第六話
「…ん。うん…?」
エイジは目を開けるとベッドの上にいた。
「ここ…どこだ?」
エイジが呟くと不機嫌そうな声が返ってきた。
「トーナメント会場の医務室だ。」
輝だった。所々に包帯を巻いている。
エイジは首をかしげ、記憶を辿った。輝は暴走したエイジと戦ってたが、怪我はほとんど負っていないはずだった。
輝は、はぁとため息をついた。
「この怪我は君に直接負わされたものじゃない。」
「あ、そうなのか。よかっ…」
「だが、間接的には君のせいだ。」
「え?なんでだ?俺のせいじゃないってさっき、言っただろ。」
「だから、間接的だと言っているだろ。君が気絶した瞬間、君は、地面に真っ逆さまに落ちていったから、僕が、魔法で受け止めたんだ。そしたら、君を中心に衝撃波がはしって、魔力の制御がきかなくなった。そのせいで、僕の飛行魔法が消えて、その上、衝撃波で吹き飛んだ瓦礫とかが、飛んできて怪我をしたんだ。」
「…。」
ーうん…たしかに、俺のせいだ。
「ごめん…。」
「別に構わない。僕が挑発したせいでもあるから。」
輝はそう言い、ほんの少し頬を緩めた。
「あ、君には後で事情聴取があるから。」
「まあ、だよな。…でも、なんでいまじゃないんだ?」
「今、君に構っている暇が教師陣に無いからだよ。」
「…?」
理解できないエイジに、見た方が早いと輝は腕を掴み、連れていく。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
輝がエイジを連れていったのは、トーナメントの会場だった。エイジが破壊しただろう箇所は、もう既にほとんど直っていた。
闘技場は恐ろしい程静かだった。それもそのはず、中心で対峙する三名の生徒がとてつもない程の魔力を発していたからだ。
「やっと、来たわね。朝陽ちゃん!」
「…。」
「おい、何か言ったらどうだ。夜闇。」
朝陽は何も言わず、向日葵と三日月を睨む。
「…なんのつもり…?」
朝陽がようやく、口を開き問いただす。二人の王は、ニヤリと黒い笑みを浮かべ、頷き会う。
「なんのことかな~?…あっ!もしかして、このエキシビションのことかな!」
「…エキシビション…?」
「そうだ。俺たち王によるな。だが、俺たちとお前では、実力差が大きい。ということで、少々あれだが、二対一で戦うとしよう。」
…卑怯だ。
エイジはそう思った。たしかに、朝陽は強い。だが、仮にも王と呼ばれる奴らが二対一で勝負を挑むのはおかしい。
「あ!ちなみに、朝陽ちゃんに拒否権はないよ!」
「…なぜ?」
「前から聞きたいことがあったんだよね~。どうして朝陽ちゃんは“限界突破”を使わないのかなってね。」
「…っ!!」
滅多に感情を表に出さない朝陽が、目に見えて動揺する。
「アハッ。やっぱりね~。使ったこと無いよね?少なくとも人前で。なんで?どんなに相手が強くても、苦戦しても、“限界突破”を使わないの?…もう一つ言うと、星の翼も使わないよね?」
「っ!!」
エイジは首をかしげる。それを見た輝が軽くため息をつき、説明する。
「“限界突破”は、自分の魔力の制限を解除して限界以上の力を出す強化魔法の一種だ。解放魔法とも呼ばれている。格上相手には使用必須の魔法でもある。星の翼とは、魔力を持つものが空中戦や長距離移動をするときに用いる擬似的な翼だ。魔力でできているが、実体がある。形状も所有者によって異なり、似ているものはあるが、全く同じというものは存在しない。」
「…?えっ、でも、あまり必要なくないか?だって、魔法で飛べるだろ?」
はぁーと盛大なため息をつき、呆れたような目をしてエイジを見る。
「君、頭悪いのか?飛行魔法を使ったまま戦ったりしたら、すぐ、魔力切れを起こす。」
「いや、でも、星の翼も魔力でできているんだろ?だったら、同じじゃないか。」
「そんなわけないだろ。星の翼に使われる魔力は一時的なもので星の翼を解除すれば使用していた魔力は全て戻ってくるんだ。それに、星の翼は使用時に魔力を使うだけで、継続して魔力が減る訳じゃない。そこが、飛行魔法と違う。」
へー、とエイジが感心していると、向日葵の声が響く。
「ねえ、どうして?なんで、使わないの?」
「…。」
「使えない…。という訳では無いだろう。お前程の実力者が。一体お前は何を隠している?…答えろ、夜闇。」
「…っ」
朝陽は唇を噛み、うつむき、黙る。
「だからね。私たちがあなたに“限界突破”を使うくらいの戦いを挑むんだよ。」
向日葵と三日月は後ろに飛び、距離をとって、魔法を発動する。
『『“限界突破”!!』』
向日葵は黄色、三日月は紫色の魔力光に包まれる。
『我に、闇を貫く光を与えよ!顕現せよ、“ルーク・ソレイユ”!』
向日葵の手に純白に金の装飾が施された流麗な弓が現れる。
『我に、光を断ち切る闇を与えろ!顕現しろ、“ルアル・エスパーダ”!』
三日月の手に漆黒に銀の装飾が施された流麗な軍刀が現れる。
「お前も早く魔剣を喚べ。でなければ、…死ぬぞ。」
「…っ。」
三日月に言われ、朝陽も召還式を唱える。
『…我、光と闇の中立者。…黄昏の名を持つ神話の魔剣よ、我に力を与え、共に戦わん。その名は“魔聖剣 トワイライト”!』
「…へぇ~。やっぱりね。朝陽ちゃんの魔剣、神話級でしょ。その上、召還式が完全召還とはね。完全に主として認められているみたいだね。」
向日葵は朝陽の手に現れた禍々しくも神々しいオーラを纏っている長剣見て、笑みを消す。
「いくら神話級だとしても、“限界突破”をしていなければ、そこまで脅威では無い。」
「うん、うん、だよね。じゃあ、始めようか。朝陽ちゃん。速く、“限界突破”を使ってね。…じゃないと、…死んじゃうよ?」
こうして、朝陽と二人の王の戦いが幕を開けた。