第五話
入学式から、ちょうど二週間たった。いよいよ、新入生トーナメントが開催された。
新入生トーナメントには、魔獣の討伐や国の問題解決に関する指令をこなすギルドのスカウトなどの参考にするため、いろんな人が観戦に来る。
「はあー、緊張するなぁ…。」
エイジは伸びをしながら、言った。すると、エイジの言葉に反応した者がいた。
「この程度で、緊張しないで。」
朝陽は、当然のように言う。
それに、エイジは苦笑し、頷く。
「わかってるさ。」
「それなら、いい。」
朝陽は、無表情で答える。
「はぁ。お前さ、こんな時ぐらい笑ってくんない?」
エイジの言葉に朝陽は反応に困った。
「…。なぜ?」
「いや、なぜって…。こういう時は、頑張ってって、笑顔で見送るところだろ。」
朝陽は少し考え、首をかしげる。
「そういうもの?でも、それなら、私は見送られたことがない。」
「え…。どういうことだ…?」
今度は、エイジが反応に困った。
「言葉の通り。私は誰にも見送られたことがない。」
朝陽はもう一度言う。
「…。こんなことはどうでもいい。もう始まる。私はエイジの試合は指令があって見れない。」
「えっ。指令があるのか?」
朝陽はこくりと頷き、言った。
「トーナメントの最終戦には戻ってこられるかもしれない。」
「そうか。頑張れよ。」
「っ!…うん。…エイジも、頑張って…。」
「ああ!」
そう声をかけあって、二人は自分の行くべき場所へ歩き出す。朝陽は足を止め、振り向く。
「エイジ!」
それに、エイジが振り向く。
「…魔力に、闇の魔力に飲まれないで。負の感情にも!」
「…?どういうことだ?」
ほんの少し、悲しげな苦笑するような笑みを残して朝陽は転移魔法で消えてしまった。
エイジは朝陽の言葉の意味を考えたが、そこでトーナメントの開幕が宣言される。
『ただいまより、アルヒ魔法学院新入生による新入生トーナメントを開催します!!』
エイジは第一試合をなんとか勝ち抜いた。
次は、第二試合。相手は今年度の新入生首席らしい。
一番当たりたくないやつに当たってしまったが、朝陽との約束を守るために勝つとエイジが気合を入れると、心臓が強く締め付けられたような痛みを感じた。
「…?な、んだ?」
『次は第二試合~!』
エイジは謎の心臓の痛みを気にしたが、すぐにおさまったため、そのまま闘技場に向かった。
向かい側から、相手も同時に出てきた。
相手は、ふわふわとやわらかそうなライトベージュの髪と透き通ったエメラルドグリーンの目を持つ、同い年くらいの少年だった。
「僕は、風上輝。君が、魔城エイジか…。」
「そうだが、なんで知ってんだ?」
「君は有名だからね。生徒会に入った新入生…。どれほどの力を持っているのか確かめさせてもらうよ!」
『始め!!』
エイジは腰の長剣を抜き、構える。
『風よ、雷よ』
輝は、風で浮遊し、雷を放つ。
『闇よ』
エイジは、剣に闇の魔力を纏わせ雷を弾く。
「へぇ…。そういう使い方もあるんだね…。驚いた。でも、これはどうかな?」
そう言って、輝は先ほどより太く、威力の高い雷を数本同時に放つ。
「くそっ!」
エイジは剣で弾くが、弾ききれず一撃食らう。
「ぐぅ!」
雷の電気で痺れ、たまらず膝をつく。
「そんなものなのかい?君の全力は!!」
輝は雷の槍を作り、エイジに投げ続ける。
キンッ
実体がないはずの雷の槍が、鉄の槍が弾かれたような音を出し、地面に転がり消滅した。
「!」
「うるせぇよ…。さっきから。」
そう言って、エイジは立ち上がる。もう体はボロボロだった。
「なんで、立てるんだ?痺れて動けないと思うが…。」
「地面、だよ。」
「ああ。なるほど。黄昏の女王に入れ知恵でもされたのかな?」
「…朝陽は、関係ない、だろ。」
「いいや、あるね。僕はね、彼女が怪しくて仕方ないんだ。彼女の出自は誰も知らない。それに、あの強さ。普通に考えておかしいだろ。人間か、どうかも怪しいよ。」
エイジは、トーナメントが始まる前の朝陽との会話を思い出した。誰にも見送られたことがない。たしかに、おかしい。心臓が狂ったように鼓動する。息が苦しい。
だが、エイジは朝陽のことを批判する輝に自分のものではない怒りを感じた。その怒りは、どんどん強くなっていきエイジの体を包むほどの闇の魔力となった。
「っ!なんだいそれは…。」
「さあな。でも、お前を倒せればどうでもいい。」
エイジの黄金色の目には闇が渦巻き、完全に闇の魔力に飲み込まれた。暴走だ。
輝は、エイジが暴走しかけていると気づき、全力で相手をすることを決める。
『限界突破!』
先ほどとは比べ物にならない威力の雷を風の刃にのせて、エイジへと放つ。直撃すれば、即死するレベルだ。
しかし、エイジは全て剣で弾き、地面に叩き落とした。
「こんなもんか?お前の全力は。」
「まだだ。」
輝はそう言い地面に落ちてもなお、雷を纏い刃の形を維持している風を暴発させる。風でエイジの体は、空を舞い体勢が崩れる。
風の刃が纏っていた雷が、エイジの周りに漂う。
「チェックメイトだ!」
そう輝は言い、開いた手をエイジに向けぎゅっと握る。
エイジの周りに漂っていた雷は、強く光り、エイジを取り囲んだ。
雷の檻だ。
「さすがに、そこからは出られないだろ?」
「そう思うか?」
エイジはニッと笑って言った。そして、自分の体を包んでいる闇の魔力を辺りに放出する。
すると、雷の檻が軋み弾けた。
「なっ!力技にも程がある!」
「知るかよ!」
エイジは檻を壊し、地面を蹴り輝に向かって跳ぶ。
輝はエイジの剣の間合いに入る寸前に、足の裏に風を放出し、後ろに下がる。
だが、エイジの剣が闇の炎を纏い、輝の服を焼く。
「っ…。なんだそれ、出鱈目にも程がある…。」
「はは、これでおしまいだ!」
『…だめ!』
その時、正気を失っていたエイジに少女の声が聞こえた。その声は、懐かしいような少し前に聞いたような声だった。
その声を聞いたエイジは、自分の中にある怒りが消えていくのを感じた。
そして、急激に魔力が減っていき、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
自分が切ろうとしていた輝が無事で驚いた顔をしているのをぼやけた視界で確認しそこで、エイジの意識は途切れた。