表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/134

八話「異世界へ帰る」

 深く沈んだ重い意識が、瞼の向こうの光を目指すように徐々に浮き上がって来る。

 眩しい光を避けようと身を捩ろうとするが、体は思うように動いてくれず、その煩わしさが意識の覚醒を加速させていく。


「ん・・・・・・?」


 瞼をうっすらと開き、寝返りを打とうとすると、何かに遮られたように体が動かなかった。


「あれ・・・・・・?」


 今度は起き上がろうともがくが、体を動かすことができない。


「な、何これ!?」


 ようやく完全に目を覚まし、自分の状況を理解した。

 どうやら俺は、拘束具で身動き出来ないようにされているようだ。

 映画とかで凶悪犯なんかが拘束されているアレである。

 妙な感動を覚えつつも、体を捩らせて脱出を図ってみる。

 ただ体を動かしただけでは外れそうにないが、魔力を使えば何とかなるか・・・・・・?


「やっと目を覚ましたようじゃの。」


 逃げ出す算段を思案していると、どこからか声を掛けられた。

 首だけを何とか動かして声のする方向へ視線を向けると、どこかで見た赤い着物の少女がこちらを見据えていた。


「君は、確か・・・・・・。」

「そうじゃ、よく助けてくれたのぅ、わっちのひーろー殿。」


 クスクスとからかうように少女が笑った。

 徐々に自分の記憶が脳裏に蘇ってくる。

 目の前にいる少女は、敵の首魁として狙われていた相手だ。

 咄嗟の判断で彼女を助けたのだが・・・・・・彼女の口ぶりから察するに、確かに普通の少女ではないようだ。

 その後、俺は麻酔銃で撃たれ、仲間に見捨てられ、そのまま捕まってしまったらしい。・・・・・・テロリストの仲間として。


「さて、それじゃあ拘束を解くからの。暴れんでおくれよ?」

「だ、ダメですよ幸与さま!?」


「何を言うとるんじゃ。この者相手にこんな拘束具は役に立たんわ。そうじゃろう?」

「えぇ、まぁ・・・・・・。」


 少女に同意を求められ、思わず頷いた。

 別に嘘ではなく、実際手段を選ばなければ脱出することは可能だろう。


「ほれ見てみぃ。というわけでさっさと拘束を解くんじゃ。これは命令ぞ?」

「はぁ・・・・・・分かりました。また能力を使われてはたまりませんからね。」


 秘書は皮肉っぽく言うと、控えていた護衛に指示を出した。

 護衛は二人がかりで拘束具を外していく。

 しばらくすると完全に拘束が解かれ、俺は自由に動けるようになった。


「どうもありがとうございます。えっと――」

「わっちは家守(いえもり) 幸与(さちよ)じゃ。座敷童でこの国の首相をやっておる。」


「ざ、座敷童!? え、首相って・・・・・・えぇ!?」

「カカカッ! そんなことで驚かれたのは百年以上ぶりじゃのう、紅葉?」


「知りませんっ。」


 名前を呼ばれた秘書はぷいとそっぽを向いた。


「なんじゃ、つれないのう。さて、お主の名を聞いても良いかの?」

「私は・・・・・・アリューシャです。」


「ハイカラな名前じゃのう。やはり・・・・・・お主は他の式神とは随分毛色が違うようじゃ。お主は一体何者なんじゃ?」


 飄々としていた幸与の声色が真剣なものへと変わる。


「信じてもらえるかは分かりませんが・・・・・・。私は式神召喚という儀式で呼び出された異世界の人間で、式神ではありません。」

「ほう、異世界とな。俄かには信じられんのう。じゃがまぁ納得は出来る。わっちの主さまも、その手の絵物語が好きじゃったしのう! で、召喚されたのはいつ頃のことじゃ?」


