・・。」


 しかし親父との旅か・・・・・・懐かしい。

 冒険者ギルドに行けば活動記録が見れたり・・・・・・は流石に無いか。何年前だって話だし。


 って、そうか! 冒険者ギルドだ!!


 レンシアから貰った首飾り型の魔道具は、”特別な”ギルド証としても使うことが出来る。

 通信は出来なくても、上手くいけば魔女の誰かと連絡がつくかもしれない。

 そこからレンシアやドクに接触出来れば元の時代へ帰る目処も立てられるかも・・・・・・!


 俺が学校に通うまであと数日。

 冒険者ギルドを見つけるくらいわけないだろう。

 よし、明日からの目標は決まったな!


「お、決まったのか。何作るんだ?」


 どうやら声に出してしまっていたらしい。


「・・・・・・・・・・・・やっぱり決まってないです。」

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第一章
DTガール! ~DT in ガール!?~

第二章
DTガール! ~がっこうにいこう!~

第三章
DTガール! ~BACK TO THE ・・・・・・~

削除された話については下記のリンクよりご覧ください。
20話「おなじおおきさ」
21話「慰めはいらない。・・・・・・いる?」

その他
「DTガール!」についての備忘録
外法士



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[一言] 飯食ったらギルドへGO!
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