序章ー出会う前の日常
とある惑星、ここではヒトとドウブツの立場が逆転しており、様々な種族のドウブツが服を着て、歩いて、仕事をして、生きている。
ヒトはいる、居るけど、ヒトは首輪に繋がれていて、頑丈な檻の中に入れられており、金持ちのペットとして飼われているのが大半だ。
そして、青い星からヒトを拐い、それを変態な金持ちに売り捌く犯罪者も居る。
この話は、この星に来てしまったヒトと、彼が見るドウブツの世界の話です。
「ブラックちゃん、ちょっと来てくれない?」
厨房の奥で棚の中身を確認していると、部屋の外から声が聞こえて、呼ばれたブラックはマスクをつけながら、そう声を上げた。
「なんですカネさん? こっちはそこそこ忙しいんですけど」
「いつも言ってるでしょう、ママと呼びなさいって、そんな事はいいわ、またなんだよ、また」
「ああ、またですか。分かりました、では、様子を見てきます」
「頼んだわよ! ブラックちゃん」
「はいはい」
そう答えると、ブラックは手に持っていたリストを近くの調理台に置き、手袋をつけながら、彼は厨房から出た。
厨房から出ると、少し暗い通路を見て、ブラックは二階へ上がる階段の位置を思い出しながら、明かりを付けないまま進もうとした。
しかし、足を踏み出す前に、ブラックは思い出したかのように振り向いて、通路の向こう側へ向き結構大きな声で彼はそう叫んだ。
「ママ、食材の確認はまだ途中だから、摘み喰いしないでくださいよ」
「しないわよもう! というか最近蕾ちゃんの調子が悪くて悪くって、あたしとっても心配なの! 早く見てきて頂戴!」
「はい、調子が変だったら内線掛けますから」
「もう、だからそれも言わないでよ! 言われちゃうといつも緊張しちゃうわ」
「すみません、でも一応念の為に、ね」
そうやってカネさんとの会話を終わらせると、ブラックは通路を歩き進み、すぐに彼は二階への階段を登った。
二階を上がり、相変わらずの暗さにブラックはポケットからスマホを取り出して、ライトモードを起動した。
スマホの微かな光を頼りに、床にある物を踏まないように気をつけながら、ブラックは突き当たりの部屋まで歩いた。
部屋の前まで行くと、ほんの僅かだが、何かがケージにぶつかってる音が聞こえて、深呼吸をした後、ブラックは扉を開けた。
「うお! めっちゃ暴れてるな、どうしたんだ蕾ちゃん」
部屋に入る瞬間、ゲージが衝撃で少し浮いたのではないかという風に、ケージの中にその『蕾ちゃん』が暴れている。
激しいほどの金属音を聞きながら、ブラックは手を伸ばして、部屋の電気をつけた。
電気が付けられた瞬間、奇妙な声を上げながら、頭をケージにぶつかる蕾ちゃんは固まったように止まった。
そして部屋が明るくなると同時に、ブラックは散らがってる物を踏まないように、ケージの方に近づいた。
近づくブラックの存在に気つくと、止まっていた蕾ちゃんは慌ててケージから手を離した。
とは言え、それで蕾ちゃんが暴れるのをやめた訳ではなく、むしろケージの中にある物を次々よケージへ投げ始めて、より一層暴れる様子を見せた。
暴れる蕾ちゃんを見て、ブラックがケージの周りの様子を少し観察した。すると、ケージの横にある窓が開けっ放しになった事に気づき、それを閉めるついでに、ブラックは換気扇を回した。
最初は何も変わらなかったけど、暫くしたら、蕾ちゃんは暴れるのをやめて、ゆっくりブラックの方へ近づき、蕾ちゃんはブラックを見上げた。
やっと蕾ちゃんが大人しくなったのを見て、少し笑ったブラックはケージの前まで歩き、指を伸ばして、蕾ちゃんの頭を撫でながら、ブラックはそう言った。
「お前は偉いな、ちゃんとその小さな体で不満を訴えている」
『チュチュ?』
「でも、カネさんが心配するから、あまりやらない方がいいよ」
『チュ!』
「はは、元気な奴だな……よし」
話し終わると、ブラックは蕾ちゃん用の餌を補充して、簡単にケージの中を掃除した後、ブラックは蕾ちゃんを優しく撫でながらそう言った。
「窓の事は僕からカネさんに言っておくから、いい子にしてるんだぞ、ハムちゃん」
『チュッチュチュ!』
元気になった蕾ちゃんを見て、どこか呆れたように、ブラックは笑いをこぼした。
最後にケージの鍵をしっかりかけて、慎重に扉の近くまで戻った後、ブラックは電気を消した。
