00073話「未来は前途多難」
「ようやくここまで辿り着いたか・・・・・・。」
目の前に聳え立つ超高層マンションを見上げた。
こうして魔女の塔を見るのも懐かしいような気分だ。
レンシアが言うにはドクがすでに待機してくれているはずだが・・・・・・。
「やっと来たな、待っとったぞ。」
キョロキョロと辺りを見回していると、塔の陰になった場所からドクが現れた。
相変わらずヨレヨレの白衣を身に纏っており、最後に見た姿と変わりがない。
「ドク、久しぶり。」
「そうじゃな。それから・・・・・・スマンかったの。」
めずらしくシュンと落ち込んだ表情を見せるドク。
事故について気にしているようだ。
「事故なんだし、気にしないでよ。それに・・・・・・レンシアからタイムマシンを作ってた理由も聞いたし。」
「そうか・・・・・・。そっちも巻き込んでしまって悪かったの。」
「別に気にしてないよ。タイムマシンを作るのは楽しかったし、手伝った分のお金も稼がせてもらったしね。」
それに、同じ転生者の仲間のためだったと思えば悪い気はしない。
彼らを救うことが叶わなかったのは残念でならないが。
「それで、私は帰れるって聞いたんだけど?」
「も、もちろんじゃ! お前さんを元の時代に帰すための準備はちゃんと整っておるぞ! こっちじゃ!」
ドクが現れた方へ連れていかれると、布が被せられた何かが鎮座していた。
車ほどの大きさはなく、畳を二畳ほど並べたくらいだ。
「さぁ見よ! これが新しいタイムマシンじゃ!」
ドクが覆いかぶさっていた布をガバッと取り払った。
「こ、これが新しいタイムマシンか・・・・・・。」
「うむ、やはりタイムマシンといえばコレじゃろう! エンストも起こさんしな!」
「確かにそうだけどさぁ・・・・・・。」
しかしこの机の引き出しの中に納まってそうなフォルムは体がむき出しになってしまうため、どこか頼りなく感じる。
「ちゃんと安全なの、これ?」
「モチのロンじゃ。動物実験も人体実験も何度も試して確認しておる。」
「それならいいけど・・・・・・。」
ちょっと待て、今サラッと怖いこと言わなかったか!?
・・・・・・まぁ、深くは考えないでおこう。
「で、この席に座れば良いのか?」
「ちゃんとカチッって音がするまで安全バーを下げるんじゃぞ。」
何のアトラクションだよ・・・・・・。あ、でも本当に座席に安全バー付いてる。
ジェットコースターとかに付いてそうな安全バーを下ろすと、カチッと音が鳴って固定された。
「よし、大丈夫じゃな。座標指定・・・・・・OK、魔力充填・・・・・・OK、発進じゃ!」
・・・・・・ってことは安全バーを付けないといけないくらい危険ってことじゃねーか!
「ちょ、待っ――」
「ポチッとな。」
ドクがリモコンの押すと、一瞬にして周囲の景色が歪んだ。
「うわっ――・・・・・・って、何ともない?」
加速度的なものが襲ってくるかとも思ったが、体に特に負担は無い。
それどころか髪一本なびかない。
これなら変に動いたりしなければ安全バーを外しても問題なさそうだ。
「よっ・・・・・・んんっ・・・・・・? 外れねぇ・・・・・・。」
どうやら指定座標に到着するまで安全バーは外れないらしい。
ご丁寧に見える位置に説明文が添えられていた。
トイレとかどうするんだ、これ・・・・・・?
「はぁ、元の時代に着くまではこのままか・・・・・・。でも、ようやくみんなのところへ帰れるんだな。」
仲間たちの顔を思い浮かべると、これまでの苦労が報われるような気がしてくる。
感慨にふけりながら背もたれに体を預けると、目の前にフワッと光の粒子が漂った。
「ん、何だ? 魔力の光・・・・・・?」
一粒、二粒、三粒と光が増えていき、蛍のようにふわふわ揺れながら立ち上っていく。
「一体どこから・・・・・・って、俺の体から出てる!?」
これ明らかにタイムマシンの機能じゃないよな・・・・・・?
考えを巡らせている間にもどんどん光が増えていく。
「それに何だ、この・・・・・・引っ張られるような感覚。」
その感覚は光が増えるほどに強くなっていく。
物理的にではないが、それでも引かれているような妙な感覚だ。
抗う術もなく、あっという間に光の粒子が視界を覆いつくす。
「ぜ、絶対に帰ってやるからな――」
*****
「もう入ってきて良いぞ。」
レンシアに呼ばれ、隣の部屋から顔を出す。
「もう行ったのか?」
「あぁ。」
「しかし何で俺たちをこんなとこに閉じ込めたんだよ。」
「お前たちが出会ったら何が起こるか分からないだろ?」
まぁ、確かに。何が起こるか分からない以上、安全策を取るのは大事か。
「それに――」
「それに?」
「その辺の荷物、片付けていってくれ。お前のだろ?」
レンシアが指した場所には、”俺”が置いて行ったアイテムが並んでいる。
「そうだけども・・・・・・。はぁ、分かったよ。」
並んだ荷物をひょいひょいとインベントリの中へ突っ込んでいく。
「ねぇ、レンシアさま。もうワタシたち戻れるの?」
「うん。不便な思いをさせてすまなかったね、ローレッドちゃん。」
「平気よ。ここにいる間ずっと楽しかったもの!」
「それなら良かった。」
まるで孫を見るような目でローレッドの言葉に頷くレンシア。
適当に荷物を片付けた俺は、レンシアの耳元で声が漏れないように喋る。
「とにかく、もう”俺”は居なくなったんだから早く対処してくれよ。」
「対処?」
「居るんだろ? 専門家ってのが。」
「あぁ、しっかり頼むぞ。専門家のアリューシャさん。」
思わず声を上げそうになりながら会話を続ける。
「ど、どういうことだよ!?」
「どうも何も、この件に関してはお前以上の専門家は居ないだろ?」
「そうじゃなくて、もっとこう・・・・・・ピカッとやって記憶を改ざんできるような魔道具とかがあるんじゃないのか!?」
「そんな便利なもんあるわけないだろ。」
「じゃあ、ローレッドはどうするんだよ?」
「お前が助けたときに顔を見られたのが悪いんだろ? ちゃんと責任取りな。」
「うぐっ、それは・・・・・・。つまり、諸々全部俺に丸投げってこと?」
「そういうこと。」
「な、なんてこった・・・・・・。」
未来は前途多難だぞ、過去の俺よ・・・・・・。




