00052話「外れ者の巨人とコブ」
身体の奥底から響いてくるような声、これは魔力を使って声を広げているようだ。
その声が聞こえた瞬間、ゴブリンたちの動きがピタリと止まり、ある方向へと視線を向ける。
俺もそれに釣られて、ゴブリンたちと同じ方向へ目線をやった。
「これまたずいぶんデカいのが来たな・・・・・・。」
大地を揺らしながら、一歩また一歩と巨体が近づいてくる。
10メートルは優に超える背丈に、それを支えるために発達した分厚い筋肉。
丸太よりも太い剛腕を振るえば、ゴブリンの群れなど容易く蹴散らしてしまうだろう。
まさに巨人と言える風貌だが、紛れもなくゴブリンだ。
そして何よりも目を引いたのが、片方の肩に付いているコブだった。
「小サイ人間、コレハ、オ前ガヤッタノカ?」
コブに付いた二つの目がこちらを見下ろしながら喋る。
そう、コブだと思っていたのはもう一つの顔だったのだ。
だがよく観察してみれば、巨躯のゴブリンが双頭というわけではない。
肩に乗っていたのは、大きな頭から通常の個体よりも華奢な体が生えている、頭でっかちのゴブリンだった。
昔テレビで見た、グレイの頭をさらに大きくしたような感じだ。
あのバランスでは自力で動くことも困難だろう。
「そうだと言ったら?」
コブの方がギロリとこちらを睨む。
「ヤレ。」
コブが言葉を発すると、俺を取り囲んでいたゴブリンたちが一斉に襲い掛かってきた。
しかし慌てず、片っ端から処理していく。
十数を仕留めたところで、襲撃はピタリと止んだ。
いや、元々それだけの数に”命令”を出していたようだ。
「ソノ強サ・・・・・・オ前モ”外レ者”カ。」
聞いたことのない単語に頭を捻る。
彼の口ぶりから、規格外の存在と言った意味だろうか。
であるなら、あながち間違ってもいない。
「まぁ、普通の人とは多少出自は違うかもね。」
「コヤツラデハ敵ワヌカ・・・・・・。」
「やっぱりアンタがこいつらの親玉ってワケ?」
「親玉・・・・・・ソウダ。我ガコヤツラヲ統ベテイル。」
おそらくは魔力を込めた声でゴブリンたちを操っているのだろう。
と言っても、そこまで複雑に操れるわけではなさそうだ。
「それじゃあ、アンタが乗ってるデッカいのもアンタの手下ってわけか。」
「兄ヲ侮辱スルナ!!」
なるほど、ご兄弟でしたか。
コブが巨人に何やら耳打ちすると、大岩のような拳を俺目掛けて振り下ろしてきた。
大きく飛んで躱すが、衝撃で吹き飛ばされる。
「うおっ・・・・・・と!」
態勢を立て直し、何とか着地する。
さっきまで俺が居た場所は大きく抉れ、俺を囲んでいたゴブリンが何体か潰されてしまったようだ。
「ズルいな、いきなり攻撃してくるなん・・・・・・て!」
言葉と同時に氷の矢の魔法を巨人のゴブリン目掛けて放つ。
的が大きい分、当てやすかったが表皮を少し傷つけただけで終わってしまう。
「マジかー・・・・・・さすがにデカ過ぎ――うわっ!」
巨人のゴブリンの投石・・・・・・投岩を空中に跳んで躱す。
そこへ巨人のゴブリンの手が掴みかかってきた。
「これならどうだっ!」
インベントリから土の剣を引き抜き、一閃。
「グガアァァァァァァァッ!!!!」
痛みを感じた巨人のゴブリンが地団太を踏んで暴れ出し、所かまわず拳を叩きつける。
当然近くにいた普通のゴブリンたちは踏みつぶされていく。
少し可哀そうな気もする。
「指をちょっと切っただけでこれかよ・・・・・・っ!」
何とか距離を取り、暴れる巨人のゴブリンから逃れる。
「剣デ我ガ兄ヲ傷ツケルトハナ・・・・・・。オ前ハ危険ダ。」
「そりゃお互い様でしょ。」
コブが耳打ちすると、巨人のゴブリンは怒り顔のまま足元に残っているゴブリンたちを鷲掴みにし、貪り始めた。
すると、みるみる内に傷つけた個所が治っていく。
「なるほど、多少傷を付けた程度じゃ意味がないってことね・・・・・・。」
「ソノ通リダ。ドウスル小サイ人間。オ前ニ我ガ兄ヲ討テルカ?」
巨体が俺を押しつぶしそうに眼前に聳え立つ。
周囲のゴブリンの殲滅するにしても時間が掛かりすぎるし、生半可な火力ではあの巨人のゴブリンを倒しきることは出来ないだろう。
だが――
「問題無いよ。もっと強い相手を倒したこともあるしね。」
「フン・・・・・・世迷言ヲ! オ前ノ様ナ小サイ人間ナド、踏ミ潰シテクレル!」
巨人のゴブリンが咆哮を上げ、空と大地が奮えた。




