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10 冒険者

外堀うめうめ

俺の名前は、セディア。前は姓があったけど、今はもう父さんが死んで、俺は孤児の扱いになった。引き取り手はいなかったから、自分で固定市民のための税金を稼ぐよりは、と今まで住んでいた場所を引き払って金にして、その地を離れた。


俺がなろうとしたのは、まずは冒険者だった。でも、登録をするためには、中心の冒険者協会って場所に行かなきゃいけない。

なんども迷いながら、ようやくたどり着いた時にはすでに旅立ってから一年が経っていて、なんども出くわした魔物を倒して進んできたため、売れるものもそこそこある状態になっていた。


正直に言って、辛いとかきついとか言ってる場合でもなかった。


協会に行って登録をしてみれば、自分の知らない人であふれていて、壁際にずらりと並んだ目つきの悪いガタイのいい男達にびっくりするほどに怖気付いた。なんだかよくわからないままに登録を終えて、そしてようやく落ち着きを取り戻してきた。


よくよく考えてみれば、自分と同じくらいの子供も出入りしている。あんまりにも恐ろしいところに見えた場所が、それ相応のものに思えてきた。


まずは、何をするかと悩み始めたが、ふと気づいた。


この辺りの地理なんて頭に入っていないし、そうでなくても迷いやすいのに、俺は果たしてこの街に帰ってくることができるのだろうか、と。

父さんがよく言っていた。

「その場所のことは、その場所をよく知っている人に聞け」と。


俺は質問を受け付けるカウンターの前に並び、順番を待つ。そして、少し歳を食っているおばさんのところに行き、そういう案内人がいないかどうかを尋ねると快く教えてくれた。


どうやら威圧の原因になっていた壁際に並んで座っている人たちが、運び屋という職業をしていて、それによって稼いでいること。

そして彼らは案内人のような役割も果たしており、冒険者をやってほしいくらいの腕前と知識だそうだ。


俺は父さんに教えてもらったように目が合った人物に寄って行った。短髪の真っ赤な髪に、巻かれた布から丸太のような腕に入った複雑怪奇な紋様が覗く。顔は恐ろしくもあるが、笑ったら愛嬌とかがありそうな、親しみやすい感じが出ていた。


名前はダズウォークさん。彼に声をかけて、それから共にくすぐり小鬼の討伐に向かった。色々とハプニングはあったけれど、とにかくこの間にもらった教訓は、「力なき正義の主張は、無駄死にになる」ということだ。俺は今までそこそこのやつを倒してきて、狭い世界でやってきたけれど、実際に倒せる敵なんて、たかが知れていた。


俺はこの時から、毎日の鍛錬としっかりした休息を欠かすことはなくなった。


そして、ある程度の金が貯まったときに、ダズウォークさんが神殿へと連れて行ってくれた。縁のない祝福を受けるためであったが、妙に神官が興奮していた。俺としては肉体干渉系——自分の体に強化を施す方が断然良かったのに、とブツブツ帰りしな呟いていたら、ダズウォークさんにチョップをいただいた。


ぐう、痛い。死ぬかと思った。しかも舌を噛みかけたし。


彼もまたそう思っていたが、今はそれが逆に良かったという。そんな祝福をもらっていたら、能力にかまけて鍛錬をサボりここまでの腕にはなれなかった、と語る。

「だからな、これはこれでいいんだよ。お前だって、そうだろ」

「……そう、ですね」


それからしばらくして、前に報告していたスニの木が妙に食われていた件に関して大変な事実が判明していた。

ガフトルムナという、魔物がいるだろうという予想。そして、その魔物を倒すと、今度はその血が大量の魔物を呼び込むだろうということ。


それが判明するなり、俺のところに指名依頼がきて、俺の召集が決定した。理由は簡単、剣ではガフトルムナの毛は切りにくく、その下にある筋肉の層はもっと切りづらい。しかし、俺の祝福があれば、毛をある程度払った後一撃で仕留めることも夢ではない。

今回の件では、祝福に素直に感謝できる。


スニの木をかき集めて香りで誘い、山の中におびき寄せてそれから殺した。その作戦はうまく行って、俺も大満足だった——そのあとにその血の効力を自らの身で確かめるまでは。


