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えぴろーぐ

狭い、小さい、暑い、寒い、痛い、気持ちいい。他には何があったかな。いろんなことを言い合ったこのベッドだけど、今の感想は、少し大きくて、少しだけ気持ち悪かった。


「ぁ……」


「どうかした?」


よぼよぼの老体を抱きしめるように、もとい抱きついてベッドに潜り込んでいるあたしは、小学生時代そのままの容姿だった。不老不死って、そういうことなのね…。人として生きることを願ったあたしは、たぶん子供が産めたはず。っていうか試した。倫理とかそういうのは知らない。でも生まれなかった。宿らなかった。あたしが未熟だから? でもあたしは死なない。数え切れないほど繰り返したら、きっと届くはず。そう思って繰り返したけど、やっぱり宿らなかった。


「ぁ……う……」


「んー? なになに? お前はいつでも可愛いな?」


「……」


たぶん原因はこいつ。やっぱりね、とか言ってたし、きっとこれまでもそうだったんだと思う。言わないけど。まぁ子供がいたらいたで面倒だし。主にあたしの存在が。戸籍ないし、見た目幼いし。気持ちよかったから繰り返した。そう思い込んでおこう。


「何? 違うの? 殺すわよ」


数少ない例外を除き、生物っていうのは、老い衰える。それは先輩だって逆らえない定義みたいなもの。入院はしないって言ってたから尊重してるだけで、最期の時はすぐそこに迫っていた。


「……ぁ、ぃ……」


「でしょ? 感謝しなさいよ」


でも悲しい気持ちにはならなかった。むしろ嬉しい。苦しむ姿を、当分は見なくて済むから。殺してあげればよかったかもしれないけど、殺されて終わる記憶なんか思い出にはしたくなかった。


「……」


得意げに自分の容姿を褒めちぎるあたしに、もう声の出せない先輩は微笑んでくれた。そこまで可愛いわけじゃないのに。まるでおじいちゃんと孫娘みたいね。そんなことを考えていると、先輩の目尻が脱力したのがわかった。微笑みは崩され、穏やかな表情になる。

……一応最期なんだし、気の利いたセリフでも言ってあげればよかったかな。でも次会った時に反芻されて鬱陶しいかもしれないから、言わなくてよかった。ベッドから降り、残っていた最後の一つを願う。正直な話、些細なことでも願わないように必死で、今回はそこまで楽しくなかった。楽しくないわけじゃなかったけど。でも次は最初から全開だから、もっと楽しくなるはず。だからあたしは、一つだけ願いを叶える力を得たあたしは願う。ずっと先輩と一緒にいられますように。

次はどうやって会えるかな。今回は先輩が年上設定で偉そうにしてきたから、次はあたしがお姉さんになって偉そうにしてやろうかな。同級生も捨てがたいけど……。まぁ、いつどのタイミングで会えるかもわからないし、会ってからのお楽しみね。


「じゃ、お休み」


区切りの言葉を投げかけて、先輩だったものを山本家の一人として供養するための方法へと考えを移すことにした。





いつからだったんだろう。数えるのをやめちゃったのは。ただ単に忘れて狂っただけなのか、それとも別の理由なのか、それもわからない。でも、それはずっと続けていたことだった。

目を開けると広がっている真っ赤な世界。見るたびに心が沈んでいく景色は、いつからあたしだけのものになってしまったのかもわからなかった。

今も昔もきっとこれからも、空だけは変わらないって言ってたのに。嘘つき。でも罵倒はできない。現に変わってしまったこの世界を、先輩は見れていないから。

そしてきっとこれからも、先輩がこの空を見ることはできない。世界が終わる瞬間に立ち会うあたしだからわかることだけど。

楽しかったよ、って。嬉しかったよ、って。そういえば、一回も言ってなかったかな。この期に及んで苦笑いをしたとして、何かが変わるわけでもないのに。

それに、もっと大事なことをすらも言っていない。あれが最後だってわかってたら絶対に言っていたはずの、絶対に言わなくちゃダメだったはずの言葉。

……そんな言葉すら伝えなかったなんて、バカね、あたし。ごめんね。代わりにはならないかもしれないけど、あたしはこれから、永遠に続く苦しみを味わいに行くから。


「好きだよ。……大好きだったよ」


思わず口に出しちゃった言葉を最後に、あたしは考えるのをやめることにした。

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