部屋から出て、一階まで戻ると、ブラックが降りた音を聞いたのか、通路からカネさんのヒステリックな声が聞こえてきた。
「ブラックちゃんんんん! 蕾ちゃんの様子はどうっなのっよっ!!」
一瞬でブラックはパーカーを被り、その上から両手で耳を塞ぎ、エコーを効かせたカネさんの声が止んだ、ブラックはそう返した。
「声が大きいですよママ、お客さんが驚いちゃいます」
「だって、蕾ちゃんが心配なのよあたし!」
「それなら大丈夫ですよ、また窓が開けっぱになってるから、不機嫌になってるだけです」
「よっっっかったって良くないわ! 本当にいつもいつも窓を開けやがって! もう怒ったわ!」
その怒号と共に、通路の向こうから重ったい足音とテーブルや椅子が移動された音が聞こえてきた。
重く響いた床の音に気づくと、ほぼ反射的にブラックはパーカーのジッパーを閉め、全速で走りながら、ブラックは通路に入ろうとするカネさんを止めた。
「待て待て待て、今ママが離れると誰がお客さんの相手をするんですか!」
「止めないで頂戴ブラックちゃん! あたしね、蕾ちゃんに一目惚れしているの知ってるでしょう!?」
「知ってます! 知ってますから、少し落ち着いてください、蕾ちゃんに聞かれたらどうします!」
「あっ、そ、そうね、その通りだわ」
ブラックにそう言われて、カネさんは一瞬固まったが、すぐに通路から離れていき、どこか恥ずかしそうにしながらも、カネさんは店の中へ戻った。
ゆっくりと自分の定位置であるカウンターに戻るカネさんを眺めながら、ブラックは小さくため息をつき、服装を整えた後、ブラックも通路から出た。
幸いまだ営業時間が始めたばかりだから、客はそこまで入ってないけど、それでもカネさんがぶつかったせいで、通路までの席がめちゃくちゃになっていた。
本当はまだ厨房の準備があるけど、流石に店の惨状を放置する訳にも行かず、ブラックは倒された椅子とテーブルを戻し始めた。
ブラックが黙って片付けているのを見て、カウンターを布巾で拭きながら、申し訳無さそうにカネさんはそう言った。
「ごめんねブラックちゃん、あたし体が大きいから、怒るといつもこうなっちゃうの……」
反省しているようにカネさんは項垂れて、自分の両手を握り、元気のない声でカネさんはブラックにそう謝った。
そんなカネさんを見て、ブラックの目元が少し緩み、優しい声で彼はカネさんにそう答えた。
「いいんですよママ。ママはその大きさも含めて魅力的ですからね」
「やんもう! 口が甘いんだからァ! ……ありがと、ブラックちゃん」
「事実を言っただけですけどね、まあ、どういたしまして、ママ」
ブラックの言葉を聞き、先まで落ち込んでいたのが嘘のように、カネさんは嬉しそうに声を上げて、ブラックの方を向き、カネさんはウィンクを送った。
少し呆れたように笑いながら、ブラックは最後の一脚の椅子を元の位置に戻した。そして、掃除する必要があるのかと店の様子を見て、箒を持って来なくても大丈夫だと確認した後、ブラックはカネさんにそう言った。
「じゃあ、もう一回テーブルを拭きますので、新しくお客さんが入ったら、出来るだけこちら側の席を案内しないでください」
「はーい、あっ、そうだブラックちゃん、蕾ちゃんの事なんだけど、何かあたしに出来る事はあるのかしら?」
「うーん、シンプルに窓に鍵を付けるとか、もしくはケージの場所を移動したらいいと思いますよ」
「なるほどね、そういう手もあるわね。分かった、少し考えてみるわ」
「まあ、決めたら呼んでください、手伝いますから」
「もう! 本当にブラックちゃんってば、いいオスなんだからァ!」
「やめてください、それビルさんに聞かれたら僕死っちゃうから!」
「ほう、何が俺が聞いちゃまずい事でもあんの?」
カランコロンと店の扉に付いてるベルが鳴り、暗い店の中ではあるが、低い男性の声がしっかりとカウンター席まで届いてきた。
刺々しい言葉の後にタバコの匂いが漂い、同時にゆっくりと靴の音が響き、そう時間も経たずに、ブラックの体は大きいな影に覆われた。
そして、思いっきりブラックにタバコを吹きかけた後、そいつは同じ言葉を繰り返した。
「何が、俺が聞いちゃまずい事でもあんの?」
「この前アルル団の下っ端がママの鞄をひったくったけど」
「ほうほう、アルル団か、殺す」