最初はチュベリアンとかの弱い魔物だったけれど、だんだんと甲殻を持っていたり硬い皮膚であったり、馬鹿力を持っている魔物が押し寄せてきて、俺は疲弊しきった体で携帯食を口に放り込みながら、水も加えて一気に噛んで飲み干して、戦線へと戻る。


おおよそ二日間、ほとんど休みなしに動き切った結果……一日は完全に動くことすらできなくなった。そして、そのあたりの血の匂いに沈みながら、俺はなんとか生き残ったことを実感した。


その二日で終わるはずだったそれは、実に最悪な生き物を呼び寄せていた。

センベトーデ。

ダームトーデの上位種で、非常に硬い外骨格と、長く自由自在な節が連なった体、それぞれの節に2本ずつくっついた鋭利な部分を持つ脚。そして、毒腺から分泌される毒を垂らしながら、きちきちと鳴いている、白い頭部に赤く光る複眼。


俺は最近の活躍で、油断していた。

どこかで、どんな獲物でも狩れると油断していたんじゃないか?

だから今回のダンジョンへのダズウォークさんの付き添いも断った。上層だから、と油断していた。


ガフトルムナの血に呼び寄せられて、ダンジョンの上層まで上がってきていた魔物がその場にとどまっていたなんて、予想すらできなかった。最悪を考えて行動しても、余裕で生き残れる気がしていた。


横腹を抉られながら、結局祝福を出し惜しみするような相手だったとやつを侮ったのが敗因だった。

短い人生だったな、そうやって上を見上げていたら、急に腹に激痛が走った。

「っ!?」

もがき苦しみたいが、ゆさゆさと揺すぶられて腹を洗われるような痛みに、声すら出せずにいた。


気づけば、口の中にえぐい味のする薬液を流し込まれていて、朦朧とした意識がはっきりと戻ってきた。

目の前には、じいさんがいた。


金を要求されたが、早くあれを倒さねばと気が急いて、袋から金をつかみ出してその掌の上にばらまくと走り出す。

制止のような声が聞こえた気もするが、構ってられない。それに命の対価として幾らか払ったって、どうでもいい。こんなことを言っているから、また金を失うんだと怒られそうだな。


今雇っている奴隷の顔を思い浮かべながら、溜息をついて走り続ける。センベトーデの短い脚が、光の中に消えていくのが見えた。出て行こうとしているのだ、ダンジョンから。俺は剣に祝福の効果を込めて、ずっと引き出されるような感覚を味わいながら、その横っ腹に突き立てて、走り抜けるように切り裂いた。


びしゃびしゃ、と吹き出した紫色の血液が、俺に降りかかる。脚がその場所をえぐったが、察して飛び退くとまた祝福の魔法陣に力を込める。剣を構えて、その鋭い脚を切り飛ばしながら、俺はその首を取ろうと走り抜ける。

切断した——そんな手応えがあったとともに、激痛が走った。


腹が、痛む。


さっきまで穴を開けられるくらいには破かれていたそれだ。こんな無茶苦茶な動きについていけるわけもなかった。


地面に叩きつけられながら叫ぶと、奴隷のマオが駆け寄ってきた。

「セディアさん!」

声も出せずに、俺はその言葉を聞き、気を失った。


気づけば、そこにはマオの姿が見えた。

「ま…お、さん?」

「はい。ご無事で何よりです」

「怪我、ありませんか……?」

そう言ったら何かまずいものでも食べたような顔をされた。

これよりだいぶ後に知ったけど、奴隷とは他人の世話をするために存在しているもので、彼らの仕事こそそれであり、実際に頼ってもらわねば仕事ができない。甘やかすことは、奴隷自身のためにはならないのだと。


俺の待遇の良さは、逆にマオにとっては良くない、居心地の悪い環境だったようで、奴隷斡旋をするユスティーネさんから笑顔でキリキリと絞られた。


そんなこんなで、ダズウォークさんの付き添いの重大さと一緒に潜る相手を探すことも考えていたのだけれど、受付のパム族の人に聞いてみたら、そういう人を斡旋するのもギルドの仕事らしい。


