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じゅういち

「今日さー、出会い頭にゴブリンと遭遇しちゃったんだけどねー」


「嘘! 偶然偶然! わたしも見た! 傷だらけじゃなかった?」


「あっ、それそれー! ゆきちゃん何時くらいに見たー?」


「来る途中だから……8時くらいかな?」


「うっそ! 私もそれ! なんかー、魔法使いばどごだー……とか、めっちゃ声掠れててさー」


「そっくりじゃん! ……えっ、もしかして二体いる!?」


「……やっばーーーい!! いっちゃんやばい! 人類滅亡しちゃうよ!?」


「いや、しほっ、まだ慌てるのは早いよっ! 魔法使いを探してるなら、魔法使いをわたしたちも探してあげればいいじゃん! ねっ、いっちゃん!」


「……そうね」


四人で机を向かい合わせにするのは、図工の時間。あたしたちは白いキャンバスを抱え込むように持っていた。おしゃべりに興じながらも、しほちゃんとゆきちゃんの手は止まらない。しほちゃんはいっちゃんの、ゆきちゃんはあたしの顔を思うがままに描き続けている。


「ねぇ、どうしたの? 調子でも悪いの?」


対して、あたしといっちゃんはあまり進んでいなかった。あたしが、いっちゃんの絵の具を使わせてもらっていたから。


「平和だなー……って思って」


しほちゃんとゆきちゃんの会話は、当然のように嘘八百。よく噛み合うわね。見習いたい。世界は平和そのものだった。あたしを除いては。


「あれでしょあんた、先輩と心を通わせたから、やる気なくなったんでしょ?」


「よく知ってるじゃない」


「……やっぱ否定しなくなってる!?」


あながち間違いでもないし。いちいち返事が面倒ってのもあるけど。今日返ってきたテストは86点だった。ちなみに、崎谷さんは百点だったみたい。あたしのノーミスにノーミスで返し続けるのは難しかったかもしれないけど、十分すごいじゃない。


「で、絵の具を忘れた、と」


ニヤニヤしながら言ってくるゆきちゃん。何を考えてるのかわからない。しほちゃんかいっちゃんならまだしも、ゆきちゃんってところがほんとにわからない。でも前の話を考えると、憤って……たの? わからないけど、知ってるなら探してくれるくらいはしてくれるはず。だからきっとわからない。あたしが絵の具を持ってきてたことは、きっとわかってない。


「あいつのことで頭いっぱいなのよ」


「あなたも何がどうしてそうなるの……?」


「昨日なんかあったんじゃないのー?」


「まぁ……家に行って、なんか、抱きつかれたけど」


「うっわ、両想いじゃん!!」


「不都合でもある?」


「……お幸せに、って感じー」


そう答えたしほちゃんを筆頭に、うなづくいっちゃんとゆきちゃんも、声はずっと大きかった。恥ずかしさとか、ひそひそ声が聞こえてくるのはちょっと変な気分になるけど、でもそれでよかった。もっと大きな声を出してほしかったくらい。ちらっと見た後ろ姿は何も変わりのないものだったけど、あとはただ待つだけのこと。……使えるのはあと20回くらいだから、なるべくなら早い方がいいな。





「あれ、もしかして傘忘れた?」


下足室で腕組みをして立ち尽くしていたあたしに掛けられた声は、あや先輩のものだった。この人なんでまだ小学校に来てるのよ。って思ったけど、傘を二つ持ってたから、何も言わないことにした。


「そうね」


「あはは、おバカちゃんっ」


「……それあいつの分じゃないの?」


罵倒するなって言う気はないけど、平等ではいてほしかった。バカじゃない、あいつ。朝から雨降ってたのに。


「あ、これ? あれだよ、口実だよ。こうでもしないと、泥棒猫って思われちゃうからね〜」


「……思わないわよ……」


あや先輩は変わっちゃった。わくわくランドでひそひそと話すあたしと先輩を見て、どう感じてしまったのか。ま、面倒じゃなくなったからいいんだけど。


「ゆーちゃんは?」


「来ないわね。あたしも待ってたけど」


「え? なんで?」


「家の方向同じなのよ」


言ってなかった? っていうかあいつも言っときなさいよ。あたしの話題とか、あや先輩といる時に出てこなかったの?


「ならあたしと帰る?」


「……遠いわよ」


校門を出て、右か左に曲がるって意味だと同じ方角だけど。ためらった理由はそれだけじゃない。無条件で向けてくれる好意に、家を見られたくないって理由で断るのが、少しだけ申し訳なかった。


「お姉様を甘く見ないの! 待ってて、ゆーちゃんの靴箱に、これを……」


だから押し切られる。某先輩の時は全力で拒否してたんだけど。今でも拒否するけど。いざとなったら催眠術使えばいいし。だって、カップラーメンを食べるって言っただけで親から引き離そうとする人なのに、そもそも親がいないなんて知ったら、どんなことになるかわからないし。


「ん? あれ?」


迷わずあいつの靴箱に向かうあや先輩。なんで知ってるのよ……。そう言おうとしたけど、戸惑った声に邪魔をされた。


「何よ」


「誰か入れてあるよ」


「……え、あたしの傘なんだけど」


言い終わったあたしは口を押さえていた。ちょっと、これ……どういう意味にとられるか、想像つかないんだけど!? 自分で考えてもわけわからないし、そもそもなんであたしの傘がここにあるの!?