「ちょっとビルちゃん! 子供の言葉を真に受けちゃダメよ!」
低く響いたビルの殺気を孕んだ声を聞き、カウンターにいるカネさんは慌ててそう声を上げた。
けど、カネさんの声を聞き、ビルはカウンターの向こうへと視線を移し、カネさんを見ながら、彼はそう聞いた。
「では、こいつが話したのが嘘だと言うのか?」
「嘘ではないけど……」
「やっぱ殺す」
「もう待てよビルちゃん! あたしぃ、クールなビルちゃんとお酒が飲みたいの! ね?」
「……ふん、いつもの奴はあるだろうな」
「もっちろんよ! とっておきなの用意してあるわ」
「仕方ねえな」
カネさんの全力の甘え声を聞き、凄く不本意な声をしながらも、どこか満更でもない表情でビルはカウンターの席に座った。
少し落ち着いたビルを見て、カネさんは気づかれないように小さく息をつき、そしてブラックの方へ向けて、やや呆れ気味にカネさんはそう言った。
「ほらブラックちゃん、ビルちゃんのお気に入り、覚えてるでしょう? アレ出しちゃって」
「はい、分かりましたよママ」
「よろしい! じゃあ、後はあたしに任せて、料理の準備はお願いするわ」
そう言い終わると、カネさんはビルの方を向き、ゆっくりと会話を始めた。
落ち着いたカウンター席の様子を見て、ブラックは小さく胸を撫で下ろし、ビルとカネさんの声を背に、ブラックは静かに通路の中に入った。
一応テーブルを拭いた方がいい気がするけど、カネさんにも任せてと言われた上、これからどんどんお客さんが入ってくる事を考えると、ブラックはその選択を諦めた。
片付けの代わりとは言えないが、ビルがこの店で保存しているボトルを出したら、しっかり厨房の仕事をしようとブラックは考えた。
そうしてブラックは厨房に入り、ビルのボトルを準備し、手早くおつまみも用意しちゃうと、それを全部トレーに載せて、ブラックは店の表に戻った。
「お待たせしました……どうしたんですか?」
難しい顔をしたビルを見て、カウンターにトレーを置いた後、控えめな声でブラックはそう聞いた。
今出てきたブラックの質問を聞くと、ビルは深く溜息をつき、店の外へタバコの先を向いた。そして、スマホを持っているカネさんを見つめながら、ビルはブラックにそう答えた。
「……お前さんの同僚の羊ちゃんがストーカーに襲われたってな、そんで今来るか来まいかと話してる」
「襲われたって、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないだろうな。でも、カネに会ったら安心できるって言って、話を聞いてくれないらしい」
「あー、そういう事ですか。でもその気持ち、分からなくもないですね」
うんうんと頷いたブラックの言葉を聞き、ビルは咥えたタバコを指で摘み、ニッと凶悪な笑みがその顔に浮かべた。
そして、大きいな手でブラックの背を叩き、豪快に笑いながらビルはそう言った。
「ほっんとうに分かってるなお前さんは! そうさ、カネは昔から信頼できる奴だ。今こそはメスの格好してるが、そこは変わらねえんだ!」
「ビルさん、それ絶対カネさんに言っちゃ駄目ですからね。言いたい事は分かりますけど、それを言ったらカネさん怒りますよ」
「わーてるって、俺だってカネを馬鹿にするつもりはねえんだ……だた、俺には奴の気持ちが全っっ然分からん」
そう強く言葉を吐き出すと、ビルはトレーの中へ手を伸ばし、直接指でつまみのチーズを取り、そのまま口に入れた。
少し呆れたようにその光景を眺めながら、ブラックはカウンターの中に入り、そしてビル用のグラスを出すと、ブラックはビルのボトルでお酒を用意した。
テキパキ準備を進めていくブラックの動きに気づくと、ビルはタバコの火を灰皿で消し、そして手を伸ばして、彼はブラックからグラスを受け取った。
少しだけグラスを揺らして、じーとお酒を睨んだ後、ビルは一気にグラスを空にした。
どこか不機嫌そうなビルの顔を見て、ブラックはグラスを受け取り、苦笑いを零しながら、ブラックはそう言った。
「カネさんの事が心配なら、そう伝えてあげたらいいと思いますよ」
「なっ、そういうんじゃねえよ! ……そういうんじゃ、ねえんだよ」
ブラックの言葉を聞き、ビルは一度彼を睨んだけど、ため息をつき、どこか苦い表情でビルはそう呟いた。
