00054話「仕掛け」
「イツマデソノ威勢ヲ保ッテイラレル、小サイ人間!」
迫って来る剛腕を紙一重で潜り抜け、地面に魔力を流して土の礫を飛ばす。
礫は巨大なゴブリンに直撃して砕けたが、硬い外皮に阻まれ傷一つ付いていない。魔力の練りが足りないか。
それでも周りにいる手下のゴブリンくらいなら一撃で仕留められるほどの威力はあるはずだが・・・・・・。
でも今はそれでいい。とにかく撃ち続けることが大事だ。
「まだまだ足りないかな・・・・・・。」
「何ヲボーットシテイル、オ前タチモカカレ!」
頭でっかちのゴブリンが再び指示を出し、手下のゴブリンたちをけしかけてきた。
「バカの一つ覚えみたいに!」
群がってくるゴブリンたちにも魔法を浴びせつつ、包囲から離脱する。
ゴブリンたちは土の礫に砕かれ、土の棘に貫かれ、骸の数を増やしていく。
だが奴らの数は一向に減る気配がない。いや、むしろ増えているような・・・・・・?
「ククク、気ヅイタカ?」
街へと向かっていたゴブリンがピタリと止んでいる。
どうやら俺に残っている戦力をあてるつもりらしい。
街への被害が小さくなるのは嬉しいところだが、これはちょっと・・・・・・多勢に無勢かな。
「ソノ小サイ人間ヲ喰ライ尽クセ!」
俺はゴブリンたちの攻撃を凌ぎながら、隙を見て土を操り、攻撃を仕掛けていく。
しかし徐々に、徐々に俺への包囲が狭まって来ている。
「うぁ・・・・・・っ!」
俺を追っていたゴブリンの内の一体の攻撃を受け、吹き飛ばされた。
触手で態勢を整えながら、なんとか着地する。
だが相手はその一瞬の隙を見逃すような奴らではない。
巨大なゴブリンが大きく広げた手を、まるで虫でも叩き潰すように俺に向かって振りかぶった。
「ッ・・・・・・我ヲ守レ!」
振り上げた手で咄嗟に肩にいる頭でっかちのゴブリンをガードする巨大なゴブリン。
すんでのところで、俺の放った土の礫が防がれてしまった。
あわよくばと思ったが、仕留めることはできなかったか。でもヤツの肝を冷やすには十分な効果があっただろう。
「さっきまではワザとアンタを狙ってなかったんだよ。」
「キ、貴様・・・・・・ッ! ダガ、ソノ体デハモハヤ我ガ同胞タチニモ勝チ目ハアルマイ!」
巨大なゴブリンを自分の守りに集中させて、手下のゴブリンを使って俺を圧し潰す算段のようだ。
だが奴らが足を止めてくれるなら俺には願ってもないチャンスでもある。
しかし攻撃を受けた腕は折れてはいないようだが使い物にはなりそうにない。利き手じゃなかったのが幸いか。
さっさと回復したいところだが、今は他の魔力制御で手一杯だ。
こんな時ばかりは呪文一つで発動できる”魔法”が羨ましく思えてくる。
ズキズキと響く痛みを無視し、再び大地を蹴った。
「怯ムナ! 畳ミカケロ!」
一拍遅れて手下のゴブリンたちへ号令が飛ぶ。
俺は迫って来る手下のゴブリンたちを倒しながら、魔力制御を続ける。
そんな中で、一つの安全地帯を見つけた。
「貴様、足元ヲチョロチョロト・・・・・・ッ!」
手下のゴブリンたちは踏み潰されるのを恐れてか、巨大なゴブリンの足元には近寄ろうとしない。
頭でっかちのゴブリンの命令も、そこまでの強制力は無いらしい。
「クッ・・・・・・我ガ兄ヨ、アノ小サイ人間ヲ踏――」
頭でっかちのゴブリンが命令を言い終わる前に土の礫で狙撃してやると、慌てて防御態勢をとった。
さっきの脅しが良い感じに効いているようだ。
「舞台が整うまでそこでジッとしててよ。」
とは言え、いつまでもヤツの足元に留まっていては本当に踏み潰されてしまう。
適度に巨大なゴブリンの足元を経由しながら、数多のゴブリンたちを屠っていく。
しかし――
「ズイブン疲レテキテイルヨウダナ。動キガ鈍ッテイルゾ?」
魔力自体はまだまだ余裕で余っているが、それを制御する精神的な負担がつらいところだ。
それに、やられた傷のおかげで体力面も厳しくなってきた。
「そりゃあ、ね。これだけバンバン魔力を使って動いてたら疲れもするよ。」
肩で息をしながら頭でっかちのゴブリンの言葉に応える。これも時間稼ぎの内だ。
どうやらアイツは言葉を交わすのが楽しいらしい。
これまでずっと会話の出来ない相手しか居なかったのだから、仕方ないかもしれないが。
「フン、コンナ土ノ棘デ囲ンデドウスルツモリダ?」
巨大なゴブリン周囲には、俺が土を操って作り出した棘が空を貫くように突き出している。
手下のゴブリンたちと戦っている間に仕掛けていったものだ。
「コンナモノデ我ガ兄ノ歩ミヲ止メル事ナド出来ヌゾ!」
確かにこのデカブツが一歩踏み出せばことごとく踏み潰されてしまうだろう。
そんなことは百も承知だ。
これは少しでもその一歩を躊躇わせることが出来ればラッキーくらいの仕掛けで、本命は別にある。
「そうかもね。アンタは頭が良いみたいだから一つ教えてあげるよ。私が魔力で操った土、どこから調達したと思う?」
「何? マサカ・・・・・・! 急イデココヲ離レルンダ、我ガ兄!」
「もう遅いよ!」
俺は地面に魔力を流し、仕掛けを発動させた。