「……はっはーん」


「……はい?」


「お邪魔しちゃったかなー?」


……あたし、傘盗られてたのよ。って言っても、これで3本目だけど。って言えたら、少しは楽になれたのかな。なる気ないけど。


「いや、似てるなって思って……。……ここにあったらあいつ泥棒じゃない」


「あなたが入れたんじゃないの?」


「直接渡すわよ……」


あや先輩の言ってる通りだとすると、あたし頭おかしいじゃない。どんなシチュエーション重視よ。まぁ、それでうやむやにできたのならよかったけど。これからは気をつけよう。気を遣わせないように。そして気付かれないように。


「ふーん。まぁいいや」


目を細めた思わせぶりな相槌のあとに、突然投げやりになったあや先輩は、赤と青のうち青い方の傘をあいつの靴箱に投げ込むと、あたしの手を取って歩き始めた。


「……え?」


「え?」


「いや……あれで?」


「うん。仕方ないでしょ、遅くなるなら」


……いや、あや先輩がいいならあたしはいいけど。なんか変にドライね。あいつ意味わかんないでしょ。見知らぬ傘が一つとあや先輩の傘が一つ、自分の靴箱に放り込まれてたら。


「あーあ、ついにゆーちゃん取られちゃったかー」


「惜しいなら返すわよ」


「あはは、嘘嘘。行き遅れた姉の気持ちだから」


「なんで彼女とか言ったの?」


並んで歩くあたしとあや先輩。って言っても、先輩って言っても小さいあや先輩と並んだら包まれるようなことはない。二人平等に右と左の肩を濡らしている。


「え? 面白くなるかなーって思って」


「姉弟そのものね」


意味不明な点が特にね。


「でもでも、結局よかったでしょ。あたしたちといるよりはよかったんだよ」


「あれだけ喧嘩してたらそりゃそうでしょ」


「んー……喧嘩じゃなくて、ボケとツッコミなんだけど……」


「……はぁ!?」


「いやー、ゆーちゃんって、最初、すっごく暗かったんだよね」


ツッコミって、声もなくボケすらない状況で痛め続けてただけじゃない。なんで某先輩あや先輩の隣にいるんだろう、そういう趣味の人なのかな、とか思ってたけど、もしかして互いにそう認識して……どっちにしろ変態じゃない!!


「今もじゃない」


「あたしね、山本のおばさんとうちのお母さんが仲良いから、ゆーちゃんのこと生まれる前から知ってるんだよ」


「……へー」


突然身の上話を始めたあや先輩。適当に返事をしておくけど、内心はガッツポーズを浮かべる。あたしが今一番知りたいことだったから。


「今もあんまり笑わないけど、すごかったんだよ。泣かないし、抱っこしてもあやしても笑わないし」


「ふーん」


でしょうね。やっぱりあいつは、言わないままに全部否定してた。バカね。月日を重ねても中身は年相応じゃない。


「っていうかあや先輩お姉ちゃんみたいね」


「あーっ! 人の話聞いてないー!」


「聞いてるからそう思ったのよ……」


「みたいじゃなくてお姉ちゃん! おむつも替えてあげたし、寝る前に本も読んであげたし、おんぶも抱っこもしてあげたし!」


屈辱だったでしょうね。口には出さないけど。あいつに言わせてみれば罪悪感か。でも話してるあや先輩を見る限り、感じる必要なんかなさそうだけど。すごく嬉しそうだし。


「あぁ、はいはい」


「やっぱり聞いてないー!」


「で? まさかあの先輩にツッコミを入れたら笑ってくれて、それがエスカレートしてきたのが今、とか言わないわよね」


ぷんぷんって感じで怒ってたあや先輩の表情は、きょとんって目を見開いたものに変わった。……いや、話の流れ考えたら想像できることでしょ。


「笑ったのがネタの方だって思わなかったの?」


バカばっかりね。そう考えてたら、少し棘のある言い方になった。やばい。そう思った時には、あや先輩の表情が変わっていた。


「思ったよ」


一回だけ向けられたことがあった。某先輩と接する時みたいに、冷たいような、突き刺さるような空気のあや先輩。やっぱり、ほわほわした笑顔は作ってたの?


「バカね」


「仕方ないよ。だって11年過ごしてきて、あたしにはそれしか成果ないし」


……違う。寂しそうに笑ったあや先輩が何を考えているか、もうあたしにはわからないけど、あたしの考えが違ってたってことは、なんとなく理解できた。


「でもあなたは数週間だからね」


「え、何? 見極めてたつもりだったの?」


「そうだよ」


……不器用すぎ! むしろヘタクソ!! あたしその気なかったから譲ってあげようとしてたし! ……まぁ、今もその気があるかって聞かれたら、たぶんないんだと思う。あいつが罪だと思ってるのを甘んじて受け入れてるのと、少しだけ似てるかな?


「お願いしちゃっても、いいかな?」


何が? って聞く必要すらないくらい、あたしはあや先輩と関係を深めてたっけ? 深めてない。まだ、現時点では。


「任せなさい」


今はまだあいつ絡みで繋がってる関係だけど、あたしとあや先輩、二人だけで笑いあえる仲になるのもいいかもしれない。いや、きっとなれる。だから、少し悲しかった。あや先輩の気持ちを踏みにじってしまうことが。

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