第一話
暗い闇のなかで、一人の少女がゆっくりと息をはく。年は12歳ぐらいだろうか。足元には真っ赤な血だまりが広がり、少女の先には、数多の死体が転がっている。
だが、少女は動揺することもない。なぜなら、目の前に転がっている死体は全て少女によって、できたものだからだ。
そして、少女は振り返り、白衣を着た男達にこう言った。
「次は、何を殺せばいいの?」
少女は万年氷のように青く暗い瞳を瞬かせて、男達のだす新たな標的を殺すために歩きだした。
暗く広い空間には数多の死体と血だまりだけが、残された。
窓から差し込む朝の光で、彼女は目を覚ました。氷の瞳は光を受け、きらりと光る。まるで、宝石のように。
すると、枕元の端末が震えた。彼女は端末を手に取り、操作する。
メールが、一件来ていた。
『 夜闇 朝陽さん
学長があなたを呼んでいます。
至急、学長室に来てください。』
呼んだ内容は書いていなかった。
メールには書けないほどのことなのか、または、書くのが面倒だったのか。まあ、どうでもいいのだが。と、思い朝陽はベッドから起き上がった。
ため息をつき、呟く。
「はぁ、あの人は支度をする時間もくれないのね。」
仕方なく、朝陽は魔法を使うことにする。
『風よ』
そう呟くと、朝陽を中心に部屋のなかに風が吹き始める。風は、彼女の髪を整える。
『着せ替え』
また呟き、パチンッと指をならす。すると、彼女の服が一瞬で変化する。
念のため、朝陽は鏡の前で自身の姿を確認した。
腰まで伸びた毛先のみが黒い白銀の長い髪。スッと通った鼻筋に一切の光を通さない真っ青な氷の瞳、そっと添えられたさくら色の唇がほんのりと可愛らしさを与えた整った顔立ち。
小柄な体を包む、赤と金を基調とした騎士服が凛々しさを醸し出している。
「あ、忘れるところだった。」
朝陽はそう言って、枕元にある端末とイヤーカフを持って、鏡の前に戻ってきた。
端末をスカートのポケットに入れ、魔石を嵌め込んである、白や黄色に光る星の飾りがついた漆黒のイヤーカフを右耳に装着した。
太陽の光を受け、星がきらりと光る。
準備ができた朝陽は、鏡に手をかざし、魔力を込める。鏡に込められた魔力は、表面に魔法陣を描き朝陽の合図を待つ。
『転移、アルヒ魔法学院』
鏡は光を放ち、朝陽を包む。
目を開けると、朝陽はアルヒ魔法学院の生徒玄関の鏡の前に立っていた。朝陽は、学長室へ向けて歩きだした。
学長室のある四階に階段で上がると、突然ナイフが朝陽目掛けて飛んできた。
『魔聖剣 トワイライト』
朝陽は、自身の剣の名を呼び、一閃する。トワイライトによってナイフが弾かれた。
ナイフが飛んでくる。トワイライトで弾く。また、ナイフが飛んでくる。また、トワイライトで弾く。
朝陽は、これ、いつまで続くのかなと苛立ちを感じ、トワイライトを持ったまま走り始めた。学長室に近付くほど、ナイフの数が増え、朝陽の苛立ちも増えていく。
『風よ』
朝陽は、風の力で加速しトワイライトで弾くのを止め、避け続けることにした。ナイフが飛んでくるが、朝陽には当たらない。
朝陽の姿は、ナイフを投げ続けていた人物の背後にあった。
「先生、何しているんですか?」
ナイフを投げ続けていた人物こと、朝陽の担任 高橋夕香は冷や汗を流して振り返った。
学長室には、腹を抱えて笑い転げる学長と朝陽にボコられた高橋先生がいた。
「朝陽さん、ここまでする必要はなかったのでは…?」
「人にナイフ投げといて、よく言いますね。」
高橋先生は、返す言葉がなく、黙りこんだ。彼女は学長に言われて、朝陽を待ち伏せしていたのだ。だが、当の本人は椅子から転げ落ちそうなほど笑っている。
「それで、私を呼んだ用件は何ですか?」
少し態度が悪いが、そんなことを気にする人では無いので、用件をきく。
「あー、そうだったね。
こほん、S級魔剣士 夜闇朝陽、君に指令だ。
最近、市街地に現れるはぐれ魔剣士を捕縛してくれ。はぐれ魔剣士のくせになかなか強いらしいな。C級の生徒を送っても、やられて帰ってきたからな。」
「なぜ、いきなりA級ではなくS級の私なのですか?」
本来、S級は魔獣の討伐などの危険度の高い指令を出されるはずなのだ。それがなぜ、はぐれ魔剣士の捕縛などの指令を出されるのか、朝陽には理解できなかった。
だが、学長は
「そんなことは、知らん。」
答える気は無いようだった。
「わかりました。私も暇ではないので、すぐに終わらせてきます。」
そう言って、朝陽は転移魔法を鏡無しで、発動する。学長室にはもう朝陽の姿はなかった。
「あーあ、行っちゃいましたよ。いいんですか?はぐれ魔剣士の場所を教えなくても。」
そう高橋先生が言うと、学長は答える。
「必要ないだろ。なんせ、学院に3人しかいない王の二つ名を持っているんだ。心配する必要すらないさ。」
確かにそうだと、高橋先生は頷き学長室を後にした。
暗い闇が溢れる路地裏を、フードを被り顔を隠した一人の男が歩いていく。その手には、簡素な剣と朝の市場で盗んだリンゴが抱えられている。壁にもたれ掛かり、そのまましゃがみこんだ。
リンゴをかじり、空腹をしのぐ。
「にゃ~」
すると、男の足元に白ネコが寄ってきた。男が手を差し出すと、顔を擦りよせてくる。
「お前、腹が空いているのか?」
「にゃ~ん」
「ちょっと待て」
男は、リンゴを差し出し、白ネコが食べやすい位置に持っていった。
「食うか?」
「にゃん」
白ネコは一声鳴くと、食べずにくわえ持っていった。ネコがリンゴを持っていった先には小さな子ネコいた。
「お前、家族がいたんだな。」
白ネコは、チラッとこちらを見つめて子ネコと一緒に路地裏の向こうに消えていった。
「家族か…。」
男は呟き、空をあおいだ。
チカッと空で何かが光った気がしたが、まあ、気のせいだろう。
「さあて、今日はどうしようかな?」
男は立ち上がり、歩き始めようとした。
“ズドーン!”
男の目の前に何かが降ってきた。一瞬見えたのは、赤と金色の服を着た人間だったと思うが、空から人間が降ってくるわけがない。
だが、空で何かが光ったのは気のせいでは無かったようだ。
「あなたが、市街地に現れたはぐれ魔剣士?」
白銀の髪と氷の瞳を持つ彼女は、こう言った。
読んでいただきありがとうございます!
初投稿の小説なので、優しい目で見ていただけると幸いです。
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作者のやる気が続くよう、“黄昏の暗殺者”の応援よろしくお願いいたします。