00059話「宿場町」
騒がしい車内の音で目が覚める。
魔導装甲車に揺られるうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「ふぁ・・・・・・、いつの間にか寝ちゃってたか。」
隣の席の方に目をやると、同じくコレットも眠っているが、まだ目を覚ましてはいないようだ。
せっかく気持ちよさそうに眠っているし、わざわざ起こす必要もないだろう。
「何かあったんですか、カレンさん?」
慌ただしい車内の様子に目を向けながら、後ろの席のカレンに声を掛ける。
「あぁ、魔物が出ただけだ。」
「魔物が!?」
寝ぼけていた頭が一瞬で覚醒する。
「落ち着きな、アタシらの出る幕じゃないよ。」
そう言われて改めて車内を見渡す。
確かに慌ただしくはあるが、パニックに陥っているわけではない。
窓から外の様子を窺いたいところだが、そうするとコレットを起こしてしまうだろう。
ひとまず探知魔法で様子を見るだけにとどめておくことにする。
この動き方は・・・・・・ゴブリンか。
数は五体。おそらく街を襲撃してきた一団の残党だろう。
街の中に入ってきたものは全て退治したが、外に居たものについては把握できていない。
銃声が響き、ゴブリンたちの魔力反応が一つ、また一つと消えていく。
いくらも経たないうちに、ゴブリンたちは殲滅された。
「さすがテルナ商会の部隊だな。うちの防衛隊とは大違いだ。」
危なげなく戦闘を終えた部隊はゴブリンたちの死体を焼却処理した後、再び進み始める。
そして何度が遭遇戦が発生しつつも、陽が落ちる前に宿場町へとたどり着くことが出来た。
「ここが・・・・・・宿場町?」
事前に宿場町に滞在することは報されていたのだが、町というより村や集落と言った方が正しいような規模だ。
だが問題はそこではない。
宿場町にある殆どの建物が半壊、全壊、または建築中なのである。
多くの住民たちは町中のそこかしこに張られた天幕で暮らしているようだ。
立ち並ぶ天幕にはテルナ商会の紋章が掲げられている。
その疑問についてはテルナ商会の部隊の人が教えてくれた。
話によると、先日の襲撃事件に巻き込まれてしまったとのことだ。
そりゃそうか、街までの道中にあるもんな・・・・・・。
テルナ市周辺の宿場町はほぼ被害に会っているそうだ。
ただ建物などの被害は大きいものの、人的被害は街に比べると少ないらしい。
というのも、地下避難所など魔物への備えが出来ていたからだ。
まぁ、あんな大群に襲われることは無いだろうけど、外は魔物の危険と隣り合わせだからな。
対して街の中は魔物の侵入なんてほぼ無い前提で作られている。
そんな場所にあれだけの大群が攻め込んできたのだ。結果はあの通りである。
だがそのような状況でも住民たちに絶望の色が少ないのは、ひとえにテルナ商会の手厚い復興支援のおかげだろう。
並んでいる紋章付きの天幕もその一端だ。
「これがアタシらの天幕だとよ。」
五人で使っても余裕のありそうな天幕だ。中を覗くと寝袋が五つ並べられている。
宿屋の暖かいベッドで就寝というわけにはいかないようだが、道中で野営するよりはいくらかマシだろう。
「さて、さっさと飯済ませて寝ちまおうぜ。」
夕食は炊き出しのスープとパンだ。
炊き出しだから具の少ない薄いスープかと思いきや、野菜と肉がゴロゴロと入った具沢山の濃厚スープだった。
俺たちが来たからというわけではなく、住民の様子を見ると普段からこれくらいの炊き出しを行っているようだ。
「ぉ、おいしいね。」
「うん、味気ない携帯食じゃなくて良かったよ。」
食事を終え、自分たちの天幕に戻って寝袋を広げる。
「こ、これで寝るの・・・・・・?」
コレットは少し楽しそうだ。
こうして外でキャンプするなんて初めての経験なのだろうし、しょうがないか。
でも出発は翌早朝。あまり楽しんでいる時間は無い。
俺たちは早々に寝袋へと潜り込み、目を閉じたのだった。
*****
翌日。
キャサドラ先生に叩き起こされて天幕の外に出ると、もう働き始めている人がチラホラと見られる。
それに合わせて炊き出しも始まっているようだ。
昨日と同じく炊き出しで腹を満たしてから、さっさと魔導装甲車に乗り込む。
こうして数日掛けて俺たちは王都への道のりを進んで行った。
そして――
「み、見えたよアリスちゃん! あ、あれが王都だって!」
興奮気味なコレットに促され、装甲車の窓から外を窺う。
「おお、さすがに大きいね。」
テルナ市よりも高い壁にさらには外堀までついている。
王都というだけあって防衛力はテルナ市よりも高そうだ。
入都する旅人たちの列の脇を抜け、門へと近づいていく。
運転手が門番と言葉を交わすと、そのまま中へと通される。
そして門をくぐると、王都の街並みが広がっていた。




