39話「邪竜、死す」
箒に跨り、霊峰オストーラへ向けて飛び立つ。
樹海の木々を眼下に眺めながら、たまに飛び掛かってくる魔物を躱しつつ猛スピードで進んで行く。
「それで、邪竜ってのはどこに居るの?」
背中に括り付けた”光の剣”に話しかける。
<魔力が一番濃いところや。御使い様やったら分かるやろ?>
言われて魔力を探ると、霊峰オストーラの山頂辺りにもの凄く濃い魔力の塊のようなものを感じられる。
「頂上辺りが一番濃いかな。」
<あの辺りは神殿があった場所やな。おそらくはそこに棲みついとるんやろ。>
「あんな所にも神殿が?」
<参拝するためだけの場所やけどな。整地されとるから巣にするには丁度良かったんやろな。>
解放した麓の神殿にある機能は無いらしい。
「なるほどね。どうやってあそこまで行けばいい? この箒なら飛んで行けるけど。」
<気配を消して参道を登って行った方がええな。そんで不意打ち・・・・・・って訳にはいかんやろうけど、光の剣を起動させる時間くらいは稼げるやろ。>
「その参道って、まだ通れるの?」
<さてな。行ってみな分からん。>
ガクリと肩を落とす俺。
とはいえ俺も箒で頂上へ乗り込むのは賛成出来ない。
箒に乗った状態では光の剣を扱えそうにないからだ。
それなら賢者の石が言った作戦の方が良いだろう。
さらに高度を上げ、山の方へ近づいて行く。
樹海を抜け、山の中腹辺りをゆっくり彷徨って飛んでいると、切り出された石の階段がグネグネと続く道を見つけた。
どうやらこれが参道のようだ。
階段の折り返しで小さな踊り場になった場所へ降り立ち、箒をインベントリへ格納する。
「この辺から登って行こうか。」
<キリキリ登りや!>
「はいはい・・・・・・。」
光の剣を杖代わりにし、石の階段を一歩ずつ登っていく。
所々欠けたり、風雨に曝されて埋もれたりしている部分はあるが、触手も使っているため登るのに支障をきたすほどではない。
しかし――
「も、もうちょい上の方から登り始めたら良かった・・・・・・。」
<何をヘバってるねん! 頂上はまだまだ先やで!>
階段は緩やかで長く蛇行しているため、歩いた距離に比べて登った距離は極端に少ないのだ。
休憩所として作られた道中の洞穴に転がり込んで足を投げ出す。
<御使い様がチンタラしとったら、下の方も大変なんやで。>
「わ、分かってるよ・・・・・・。」
登頂に時間を掛けていれば、麓の神殿に残っているクアナたちの負担が増えてしまう。
最悪神殿が機能しなくなることだってあり得るのだ。それは避けたい。
とは言え、徒歩だと一日二日では踏破出来そうにない。
救いは魔力が濃すぎるせいで魔物ですら棲息していないということだろう。
「とりあえず、次の休憩所まで登ったらそこで野営にするよ。」
こうして登っては休みを繰り返し、山頂目掛けて進んで行った。
そして遂に――
「あれが・・・・・・邪竜、なの?」
<あの魔力・・・・・・間違いあらへん。>
俺の目は、崩れた神殿に鎮座する邪竜の姿を捉えていた。
大きな神殿にも収まりきらない程の巨躯は、羽ばたき一つで俺をこの山から吹き飛ばしてしまいそうだ。
羽ばたくことが出来れば、だが。
「あのさ・・・・・・これ、徒歩で登ってきた意味あった?」
<いや~、まぁ、ウチかてこんなことになっとるとは思わんかったし・・・・・・。邪竜が暴れたって話を全く聞かんかったから、何か変やな~とは思っとったけど・・・・・・まさかやな。>
俺たちが霊峰オストーラの山頂で見つけたものは、邪竜の”死骸”であった。
所々肉が腐り落ち、骨が剥き出しになっている。
<戦闘の痕跡もあらへんし、戦って殺されたっちゅう感じやあらへんな。>
「じゃあ自然に死んだってこと?」
<まぁそう考えるしかあらへんけど・・・・・・。>
「それなら戦う必要は無いし、何も問題は無いよね?」
腑には落ちないが、戦わなくて良いならそれに越したことはない。
<アホ言いな! 問題は何も解決しとらんで!>
「でももう邪竜は居ないでしょ?」
<一番の問題は、死してなお魔力を生み出し続けとる”竜の心臓”や。あのまま放っとったら魔力で汚染されて魔物すら死に絶える世界になるで。>
確かにそうだ。
問題は魔力濃度が上がり続けていることであって、邪竜が暴れるからという話ではない。そっちはあくまで副産物である。
「つまり、あの邪竜の心臓を破壊しない限り問題は解決しないってことね。」
<そういうことやね。>
「それじゃあ”コレ”はどうする?」
言いながら、俺たちと邪竜の死骸を隔てている分厚い”透明な壁”をゴンゴンと叩く。
それは邪竜の死骸を中心に神殿すらも覆いつくして広がっている。
肉が腐り落ちて白骨化していないのも、これに覆われてしまっているせいだろう。
「これは魔結晶・・・・・・かな?」
<ちゃうな。魔結晶は不純物を核にして魔力が固まったもんや。これは不純物が全くあらへん・・・・・・言うなれば”純魔晶”やな。はぁ~、こんなんあったらもっとええ魔道具作れたのになぁ。>
扱いを間違えたら大爆発を起こしそうなくらいの魔力だけど。
「で、この”純魔晶”の鉱山・・・・・・どうしようか。」
<まぁ、掘るしかあらへんやろな・・・・・・。>