「っち、分からなくなってきたぜ……」
それ以上の会話はなく、ビルはただ黙って酒を飲み、つまみを口の中に入れた。
そんなビルの表情を見て、ブラックも無理矢理話しかける事なく、時々おつまみの補充して、ビルもそれを素直に口にした。
再びブラックがビルのグラスに酒を注いた時、『カラン』と扉のベルが鳴り、凄く申し訳なさそうにカネさんはブラックにそう言った。
「ブラックちゃん、ほんっっとうに悪いけど、お客さんから頼まれたペットたちの餌やりをやって貰える? あたしこれからクラウディーちゃんを迎えに行かないといけないの」
「いいんですよ、気をつけてくださいね、ママ」
「あたしを襲うアホが居るなら返り討ちにしてやるから大丈夫なの! でもありがとうねブラックちゃん、心配してくれて」
「いやいや、そのまま行くんですか? ちょっと待ってください!」
話が終わると、カネさんはすぐ店を出ようとした。けど、それに気づいたブラックはカネさんを呼び止め、急いでカウンターの裏にあるコードを掴み、ブラックはカウンターを乗り越えた。
飛び出した勢いのままにブラックはカネさんの傍まで駆けつけて、大きいなコードを羽織らせながら、真剣な顔でブラックはそう言った。
「ママ、オスだろうとメスだろうと、襲われる可能性はありますから、本当に気をつけてください。ついでに外は寒いから、風邪を引かないでくださいね」
「風邪はついでになのかーい!」
思わずカネさんがそう突っ込んだ後、ブラックの顔を見て、カネさんは少し嬉しそうに笑った。
「……ふふ、そうね、気をつけるわ」
「はい、いってらっしゃい」
「ええ、行ってくるわ」
そうしてカネさんがコードをちゃんと着てのを見て、ブラックが満足気にそんなカネさんを見送った後、後ろのカウンター席から分かりやすいほどの舌打ちが聞こえてきた。
「格好付けやがって」
「カネさんは気持ちとか感情とか読み取るのが得意ですけど、こうした思いはちゃんと口で伝えないと、勿体無いですよ」
「……まさかと思うが、俺に説教するつもりか?」
「いえいえ、ただのアホのくだらない後悔ですから」
答えを聞いたビルの驚いた表情に気づき、ブラックは無理矢理に笑顔を作り、そして空になったトレーを掴んで、ブラックはビルにそう言った。
「では、カネさんに頼まれた事が出来た後、またお酒を持ってきますので、少しの間店を見てもらっていいですか?」
「さっさと行け、ついでに旨いもん用意してくれ」
「はい、豆のヤツがいいんですよね?」
ブラックの質問に対し、ビルは無言の頷きで返した。ただ、よくよくその表情を見ると、ビルは僅かに微笑んでいた。
素直じゃないなと思いながら、ブラックは通路に入り、彼は厨房に入った。
厨房に入った時、ブラックはトレーを置き、そのまま彼は冷蔵庫の中身を確認した。
後で使う予定の食材を前の方に出して、使った食器を水につけた後、ブラックは大きい棚の前に立ち、中からペット用の餌を取り出した。
餌の箱を脇に抱えて、ブラックは自分のマスクとパーカーがズレてない事をもう一度確認した後、彼は厨房を出た。
厨房を出て、通路を歩き、地下室へと繋ぐ階段を降りたところ、何者かのうめき声に気づいて、ブラックはすぐに電気をつけた。
電気をつけると、大きいなペットのケージがすぐに目に入る。その中にいる『ペット』たちの様子を確認した後、ブラックは明かりを弱めた。
ケージの中には綺麗なお人形のような洋服を着て、暖かいベッドの上で、寄り添う三つの存在はあった。
似たような体格、若くて瑞々しい肌、宝石のような瞳、声もどこか甘やかさのある物だった。しかし、ブラックの存在に気づくと、怯えの色は表情から滲み出した。
『ペットたち』の恐怖を知っているから、ブラックは何も言わずに、彼は餌の箱を開けて、中のクッキーをケージの中にある皿の中に入れた。
すると、ベッドの上にいる一番細い子はすぐにブラックの方へ駆け寄り、その皿を奪い取った。それに続くように、他の子もベッドから降りて、そこから皿の争奪戦が始まった。
その光景をブラックは見ていたが、放っておこうと思い、ブラックは皿が空になるのを待ちながら、ケージに貼られている説明を読み始めた。
《ペットたちは我々よりも脆く、しかし、寿命はそこまで変われない不思議な生き物》
『これ、私が取ったの!』
