32話「光の剣」
<ほんなら御使い様。”光の剣”出してくれるか。>
自らを”賢者の石”と名乗った祭壇の上の黒い石はそんなことを聞いてきた。
しかし聞いたことのない単語に思わず聞き返す。
「光の剣・・・・・・?」
<いや、ここへ来たっちゅうことは、ちゃんと”光の剣”持っとるはずやんな?>
持ってないぞ、そんなRPGチックなアイテム・・・・・・。
どこかの岩にでも刺さっているのか?
「いえ、その・・・・・・聞いたこともないんですけど。」
<ちょ、ちょい待ちいや! ”外地”のモンから受け取っとるはずやろ!?>
”外地”・・・・・・?
そういえばそっちの闇の民から貰ったものがあったなと思い出す。
彼らから受け取った杖のようなものをインベントリから取り出し、手に持って見せてみる。
「コレなら貰ったんですけど・・・・・・。」
<それやそれ! 脅かさんといてや!>
火の民の集落で時間をかけてしまったこともあり、コレの存在をすっかり忘れてしまっていた。
そもそも見た目からして剣には見えないし・・・・・・。
「これが光の剣・・・・・・ですか? どこからどう見ても剣には見えないんですけど。」
<そらまだ完成しとらんからな。持ち手の真ん中のとこに台座があるやろ、そこにウチを嵌め込むんや。>
持ち手の真ん中・・・・・・というと、円盤状になっている部分だろうか。
確かに大きさ的にはピッタリと収まりそうだが・・・・・・嵌め込んだところで剣の形にはなりそうにない。
<とにかく、まずはウチを祭壇から取り外してくれるか。>
「わ、わかりました。」
”賢者の石”に言われるがまま、彼女を祭壇から取り外す。
すると、石を取り外された祭壇はガラガラと音を立てて崩れ去ってしまった。
「わっ、ご、ごめんなさい!」
<あぁ、気にせんでええよ。ウチが取り外されたら崩れるように作られとっただけやさかい。>
どうやら祭壇自体が魔道具だったらしい。
「そうなんですか・・・・・・でも、一体どうして?」
<・・・・・・ウチみたいなんは、ウチ一人だけで十分やからね。>
少し言い淀んでから、賢者の石が説明を続ける。
<ウチは見ての通り、魔石化した闇の民やっちゅうのは分かるやろ?>
「はい。でも、あなたのように意識を保ったまま魔石化している人は見たことがありません。」
<そらそうやろうな。製法は残らんようにしたし。まぁ、簡単に言うと魔石化するかせえへんかのギリギリの魔力を長期間保ち続けさせるんや。>
「なるほど・・・・・・それで意識を保ったまま魔石化、つまり賢者の石ができる、と。」
<せや。でも重大な欠点が一つあってな。>
「欠点?」
<賢者の石はどれだけ魔力を流してももう元には戻られへんのよ。>
「そ、そんな・・・・・・!!」
つまり、人の姿にはもう戻れないということだ。
<せやから、そんなもんは後世に残されへんやろ?>
「・・・・・・そうですね。」
その話は切り上げとばかりに、彼女は声色を変えて問いかけてくる。
<そういえば御使い様、”外地”の方はどないでしたか? 何か問題はありませんでしたか?>
「むしろこっちの方が問題が多そうですよ。特に魔道具は半分以上止まってしまっていますし。」
<それは仕方あらへんね。”内地”では頭脳強化から身体強化へ切り替えたから。>
闇の民の魔道具製作技術は頭脳強化の賜物だったらしい。
しかし邪竜の到来によって多くの技術が失われてしまったのだという。
さらには周辺の魔物に対抗するため、やむなく頭脳強化から身体強化へ切り替えたことにより技術の喪失に拍車がかかってしまったようだ。
それにより知識も技術も殆どが受け継がれることなく現在の状況になってしまった。
だがそれは、現在”内地”で逞しく生きているススーナたちを見れば一長一短であることが分かるであろう。
<さて、ほんならさっさと”光の剣”を完成させてまおか。>
「えっと、どうすればいいんですか?」
<台座のところにウチを宛てがってくれたらええ。>
言われたとおりに杖の真ん中にある円盤状の台座に賢者の石をくっつけると、ズブズブと石が沈み込むように嵌まっていき、やがて元からそこにあったかのようにピッタリと収まった。
・・・・・・やっぱり剣には見えない。
<よっしゃ、完成や!>
「・・・・・・なんか、あんまり変わったような気がしないんですけど。」
<そないなことあらへんがな! ほんならちょっと試しに使ってみよか。起動後は”希望の灯”や!>
「わ、わかりました・・・・・・”希望の灯”。」
杖、もとい光の剣を構えて起動後を唱えると、体の中から一気に魔力が奪われていく。
奪われた魔力は賢者の石を経由し、杖の先端に取り付けられた魔水晶に流れ込んだ。
そして、魔水晶から眩い光を放つ刃が伸びた。
「こ、これが・・・・・・光の剣!」
光の刃から迸る魔力は、全てを断ち切ってしまいそうなエネルギーを感じる。
・・・・・・刃渡りが一センチメートルじゃなければ。
「あの・・・・・・これ、失敗なんじゃ?」
<これでええんや! ”光の剣”を起動させるなんて、やっぱ御使い様は凄いわ!>
彼女の喜びようからして失敗や間違いではなく、これが正しい動作らしい。だがこれで邪竜とやらを相手に出来るかは甚だ疑問である。
確かにこの出力なら竜の鱗だろうが何だろうが易々と切り裂いてしまえそうだが、この刃渡りでは表面に傷をつけておしまいだ。
更に魔力を込めて光の刃を伸ばすにしても、戦闘時に使うことを考えるとこれ以上の魔力を割くことは不可能だろう。というか今の状態でも強敵を相手に戦闘を行うのは少々厳しい。
供給していた魔力を止めると、光の刃はフッと消えた。途端に身体から汗がにじみ出てくる。
「た、確かに凄い力だったけど、これじゃあ戦うなんて出来ませんよ?」
<起動さえしてもろたら構わへんのや。あとはウチらに任せてくれたらええ。>
「ウチら・・・・・・?」
<ウチと他の巫女たちや。一緒に来とるんやろ? 必要なことは今頃ポポネンちゃんに教わっとるはずや。>
そういえば何か伝えることがあると言っていたっけ。
彼女らが無理をしてでも来る必要があったのはそのためか。
「ということは、これで邪竜に対抗できる手段が揃ったということですか?」
<そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるな。>
「どういう意味ですか?」
<残りの手順はぶっつけ本番でやるしかないっちゅうこっちゃ。詳しい話は巫女ちゃんたちに聞いた方がええやろ。>
「・・・・・・分かりました。今は私に出来ることをしようと思います。ススーナさん、少し大きめの空き家とか空き倉庫はありますか?」
「そないなもん・・・・・・ぎょうさんあるで!」
クアナたちの用事が終わるまでは”内地”から”外地”への転移門の設置作業を進めることにした。




