5 魔物生態研究者
ちょっぴりウザいです。
私はヴォルヴォン・ドアン・ヘンリエッケである!これでも貴族の端くれである。
一体生肉を持って何をしているのかだと?
決まっておろう!魔物、今はサビアの生態研究である!
ようやっとこいつの生態がわかったのだぞ。そして効果的な倒し方もな。
まずはサビアとは何かを浅学な諸君に教授しようではないか!
サビアとは俗名であり、実際の学術的な呼び名はサビア・ゲゲア。這いずり回るものという古クリストア語の意味である。
鮮烈な紫の長い体に、黄色い縞模様がいくつか入っており、生き物をそのまま飲み込むおそるべき生き物である!
その生態は地中に生息するためよくわかっていなかったのであるが、最近ようやく解体などで判明したのである。
頭部には、微細な振動で揺れ動くゼリーのようなものが詰まっており、それにつながっている神経が反応して、反射的に地面から飛び出すのである。
どうやって検証したのか、だと?
決まっておろう、自分で彼奴をかっさばいて候補となる器官と胃袋だけをなくしてから、生きたまま地中に埋め戻して、それから食われたのである。後はそれを繰り返せば良い。
……狂っているだと?ふん、何を言うか。きちんと胃は取った後なのだから問題なかろう。人種の将来も考えて私の知識欲を満たしてもいるのだ。救出するための人員もきっちり確保済みであるから問題はない。
人類の叡智の増加に貢献した私に感謝こそすれど、貶めるのは間違いであろう?
そして、その餌は、食べれないとわかっていても消化器官を通り、そして排泄される。生半可な金属ではほとんどが胃で溶けるため、普通に飲んでしまうそうだ。
で、これが最大に知るのが難しかったのだが、駆除の仕方は……塩を土に撒くことである。なに、畑が使えなくなるだと?そんなもの、腰にでも塩をくくりつけて、いざという時にまけばよかろう。
海の近くに生息していないのも、海を越えていった先では出現していないのも、まさにそのせいだと言えよう。海の気を嫌うのであろう!
それ以外にも、くすぐり小鬼チュベリアンの生態についても研究結果が出ているぞ。さあ聞きたいと言え。さすれば教えてやらんこともないぞ。
さあどうした。
そう困った顔をするな、今から懇切丁寧に一から百まで教えてやろうではないか。
……さあ聞くのだ!
は?なんだと、ではギルドの使いで来たというのか?
スニの木だけがかじられていた、と。詳しく見て見なければ完全にはわからんが、十中八九ガフトルムナであろうな。
なに?どんな魔物なのかだと?ふふん、仕方ないな。教えてやろうではないか。
彼奴は丸い体をしていて、柔らかいが切れにくく分厚い緑色の苔のような体毛の中に、非常に硬い骨格と筋肉を持っている。そしてその苔のような体毛が剣の通りを鈍くする。しかも、その血液は他の魔物を呼び寄せやすくするのだ。
うまく移動させるには、周辺のスニの木を全て焼くか、あるいは切るかせねばならんのだが、実際にそれは可能か?
そうであろうな。それを餌にしている魔物はガフトルムナだけではあるが、周辺に生息している生き物でニャーチヘエアという草食動物もいる。それを食らう魔物だっているのだ。迂闊に根こそぎは難しかろう。
なかなかに難しい問題だ。全て減らすか、もしくはしばらくの間押し寄せる魔物を倒すかだが……結構に面倒なことになったものだ。
なに?それごと運搬すればいいと?
奴はああ見えて、ものすごく重たいのだ。おそらく祝福としての魔法陣があろうとなかろうと、人の身では持ち上げることすらできぬだろう。鉄塊を数百個も一気に運べるか?無理であろう。肉体干渉系の祝福でも、ここまで強力にはなり得ないからな。
さて、では私もギルドへと赴くことにしようか。
供などいらぬ。緊急であろう、それに貴様がおるではないか。
……ぜぇっ、はぁっ……な、なにぃ?せ、背負いますか、だとぉ?ゼェ……いらぬ!私は私自身の足でギルドにたどり着く……!
な、何をする。やめろ、下ろせ!!
私を下ろすのだー!!
——それではギルドの職員諸君。非常に面倒な事態になっているようだな。
そうか、やはりスニの木だけが。植物学者のヘンレイアがか?ならば信用はできるな。あいつは植物のこと以外に関しては人間的にクズだが、植物についてなら私と同じ狂人だ。それは共感できよう。
ギルドも全くしち面倒臭い人物ばかりよく集めるものだ。
たまたまです、だと?ヘンレイアなどを雇った時点でたまたまなどあり得なかろう。
ガフトルムナを倒す、か。なるべく影響が街に出ないよう、大量のスニの木で山中深くまでおびき寄せてから、殺すと。
ふむ、完全にスニの木を排除してしまうよりはいいな。
倒すのは一体誰がするのだ?剣も通りにくいのだろう?
ほお、そのような便利な祝福があったのか。私もその祝福さえあれば……まあなんでもよかろう。
そのセディアとかいう冒険者に指名依頼を出して、早急にその作戦を遂行すればいいだろう。
ああ一つ忠告しておくが、ガフトルムナは一度転がりだすとスニの木がある場所まで加速度的にスピードが上がるのでな。
先にセディアとやらを山に待機させ、足が速い者をスニの運搬役として連れて行くべきであろう。
スピードの上がり方はゆっくりだが、途中で受け渡しの人員も作った方がよかろう。街にほとんど影響が出ないよう山の奥深くまで連れて行くとなれば、相当に距離もあるし一人二人では疲労がたまる。
それに追ってくる相手は、どんどんと加速してくるのだ。なるべく祝福持ちを呼ぶべきであろうな。
なに、礼には及ばん。
かねてより研究したかった素材の提供があるのだからな。
は?ガフトルムナの毛皮をどうするのかだと?決まっておろう、それをすっぱり切れるような魔剣を作ればいいのだろう。今度こう言うことがあった場合に困るから、できるだけ多く頼むぞ。
と言うわけで、今季の研究費用はもう三割上げてはくれぬか?
……一割五分か……うう、仕方がないな。では、一割五分でよかろう!
我の研究に興味がありそうなそこの少年!
研究室はいつでも君を歓迎しているぞ!ふはっ、ふははははははははっゲホゲホグェホッ……。
お読みくださりありがとうございました!