「約一ヶ月前くらいです。」

「あー、ひと月前か、なるほどのう・・・・・・。」


「それが何か?」

「ああ、いや・・・・・・ゲフン、何でもないわい。それで何故やつらの言いなり・・・・・・とは違うかったの、何故やつらと共に襲ってきたのじゃ?」


「妖怪に支配された日本を取り戻したい、というようなことを言われたので・・・・・・。」

「まぁっ、なんと失礼な!」


 秘書の紅葉は憤慨するが、幸与は笑い飛ばした。


「カカカッ、確かにそうじゃのう! 分生派の者にとったら、わっちは目の上の特大たんこぶじゃろうて!」

「もうっ、何がそんなにおかしいんですかっ!」


「すまんすまん、紅葉よ。して、ものは相談なんじゃが・・・・・・わっちのぼでーがーどをやってみる気はありゃせんかの、アリューシャさまや?」

「え、ボディーガードって・・・・・・言ってはなんですが、私はテロリスト側だったんですよ?」


「問題ありゃせんよ。一般にはわっちを守るために飛び出してきた、勇気ある市民ということにしておる。誰も殺してはおらんしの。まぁ、護衛どもがうるさいから拘束はさせてもらったがの。」

「当たり前ですっ!」


 俺としてはありがたい話かもしれない。

 このまま放り出されるより、彼女の側にいる方が元の世界へ帰る算段も見つけやすいだろう。

 ・・・・・・いや、”元の世界”はこっち世界のことになるか? とにかく、俺は”異世界”の方へ帰りたいんだ。


「ちなみに、断ったらどうなります?」

「国籍を与えて普通に暮らせるようには手配してやるぞい。児童施設に入れてそこから学校が良いってところかの。」


「ええっ、学校!?」

「なんじゃ、嫌なのか?」


「いや、まぁ・・・・・・。」


 そう何度も学校に通うなんて願い下げだ。


「けど、どうしてそこまで良くしてくれるんですか?」

「あー、いや・・・・・・ま、隠しても仕方ないかの。お主が召喚されてしまったのは、多分わっちの所為でもある。」


「な、何ですって!?」


 と、声を上げたのは秘書の紅葉だ。


「ちょうどその頃に(くだん)の予言が出たのじゃ。近い未来、凶悪な妖が生まれ災厄を振りまくとな。それに対抗する術をわっちが”願った”のじゃ。」

「ではどうして私はテロリストの方に召喚されたんですか?」


「てろりすとのところに呼ばれてしまったのは、少々わっちの力が足りんかったからのようじゃの。それをやつらの召喚の儀で補った形になるの。まぁ、これだけ強大な妖力なら納得じゃ!」

「そ、その証拠はあるのですか、幸与さま!?」


 また紅葉が声を上げる。


「だって、わっちの力の残滓を感じるからのう。ま、だからお主が問題無いと分かっておったのじゃが、カカカッ!」


 高らかに笑い飛ばす幸与とは対照的に、紅葉はガクッと膝をついた。

 その姿勢のまま、紅葉がギギギと顔だけこちらへ向ける。


「あの、アリューシャさん・・・・・・。今回の補償の件につきましては、後ほど話し合いの場を設けさせていただきます・・・・・・。」

「あ、はい・・・・・・。」


 ・・・・・・苦労してそうだな、この人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一章
DTガール! ~DT in ガール!?~

第二章
DTガール! ~がっこうにいこう!~

第三章
DTガール! ~BACK TO THE ・・・・・・~

削除された話については下記のリンクよりご覧ください。
20話「おなじおおきさ」
21話「慰めはいらない。・・・・・・いる?」

その他
「DTガール!」についての備忘録
外法士



― 新着の感想 ―
[一言] どちらか片方の儀式だけではアリューシャを呼べなかったけど、両方が(偶然)同時に召喚魔法を発動したことで呼ばれてしまった。 最後の綱引きでテロリスト側に取られた、と。 「妖怪に支配された」……
[一言] 逆輸入(召喚)主人公( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