34話「ここをキャンプ地とする」
翌日からは闇の民たちを”外地”へと送り届ける作業に没頭していた。
人口は多くないものの、一度に転送できる人数が少ないため数日の時間を要した。
その間巫女たちは家から出られないため暇そうであったが、それは仕方のないことだろう。
そしてとうとう最後の二人となった。
「ホンマにありがとうございました、御使い様。」
「いえ、気にしないで下さい。」
<色々世話になったわ、ポポネンちゃん。>
「巫女としての務めを果たしただけです。石様の念願も果たされそうで・・・・・・。」
感極まったポポネンの目から涙がこぼれる。
<そない大袈裟な話ちゃうがな。ススーナちゃんも元気でな。>
「石様もな! 御使い様、石様のことよろしゅうお願いします。」
「よろしくお願いされるのはこっちになりそうだけどね。それじゃあそろそろ送るよ。」
「はい。お願いします。」
ひとしきりの挨拶を済ませた後、ポポネンとススーラを”外地”に送り届けた。
人の居なくなった集落はシンと静まり返っている。
巫女たちに全てを終わったことを伝えるため拠点にしている家へと戻ると、クアナが出迎えてくれる。
「おかえりなさい、御使い様! どうでしたか?」
「今日で全員送り届けられたよ。それで、これからのことなんだけど・・・・・・。」
次の場所を目指す前に、囚われている闇の民たちを助け出したいところである。
巫女たちにそう伝えると、彼女たちは頷いてくれた。
「で、でも御使い様。そ、それって結局、つ、次の場所に行くことに、な、なるけど。」
「そうなの? でもそれじゃあ次の場所って一体どこなの?」
「御使い様もよくごぞんじのばしょですわ。」
「私の知っている場所って言ったら・・・・・・。」
これまでに巡ってきた場所くらいしかない。
頭を捻っていると、フーケの声に施行を遮られる。
「それよりはやくここを出ようぜ! たいくつだよ!」
「わ、わかってるよ。みんな準備は出来てる?」
「ん。いつでも出られる。」
こうして俺たちは闇の民の集落を後にした。
光の剣で結界を展開しながら歩き、”内地”を出てからはトラックでの移動だ。
俺は巫女たちの案内に従い、トラックを走らせ続ける。
「この方角に行くと・・・・・・風の民が居る平原だよね?」
「そうですよ。もくてきちはそこです。」
「え、そうなの!?」
しかし何故今更戻る必要があるのだろうか。
その答えは、幾度かの夜を越えて目にする事になった。
ようやく平原に入り、さらにトラックを走らせていると、遠くに何かが広がっているのが見えた。
小さな点の群れに見えたそれは風の民の天幕だった。それも数が尋常ではない。
広い平原を埋め尽くすかのように、所狭しと天幕が並べられていたのだ。
「あれはどういう事なの? 風の民ってあんなに人居なかったよね?」
「すぐにわかるよ。ほら!」
フーケが指した場所には、数人の人物がこちらを出迎えるように待ち構えていた。
彼らは・・・・・・火の民、水の民、風の民、地の民、各種族の長たちと先代の巫女たちである。
つまり、全ての種族がここに集結していたのだ。
出迎えてくれた人たちの前にトラックを停めて、巫女たちが先代巫女たちの元へ駆け寄っていく。
「スイコ様! 只今戻りました!」
「あぁ、良く戻ったねぇ。御使い様、クアナがご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「いえ、むしろ助けられましたよ。」
それぞれに再開の挨拶を交わしていく。
そして一息ついたところで、中央にある大天幕へと案内された。
それぞれの族長と巫女たちで円を描くように座り、現在の状況の説明を受ける。
俺が各集落を旅立った後、先代巫女たちの導きによってこの地へと集められたらしい。
この地に巣くっていた魔物を倒したのも、その準備のためだったようだ。
そして準備が出来次第、”約束の地”を取り戻すため、ここから侵攻するということである。
だが、俺にはまだやらなければならない事が残っている。
彼らの会話を小さく手を上げて遮る。
「ちょっといいですか?」
「どうなされましたかな、光の使者様。」
「ここに居る闇の民・・・・・・いや、”色無し”の者たちを全て集めて頂けますか?」
囚われていた闇の民たちもまた、ここへ連れてこられており、働かされていた。
俺としては各種族の集落を回る必要がなくなったので有り難いが。
「一体どういう事ですかな?」
「穢れを持った”色無し”の者たちは”約束の地”へは連れて行けないのです。」
「な、なんと!?」
まぁ、ウソなんだが。賢者の石が考えた設定である。
御使いである俺がそう言ってしまえば、彼らも闇の民たちを手放さざるを得ないだろう、という賢者の石の考えだ。
「で、ですがそれでは前線に立たせる者が・・・・・・。」
侵攻する際に矢面に立たせるつもりだったのか。
仕方のないことではあるが、闇の民たちとも交流を持っている身としては複雑な気持ちだ。
「それはまぁ・・・・・・仕様がないでしょう。穢れを持ち込むことは出来ませんので。」
穢れを強調し族長を言い含める。
それでも首を縦に振ることを渋る族長たちに、先代巫女が鋭く言葉を放った。
「御使い様のお言葉に逆らうというのですか、族長さま方?」
「い、いや、そのようなことは・・・・・・。」
怯んだ族長に、さらに先代巫女が追い打ちをかける。
「では御使い様の御心のままに、ということでよろしいですね?」
「は、はい・・・・・・。」
そうして巫女たちの援護もあって、後日に闇の民たちが集められることとなった。
ついでに、今まで溜めこんでいた黒い石も纏めておくよう指示を出しておく。
「し、しかし光の使者は”色無し”たちを集めてどうなさるおつもりなのですか?」
俺は少しだけもったいつけて族長の問いに答えた。
「この世から消します。」




