15話「風の民」
「御使い様! ご無事だったのですね!」
野営地に戻ると、クアナたちが総出で出迎えてくれた。
狼煙を上げていてくれて助かったぜ・・・・・・。
「あの、御使い様。ヌシの気配を感じられなくなったのですが、一体どうなったのでしょう?」
セルウィの質問に頷きながら答える。
「うん。倒してきたよ。一応証拠も・・・・・・ほら。」
インベントリから六本脚の首を取り出して置いて見せると、セルウィたちが感嘆の声を上げる。
「こ、これは、まさしくヌシの・・・・・・! やはり御使い様の御力は本物でございますね。」
「おー、ヤルじゃんミツカイサマ!」
「もう、フーケったらまた! これでみんなが安心してくらせます。ありがとうございます、御使い様。」
俺としてはただ魔物を退治しただけなのだが、こうして称賛されるのは悪い気分ではない。
が、放っておくと終わりそうにないのでさっさと切り上げてる魏の話にいく。
「とりあえず、これで私の力を認めてもらえたってことで良いのかな?」
「はい。他の者もこれを見れば納得することでしょう。」
「それじゃあ、風の民の集落まで案内してもらえる?」
「勿論です。今頃は風の便りで御使い様の偉業も伝わっていることでしょう。」
風の魔法でそんなことも出来るのか。便利だな。
「とは言っても、これを見ないとみんなしんじないと思います。」
「そうね、どうしましょうかフーエ。」
六本脚のデカい首の前で頭を捻る二人。
何とかして持ち帰る気らしい。
「いや、私が持っていくから・・・・・・。」
「そうだよ、ミツカイサマがもってきたんだから、ミツカイサマにまかせりゃいいじゃん。」
「なにいってるのよフーケ!」
「そうですよ、そこまで御使い様の御手を煩わせるわけには参りません。」
「いやあの・・・・・・。」
俺のことをそっちのけで議論を始めるセルウィたち。
「あれどうするんですか、御使い様・・・・・・。」
「どうしようか、クアナ・・・・・・。」
その後なんとかセルウィたちを説得し、六本脚の首は俺が運ぶことに。
集落へも歩いて数日かかるらしいので、トラックを使うことになった。
*****
風の民の集落へ着くと、彼らが総出で出迎えてくれた。
彼らは遊牧民のような生活をしているらしく、テントのように持ち運びの出来る住居が数多く建てられている。
ヌシから逃げやすくするためにこのような形になっているそうだ。
もっと離れた森や山へ逃げようという案も昔にあったそうだが、風通りの良いこの平原を離れることが出来なかったという。
セルウィたちがトラックを降りると、彼女らの周りに風の民たちが集まってきた。
「巫女様、お早いお戻りで。」
「えぇ、御使い様の御力により、この平原を風よりも早く駆けることが出来たのです。」
それは盛り過ぎだと思う。
見ろ、後ろの人たちがざわざわし始めたじゃないか。
あまりハードルを上げないで欲しい。
「して、光の使者様はどちらに?」
「こちらの御方が御使い様です。」
セルウィが一歩下がり、俺を前に出す。
あれ、この流れどこかで・・・・・・。
「こ、この娘さんが・・・・・・? しかしこれではフーエやフーケと・・・・・・。」
「いくら族長でも御使い様への無礼は――」
それなりに歳のいった族長さんだが、セルウィの眼光は鈍らずに突き刺さる。
「ひぃっ・・・・・・! い、いや、そのようなつもりはっ・・・・・・! そ、そう! ただ光の使者様の御身が心配であっただけで・・・・・・!」
「御心配には及びません。平原のヌシは御使い様が御一人で討伐なされましたから。」
「ま、まさかあのヌシを・・・・・・たった一人で!?」
「御使い様、アレをご披露頂いてもよろしいでしょうか?」
セルウィさんに逆らうのは怖いので、黙って頷いて従い、インベントリから六本脚の首を取り出した。
デン、と目の前に現れた六本脚の首に、腰を抜かす族長。
後ろで見ていた風の民たちからも悲鳴が上がる。
「この首が平原のヌシのものであることは、見張りをしていた者たちも証言してくれます。」
「は、はい! 光の使者様がヌシの元へ向かわれ、ヌシの気配が消えた後、光の使者様がこの首を持って戻られました!」
・・・・・・えーと、その言い方だと偽物だと思われない?
俺と同じように考えた風の民たちも居たようで、若干の動揺が広がる。
「そのような証言、意味などなかろう。」
「族長・・・・・・!?」
さらに動揺が広がり、非難の声を上げるセルウィを無視して、わなわなと震えながら族長は六本脚の首に一歩ずつ近づいていく。
「み、見間違えようがない・・・・・・これは儂が子供のころに見た、ヌシの姿と変わりない。」
族長の言葉にざわついていた風の民たちがピタリと静まった。
それを見た風の民の老人たちが数人、六本脚の首のところへやってくる。
「間違いない・・・・・・この目、この牙。娘の仇、見間違うものか。」
老人たちの恨み節が風に流されていく。
この六本脚は色々と大暴れしていたらしい。
族長は俺の前に両膝をつくと、両の手で俺の手を取って頭を垂れた。
「感謝いたします、光の使者様。これで私の父と母も浮かばれることでしょう。」
その姿を見た風の民たちも、同じように膝をつき、次々と頭を垂れていく。
どうやら俺は、彼らに認められたようだ。




