00063話「王国大会」
「起きてください、カレンさん」
大会当日の朝。
ベッドの上であられもない姿を晒して眠るカレンの体を揺らして声を掛ける。
「んん・・・・・・何だよこんな朝っぱらに? どっか行くにしてももうちょっと寝かせてくれよ・・・・・・。」
「何言ってるんですか。今日が大会の日ですよ。」
俺の言葉にカレンが何やら考え込む素振りを見せる。
「・・・・・・飲み大会?」
「魔法道の、です!」
「あ~・・・・・・まぁ、頑張れよ。」
カレンはそう言うと再び寝入ってしまった。これは起きそうにない。だから昨日あれほど飲み過ぎるなと言ったのに。
とりあえず伝えることは伝えたし、こっちはこっちで好きにやらせてもらおう。
保護者が観戦しないといけないって決まりは無いしな。
「それじゃあ、行ってきますね。」
準備を終え、寝入っているカレンの背に小さく声を掛け部屋を後にする。
部屋を出るとコレットたちがすでに待機していた。
「時間ちょうどですね。ですがアリューシャさん、カレンさんはどうしたのです?」
「えーっと・・・・・・頑張ってこい、だそうです。」
俺の答えを聞いて、キャサドラ先生が大きくため息をついた。
「はぁ・・・・・・仕方ありませんね。時間もありませんし、競技場へ向かいましょう。」
玄関ホールまで降りると、俺たちの他にも数組の生徒たちが宿を出るところだった。
彼らに続いて俺たちも宿を後にする。
宿の敷地を出て通りを進んでいると、時たま沿道から頑張れと声を掛けられた。
それらの声に応えながら、他の生徒たちとともに競技場へと入っていく。
「それでは受付を済ませてしまいましょう。」
「はい、先生。」
「それじゃあ私は観客席で応援してるわね。コレット、アリスちゃんも頑張って。」
「う、うん・・・・・・。」「はい、ありがとうございます。」
コレットの母を見送り、俺たちは受付の列に並ぶ。
受付と言っても、書類を提出して所属と名前を確認する簡単なものだ。
列はすぐに消化されていき、俺たちの受付も滞りなく進んだ。
「さて、受付も済みましたし、私はここまでですね。アリューシャさんは良いとして・・・・・・コレットさん。」
「は、はひ・・・・・・っ。」
俺は良いとしてって、俺もキャサドラ先生の生徒なんですけど・・・・・・。
コレットは今朝から緊張しっぱなしだ。これでは実力の半分も出せないのではないだろうか。
「どうせアリューシャさんが居ては優勝なんて出来ないのですから、肩の力を抜いて頑張って下さい。フフッ、教師が言って良い助言ではありませんでしたね。」
キャサドラ先生がコレットに微笑みかけると、コレットの緊張が少しだけ解けたように見える。
「それでは私も観客席に向かいます。二人とも頑張るのですよ。」
キャサドラ先生に見送られ、俺はコレットの手を引いて控え室へと向かう。
「あ、ここだね。」
広い控え室の中には数十人の生徒たちが思い思いの場所に陣取っている。
俺たちも空いている場所を探して腰を落ち着けた。
貴族の子も居るようだが、俺たちや他の平民に食って掛かる様子はなさそうだ。
自分のことで精一杯で、誰かに構う余裕も無いのだろう。
しばらくの間コレットと肩を寄せ合って待っていると、係員が控え室の扉を開いた。
「皆さん、競技場に移動しますので、一列に並んで私に続いてください!」
目聡い生徒たちが、サッと係員の前に並んでいく。
俺もコレットの手を取って立ち上がった。
「さ、行こうコレットちゃん。」
俺たちが列に混ざるころにはもう殆どの生徒が並び終えていた。
最後方に位置取り、前の生徒たちについていく。
競技場に入場すると、観客席からまばらに拍手が起こった。
都市大会に比べると観客数は申し訳程度に多いが、客席が広すぎるので一層閑散としているように見える。
逆に貴族席は密集している分、人が多く見える。
そして一番上にある王族席。この国の王様も見に来ているらしいのだが、遠すぎて顔までは確認できない。
「これより開会式を執り行う!!」
何やら偉そうなおじさんが壇上に上がり、長々と口上を垂れる。
魔法道の発展がどうのとありきたりな挨拶だ。
そしてそれが終わればやっと本番が始まる。
生徒たちはそれぞれ用意された席に着席し、自分たちの出番を待つ。
「一番、ジェレール・ブルガン!」
「はい!」
名前を呼ばれた少年が勢いよく立ち上がった。
少年が魔力測定器の前に立って構える。
魔力測定器は都市大会と同じく50まで測れるものだが、距離は1~5まで選ぶことが出来る。
つまり王国大会での最高点は250点だ。
「”火”!」
少年の放った魔法が魔力測定器に触れる。
「14点!」
いきなり二桁越えか。さすが各都市大会の上位者たちだ。
計測を終えた少年は肩で息をしながら席へ戻っていく。
俺の出番はまだまだ先のようだ。
*****
「・・・・・・番、アリューシャ・シュトーラ!」
「あ、はい!」
危ない、暇すぎて寝るところだった。
他の子たちと同じように魔力測定器の前に進み出る。
「き、君、どこへ行く!?」
「距離5の位置はあそこですよね?」
「そ、そうだが・・・・・・。」
「では距離5で測定お願いします。」
距離5の地点はおよそ25メートル。
ここまで離れると魔力云々より、的に命中させる方が難しそうだ。
まぁ、この程度の距離で当てられなければ実戦では役に立たない。
「ほい。」
俺の放った火の玉が魔力測定器に直撃して轟音を上げた。
黒煙が収まると、あっけに取られていた観測員が慌てて測定器の元へ駆け寄っていく。
当然、俺のスコアは文句無しの満点だった。