《毛皮はなく、鱗はなく、爪と牙は無力、か弱い生き物》
『あなた一人占めにするつもりでしょう! させない!』
《温度変化に耐えられず、湿度変化に耐えられず、水中では生存不可能、空中では移動不可能》
『三人で分けましょうよ三人で!』
《美点としては、飼い主の機嫌を伺えるほどの知恵と若い時期の可愛らしさ》
『この量で足りると思うの? 馬鹿じゃないの?』
《食事と餌遣りは簡単手軽であり、誰でもヒトの飼育が可能》
「ただし、十分な金が必要、とな」
段々と騒がしくなるペットたちの争いを聞き流していたが、いよいよ耐えられず、ブラックはわざと大きな声で説明の文章を読み上げた。
ブラックが使った言葉に気づいた瞬間、ケージの中にいるペットたちはすぐに動きを止めた。そして、自分の姿を隠すように、ペットたちはケージの奥にあるベッドに戻り、出来る限り体を隠した。
それでも、クッキーから手放さずに揉めているペットたちを見て、ブラックは諦めたように鍵を手にして、扉の錠前を開けて、ブラックはケージの中に入った。
素早くブラックが鎖を手繰り、三人のペットをそれぞれ離した場所に繋いだ後、ブラックはもう一度クッキーを与えた。今度は直接にその手のひらに置いた。
しかし、これ以上はゴメンだという風に、ブラックは素早くケージから出て、扉の錠前をしっかりかけた後、電気を消さないまま、ブラックは地下室から出た。
後ろから聞こえる女性の声を振り切り、ブラックが地下室を出る途端、壁を背にして、ブラックは蹲った。
そして、剥がすようにブラックはパーカーとマスクを外して、彼は大きく咳き込んだ。
パーカーとマスクをつけている時、外見だけで見ると、ブラックはネコ科に見える。
しかし、一気に両方を外すと、衣服に隠されていたのはヒトの姿だった。
そう、ブラックもさっきとペットたちと同じ、ヒトであった。でも、ブラックはペットのヒトと違う。
そもそもこの惑星では、ヒトとドウブツの立場が逆だ。
ドウブツが服を着て、大半は二本足で歩いて、自分の個性を活かした仕事をして、生きている。
そして、ヒトたちは首輪に繋がれていて、頑丈な檻の中に入れられており、綺麗なお洋服を着せられて、金持ちのペットとして飼われているのが大半だ。
この星ではそれが普通であり、ドウブツ達にとって、ヒトが意味の持った言葉を喋る事自体がファンタジーだ。
しかも、この星で生きるヒトは全員『白い肌に黒目黒髪』が特徴だった。
だからなのか、ドウブツが宇宙旅行をして、地球と呼ばれる青い星を見つけたその時、それを大いに珍しがった。そして、その事を知り、金の匂いを感じた連中はヒトを拐う、ヒト拐い という稼業を思い付いた。
案の定、この惑星以外の種である地球のヒトたちは高く売れ、更に中にはドウブツと喋れる個体も稀に存在し、一時『ヒト拐い』という犯罪が盛んとなった。
攫われたヒト達の末路は様々であり、ただの愛玩ペットとして売り捌かれるのはまだマシな方で、見世物、コレクション、挙句に食用として売られる者もいた。そのせいか、用途を問わず、ただ必要なヒトを捕まえて、それを変態な金持ちに売り捌く犯罪者も居た。
実際それを知っているブラック自身も、そういう犯罪者に捕まってしまったヒトだった。
ただ、ブラックは他のヒトよりも早くこの惑星の現状を理解し、長い旅の間で彼は必死にこの世界の言葉を覚えた。
そして、もう元にいる場所へは帰れない事をブラックは理解し、ならばと考えた彼は生き残る方法を探り、ドウブツたちと生きる事を選んだ。
頭をフル回転させて、その星のヒトには成し得ない芸当で、ブラックはなんとか犯罪者の支配から逃れた。
色々あったが、今のブラックはドウブツのような格好をして、匂いと癖を偽って、生きようと必死に考えた末、ブラックは自分の事について、嘘を沢山つくことにした。
自分の生まれ。自分の種。自分の過去。疑われないように、信じてもらえるように、ブラックは元の自分の存在を消した。
このまま進んでいけば、自分はヒトじゃなくなってしまうのをブラックは知っている。
でも、まだ明日も生きていたいと思うから、ブラックは今のように、正体がバレないように、生きている。
この時のブラックはまだ知らなかった。とある出来事をきっかけに、彼の未来は、彼らの未来は大きく変わってしまう事を。