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あの日



寺山修司

「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」




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「あの日」



 海を知らぬ少女の前に、麦藁帽のわれは両手を広げていたり。




 あれはもう、五十年は昔でしょうか。私がほんの小さな子どもだったころです。私は神奈川に住んでいて、といってもヨコハマみたいな都市じゃなくて、田舎だったんですけど。それで田舎なもんだから、近所の人は親戚の延長みたいな感じでね。中でも庭に柿の木が生えてる家のおばあちゃんと、私は仲が良かったんです。

 あの日は、もうカンカン照りで。友達のシゲちゃんのところへ行く途中、参っちゃって。涼もうとおばあちゃんの家に転がり込みました。おばあちゃんはいつ見ても目がほそーくて、年中ニコニコしているように見えました。それで、ニコニコ私と話をするんです。


 僕はあの日、新品の自転車を買ってもらったばっかりで、その自慢話をおばあちゃんにしました。自転車で、友達と海に行った話です。

 そしたら、おばあちゃんが海を知らない、なんて言うんです。どんなものなのか、教えてくれって。だから僕は言いました。海はヘンな匂いがして、ジャリジャリして、しょっぱくて、あと、すっごく大きいんだって。そしたら、どれくらい大きいのかって聞くんですよ。僕は縁側の向こうからこっちまで手をいっぱいに広げて走って、これよりもずっとずっと、と言いました。おばあちゃんはそんなに大きいのね、なんて言いながら笑いました。僕も、つられて笑いました。


 それからまたしばらく経って、おばあちゃんは亡くなりました。お通夜が終わった後、母が、おばあちゃんは生まれつき盲だったと教えてくれました。おばあちゃんは本当に、海を知らなかったのです。


 私はどうも、夏が来ると思い出すんです。あの、おばあちゃんの楽しそうな、嬉しそうな顔を。あの日、おばあちゃんは海を知ることができたかなぁ。


寺山修司

「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」

でお話を作らせてもらいました。


この話、文を削るのに苦労しました。

私と僕は、誤字ではありません。

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