実際にギルドはすごく大変だと思う。あっちこっちで働いて、しかも細かい調整までしているんだから。


紹介されたのは、エルティという名前に似合わずごつい男だった。祝福は持っていないが、酒好きで女好きを除けば、良く働いてくれるという。


俺は彼とも良く話し合い、ダズウォークさんに勧められたンフ族の交渉での護衛についていくことになった。これは、一見大変そうに見えるが、騎士団がいるからほとんどの任務は任せることができる楽な依頼だそうだ。

初めて護衛依頼を受ける人に向いているという。俺達は快くそれを受けて、景気付けに飲み始めた。


だが、そこで問題が起きた。


エルティが酒を飲み始めて、酔っていくうちに支離滅裂なことを口走り、店員の女性を口説き始めたのだ。俺は慌ててエルティをなだめた……というか意識を飛ばした。なんとか助かったが、これは彼に飲ませちゃいけないと心底おののいた。


しかし、それはダメだった。


酒好きに酒を呑ませないのは、難しい。宿屋で待機しているよううに言っておいたはずなのに、匂いで嗅ぎつけ、もてなしの席だからと飲み始めれば、もう止まらない。俺が気付いた時には、もう三本の強い酒を空けていて、空の瓶とともに、へべれけになったエルティが転がっていた。宿に向かってもう寝る、と言い出した。


信じきれなかった俺はそれを追いかけて、それから少女を襲っているのを見て、愕然とした。


あの陽気だった姿も、こうなってしまってはもう信用できはしない。訴えがなかっただけで、実際はこういうことを他にもしていたのかもしれない。

気配りはできても、自制心がない。


「……は、はぁっ」

「んぐっ!んぐうううう!」

声を出そうと必死な彼女に、急激に心が凍りつくような気がした。裏切られた。そんな思いでいっぱいだった。

いや、そうではない。それだけでは、ない。

御しきれなかった自分にも、腹が立っていた。


魔道具研究をしている男から預かった剣に魔力を流し込めば、刀身が熱せられていく。

構わず俺はそれをエルティに向かって、振り下ろした。


「ぐぁっ!?ぐあああああああああ!!」

痛みで叫ぶその男の土手っ腹を突いて、動けなくする。と、ざり、という音が聞こえてきた。腰を抜かしていた彼女が、立ち上がったのだ。そして、一目散に駆け出していった。


「ぁ、」

声をかけようとしたが、服が破けている。まあ、逃げて妥当だろう。俺はそっとため息をついた。


……はずなんだが、今俺の右手には、その彼女……名前はフフンが、ぶら下がっている。

「セディア!好き!」

「ぁ、あぁ、うん。俺も」

「そうか!」

上機嫌であるこのンフ族の少女を押し付けられて、しかもその子がびっくりするほど力持ちで、ダンジョンに一緒に潜ったりする仲になり、死にかけながら大きい獲物を狩ったりして『殲滅夫婦』なんて変な二つ名がついたり、婚姻関係を結んだことにされていつの間にやら外堀までぎっちり埋められるとか、この後の俺は何にも知らずに彼女の隣でニコニコしていたりして。


実際フフンは俺に群がる女性達を牽制しまくって、二つ名はギルドに広めるよう職員に袖の下を渡していたり、ダズウォークさんに頼んで俺とフフンの睦まじさをアピールしたりするのに架空のエピソードを入れてくれと頼んでいたようだ。

ついこの間宿のニナちゃんから聞いて初めて知った。


まあなんだ。


英雄も、そう大して楽なものじゃないからな。マジで。

特に奥さんが強いと、こういうことになりかねないからな。

お読みいただきありがとうございました。

こんなん読む人いるのかなと思い、ストーリーガバガバだったので、昨日時点で累計四百人も読んでいてびっくりしました。ブクマもつきましたし。

そろそろ異世界ものだけじゃなく、現実世界のものも書きたいなあと思います。


ひとまずは完結できて、嬉しいです。

本当にありがとうございました!

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