ネクタイ
俵万智
「男には首のサイズがあることの何か悲しきワイシャツ売場」
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「ネクタイ」
レミは女友達と、ここいらでは有名な大型ショッピングモールに来ている。買い物も、カフェでのおしゃべりも、美味しいご飯も、アトラクションも、ここではなんだってできる。目一杯遊んで、そろそろ帰ろうかという頃、友達の一人が紳士服のテナントを見て、ポツリとこう言った。
「なんでメンズのシャツってあんな同じのばっか何個も並んでるんだろ」
「確かに、言われてみれば」
「なんでだろうね、知らないや」
みんなが口々にそう言う中、レミは静かに言った。
「あれは、ウエストと身長と腕の長さと、あと首の大きさでサイズが分かれてるから。だからいっぱいあるんだよ」
「ふーん。でもなんで首の大きさ測るの?」
「ネクタイ、締めるからだよ」
「ネクタイかぁ。なんか苦しそうだよね。サイズも選ぶの大変だし、ネクタイなんてしなくてもいいのに」
男には首のサイズがあることの何か悲しきワイシャツ売場。レミは、急にみんなに見張られているような気がした。
「でもさぁ、レミ、すごい詳しいね」
「確かに。なんで?」
「お父さんに、教えてもらったんだよ」
会話はそこで途切れた。みんな、納得したようだ。しかしレミは嘘をついていた。みんなはレミから視線を外して進行方向を見たが、レミはまだ誰かに見られているようで、不安だった。
家について、レミは自分の首を少しなぜる。もうネクタイに縛られない、女の、首。しかしレミにはまだ、自分の首にネクタイが付いているような気がした。私はレミだ。鏡を覗いてレミは独り、そう呟いた。
俵万智さんの
「男には首のサイズがあることの何か悲しきワイシャツ売場」
でお話作らせてもらいました。
こいつセクシャルマイノリティ好きだなって、自分で読んで思いました。