00004話「援軍」
銃を持ったゴブリンがヴォルフを伴って波状攻撃を仕掛けてくる。
俺たちは装甲車から持ち出した武器で何とか持ちこたえていたが、グレッソがやられたことによって手が足りなくなってしまった。
ジリジリと追い込まれていく。
「クソッ・・・・・・キリがねぇ! カレン、その子を連れて逃げろ! 儂とゼスタで援護する!」
「何言ってんだよ隊長! これだけ囲まれてんのに無理に決まってんだろ!」
こればかりはカレンの言葉が正しい。
俺たちが落ちてきた崖側以外はゴブリンたちに包囲されているのだ。
盾を構えたゴブリンやヴォルフはどうとでもなるが、問題は銃持ち。一体や二体ならまだしも、こちらも結構な数を揃えているようだ。
あの数に一斉に狙われたら俺でも避けきれるとは言い切れない。
魔法で土を操ってトーチカでも建ててしまえば耐えしのぐことは出来そうだが、これまで誰も魔法を使っていないことがどうにも引っ掛かっている。
「使えない」のか「使わない」のかは分からないが・・・・・・いや、考えている余裕は無いか。こちらはもう半分も仲間がやられているのだ。
今は何とかしてこの場を切り抜けるしかないだろう。後のことは後で考えればいい。
俺はその場にしゃがんで地面に両手で触れ、魔力を流し始めた。
まずは周囲を土の壁で覆って守りを固めて安全を確保し、その後に魔力を溜めて攻撃魔法で魔物を一掃してしまおう。
雑な計画を頭でまとめ、いざ実行しようとしたその時――俺たちの頭上から魔力弾の雨が降り注いだ。
魔力弾は俺たちに迫ってきていた魔物たちに次々と当たり、倒していく。
俺たちは一斉に魔力弾が飛んできた方向・・・・・・崖の上へ視線を向けた。
「おーい、大丈夫かー!?」
崖の上から一人の男が顔を覗かせた。
距離があって目鼻立ちまでは分からないが、服装からカレンたちの仲間だと判断できる。
「こ、こっちも援軍が来たッス! た・・・・・・助かったぁ~~!」
情けない声を上げながらへたり込むゼスタ。
崖の上には四台の装甲車が車列を作っていた。となれば当然人数もその分だけいる。
声を掛けてくれた兵士以外にも、魔導銃を構えて魔物を狙っている兵士がズラリと並んでいる。
だが――
「おい! 上だ! 気を付けろ!!」
ガムア隊長が崖上に向かって叫ぶ。
援軍が到着した道の更に上方・・・・・・そこにはグラグラと揺らぐ大岩があった。
おいおい、あんなのが落ちてきたら装甲車がまた落ちて・・・・・・って、今俺たちが居る場所に落ちてくるじゃねえか!
大岩の揺れが更に大きくなる。まるで反対側から押されているかのように。
揺れが最高潮に達し、今にも大岩が落ちてきそうだったが・・・・・・崖上の兵士たちが並んでいる辺りから大きな魔力の塊が飛び出し、大岩にぶち当たった。
大きな爆発音が響き、大岩が砕ける。その後ろに居たらしいゴブリンも吹き飛ばされた。やはり大岩を落とそうと後ろから押していたのか。
「おおっ、炸裂魔導砲か!」
炸裂魔導砲・・・・・・転落した装甲車から持ち出したバズーカみたいな大筒の魔導銃か。
ガムア隊長が持ち出した炸裂魔導砲からは、十ほど挿さっていた弾倉が抜かれてしまって見る影もないが。
弾倉と言っても魔力が充填されているだけなので色々と使いまわせるらしい。
ともかく、俺たちがぺちゃんこになる未来は回避出来たようだ。
「よし、儂らも攻勢に出るぞ!」
ガムア隊長たちが横転した装甲車の影に隠れながら、上からの射撃に合わせて攻撃を加えていく。
これは堪らないと盾を構えたゴブリンたちは木々の奥へと後退していった。
しかしゴブリンたちは退却することなく、魔導銃が届かない離れた場所からジッとこちらを伺っている。
しばらく膠着状態が続いた後、崖上からロープを使って独りの兵士が降りてきた。
「今のうちに引き上げるぞ!」
「・・・・・・カレン、その子を抱えて先に上がれ。」
「ま、待ってくれよ! まだ、シラインが・・・・・・っ!」
「弔っている時間はない。使命を果たせ。」
そう言ってガムア隊長は何かをカレンの手に押し付けた。
小さな鉄のプレートが付いたチェーン・・・・・・彼の認識票だろう。
カレンはグッと歯をかみしめた後、認識票を懐にしまい込み、ロープを拾い上げた。
その間にすこし離れたの所に別の兵士が降りてくる。ガムア隊長とゼスタは、武器を小さなコンテナにまとめて、兵士に渡していく。
「あ、あの・・・・・・隊長さんたちは?」
「ヤツらに武器を渡すわけにはいかんからな。儂らは後まわしだ。」
そうか、ゴブリンたちは俺たちが去った後に物色するつもりなのか。
だから今でも離れた場所で待機してこちらを伺っているのだろう。
「ほらチビ、行くぞ。」
カレンが俺を抱き上げ、ロープを身体に巻き付ける。
「おい、上げてくれ!」
ロープを引っ張って合図を送ると、カレンは引き上げられながら崖を上った。
上に着くと、数名の女性兵が俺たちを出迎えてくれた。
「カレン、無事だったのね!」
「・・・・・・あぁ。」
「その子が連絡にあった民間人ね。とりあえず二人とも、あっちの装甲車で休んでて。」
「いや、でも・・・・・・。」
「戦闘で疲れてるでしょ? 撤収作業は私たちに任せて。あ、でもその子の面倒はちゃんと見るのよ?」
「チッ・・・・・・分かったよ。」
カレンは俺を抱えたまま指定された装甲車に乗り込み、後部座先に深々と腰かけ、俺を膝の上に乗せた。
「悪いけど、街へ戻るまではこのままだ。座席が足りねえだろうからな。」
「分かりました。」
ちょこんと彼女の膝の上に座っていると抱き着かれるように引き寄せられ、背中に柔らかいものが当たる。
「ガキが遠慮してんじゃねえよ。とりあえず寝ときな。着いたら起こしてやるから。」
カレンは俺を抱いたままリクライニングを倒した。
でも寝てろって言われてもなぁ・・・・・・まぁ、言われた通りにしておくか。
背中にぬくもりを感じながら俺は目を閉じた。
*****
「おい、起きな。もうすぐ着くぞ。」
カレンに身体を揺すられ、目を覚ます。
案外眠れるものだな・・・・・・思ったより疲れていたのかもしれない。
身を乗り出すようにして運転席の窓の方へ目を向けると、大きな外壁と装甲車が横に三台ほど並んでも余裕で通れそうな鉄扉が見えた。随分頑丈に造られているようだ。
あれがカレンの言っていた”街”らしい。
先頭の車両が止まってしばらくすると、重そうな鉄扉がゆっくりと持ち上がって開いていった。
鉄扉が開ききり、再び車列が動き出す。
俺の乗った装甲車が扉をくぐったところで、カレンがポンと俺の頭に手を置いた。
「ようこそ、ゴミ溜めの街へ。」




